陸斗は異能を使わなかったのではなく
「うーん・・・確かにその発想はなかったです
ただただ紗希に異能が発現しないのは紗希の能力不足のせい、という考えを先行させてしまっていました」
「そういえば、ラボで検査とか受けたら異能の発動条件とはわかったりするのか」
「いや、どうなんでしょう、人によると思いますね
異能はまだまだ解明されていない部分が多いので
あたしの異能の発現条件はラボも把握していますが、
そもそもデバイスは使えるようになっても、どんな異能を持っているのかすら分からない、という人は一定数いるのが現実です。」
「雪峰自身がラボで細かく検査したのか」
「異能そのものは発現しているので検査自体はしているとは思いますが・・・
私の知る限り、異能をより強くするための的確なアドバイスはラボからはもらえていないです」
「まあ、それが出来たらもう既にやってるもんなあ
それとあともう一つ」
「何ですか?」
「陸斗に襲われた昨日、犬が来てからは彼奴一度も異能でこっちを攻撃してこなかっただろ」
「確かに言われてみるとそうですね」
「俺はあいつの性格を中学の頃から知ってるけどいくら犬が苦手だって言ってもその気になったら犬ぐらい殺すような性格だからな彼奴
まあ、それは言い過ぎにしてもある程度の電撃をぶつけて、犬が逃げるように誘導するぐらいはしてもおかしくなかったはずだ
それでも、奴は異能を使わなかった」
「あの時の山懸さんは暴走しそうな異能を押さえつけようとしているように見えましたね。」
「まあ・・・これはあくまで仮説だけど
あのタイミングでおそらく陸斗は異能を使わなかったのではなく使えなかったんだ
なぜなら異能が制御できずに暴走して、予期せぬ被害が出てしまう可能性があったから」
「予期せぬ被害というのは」
「例えば電撃の制御ができずに暴走して俺が彼奴の電撃もろに食らって死ぬとかな」
「ええ!
もしそんなことになったらショックで私も死にます!」
驚いた西條が思わず机をたたいていた。
何を想像したのか知らないかが俺の死でこんなかわいい子が悲しんでもらえるのは本当に幸せだ。
「いや冗談だよ・・・
兎に角五校の顔である生徒会長が野良で異能を暴走させて他校の生徒に危害や大怪我を加えようもんならそれこそ大問題だ。
いくら研究所が盾になるっていっても限度があるだろうしな」
「ですね、でもどうして黄輝の会長さんは異能は暴走しそうになったのでしょうか」
「・・・推測だが異能は精神的に揺さぶりを掛けられると自分で100%制御するていうのが難しくなるんじゃないのかなと思ったんだ
しかもあいつあの時クローサーもつけてなかったから尚更異能の制御は難しかっただろうしな」
そして、この仮説が正しいのなら昨日の陸斗はクローサーをつけていなかったからピンチだったんじゃなくてある意味クローサーがなかったから助かったところが大いにあったんだろうなんて今更思う。
「なるほど・・・
あの電撃食らった時には本気で死ぬかと思いましたが、あれもある意味ではそれなりに制御されたうえでの一撃だったと。」
「そう、でも苦手な犬が来たことで精神的に不安定になってしまった。
それから次が、始業式の則武さんの生徒会襲撃
あの時も則武さんは西條の攻撃をいなす程度の攻撃でよかったはずなのに
結局、感情が高ぶって異能が暴走したんだよな?」
「ですね、まあ思い返すとその大きな要因は売り言葉に買い言葉で出たあたしの失言だったんだと思いますけど」
「ちなみにそのときに西條はなんて言ったんだ?」
「それも・・・黙秘・・・です・・・」
「・・・・・・」
西條のやつ今日なんか黙秘多くないか?
俺の核心を突いた質問は大概スルーされてしまったような気がする。
不満に思った俺は、あえて何の返事もすることなく何となくジト目で西條を見つめてみることにした。
若干キョどった西條はごまかすつもりなのか髪をいじった後にマグカップに入った飲み物を飲んでいた。
「・・・ごめんなさい!」
しかし、間が持たなかったのだろう。
結局は根負けして俺に頭を下げながら謝罪していた。
まあ、そこまで言いたくないのなら俺も鬼ではないのでもう流してやるか。
「はいはい、ま、いいや
兎に角その結果則武さんはクローサーを壊して生徒会室を燃やすぐらいの暴走を起こした。
てことはあの時は衝撃がでかすぎて何も考えられなかったけど、今から改めて考えてみるとあれも精神的な不安定さが暴走した異能力の主な原因のような気がするんだよ」
「・・・なんだか聞けば聞くほどその通りのような気がしてきました。
その発想はあたしもなかったし、もしかしたら紗希ももってないかもですね
あたしたち異能を上げるためには努力をして自分の能力を上げるしかないとしか思ってこなかったので・・・
目から鱗とはこのことです。」
「2人とも、メンタル的な要素が異能の出力に影響を及ぼしてる。
つまり雪峰の異能が既に出現している現状で今やるべきなのはこれ以上勉強することではなくて
メンタル的な障害を取り除くことなんじゃないんかなって思ったってこと」
「じゃあ、具体的には紗希にとって一体何が必要で、何を改善させればいいのですか?」
「まあ、それが分かったらこんな苦労してないわな・・・」
目を輝かせて俺を見つめてくれる西條には悪いけど俺もまだそこまでの答えは見つけれてないんだよなあ
則武さんも陸斗もダメってなると・・・
頼れそうなのは後は・・・未央とかか?
とはいえ、未央も同じ立場だしな、どうだろうな・・・
青月の会長の異能発現に協力してくれなんて言ったところで首を縦に振るわけないか。
「俺も別に今まで異能について研究してきたわけでもないし、詳しくもないからただの想像でここまでモノを言ってるだけなんだけどな
ただ、人外みたいな異能を持っていたとしても、その器は俺らと同じ高校生、それなら精神って結構左右されそうな要素のような気がするんだよなあ
そう思ったからネットで過去の事例がないか調べてみようと思ってこうしてパソコン出してきたってわけ」
「はえー、すごいです!流石は想ですね!
分かりました!なら今日は私も想の調べものに付き合います!」
まあ、正直言えば西條のスパルタ教育を回避したいていうのが理由の65%ぐらいを占めているような気もしないでもないが今回は黙っておこう。
異能に関して特にツテもないからこの仮説を確かめる手段はなかった。
陸斗含め中学時代の有力者とはほぼ縁切れてるしな
ただ、それでもネットや図書館へ行けばある程度知識は集めれる筈だ
少しでも雪峰さんに返してあげるものができればいいし
一番はあの子の凄まじいであろうプレッシャーを少しでも軽くすること、なんだろうけどな
そのために俺ができることはなんなんだろうか
できることなら、昨日の生徒会室で彼女が見せた切なげな表情をもう二度と見なくて済むように
そんなことを考えているといつの間にか俺は思案の海に沈んでいた。