雪峰がどうすればA判定になるのか
「まあ私も勉強不足で今回改めて知ったことがたくさんあったのだけどね
ただ、それでも山縣君の本当の目的は結局やはりわからなかったわ
他校のB判定を早めに倒しておくことで五校祭を有利に進めたかったのかもしれないし
彼の父親の研究のためにデータを集めたかったのかもしれない
いづれにせよ真相は闇の中だわ」
「俺らがここで予想してもなかなか正解にはたどり着けないかもな」
「彼の目的は分からないままだけど
あんな強力なクローサーを持っていた時点で、彼自身だけの意志でやっているわけではない気がするのよね」
「バックがいるってことか?」
「勿論、彼が父親の会社からあのクローサーを盗んで私に着けようとしたのかもしれないけど
もしそれが成功したら一発で大人にばれてしまうわけだからその線は薄い気がしてね。
一体何が目的なのかはっきりは分からないのだけどね
今のところわかるのはこのあたりまで
・・・と、そろそろ職員室に行かないと」
部屋の時計を見た雪峰がマグカップに入った紅茶を飲み干すと立ち上がった。
「何かあるんですか・・・?」
「さっきもいったけど異能力者狩りの件で今日も生徒代表として職員会議に参加しないといけなくなってしまったから、そろそろ行かないといけないのごめんなさい
一応もう一度山縣君の話はしておこうと思うわ」
「そうですか、頑張ってきてくださいね!
絶対あの人にはやり返してやりましょう!」
「ふふ、そうねありがと
じゃあ、柊、千織のことよろしくね」
「いやいや!私が柊のこと見てるんです!」
「はいはい、それじゃあね」
いつもの穏やかな笑顔で俺たちに手を振った雪峰は言いながら後ろ手で生徒会室のドアを閉めた。
職員室へ向かった雪峰がいなくなったことで部屋には俺と西條のみが残される。
西條と部屋に二人きり・・・これからこの部屋で起こることは一つしかなかった。
「さて、柊
紗希も行ってしまったことですし、じゃあそろそろ勉強でも・・・」
まあそうなるよな。
西條と二人きり、しかも生徒会室でなんてやることは決まってる。
西條先生のマンツーマンのスパルタレッスンだろう。
昨日あんだけボロボロになったのに一日たったらもうほとんどまた通りだもんな。
華奢な見た目に似合わないぐらいの回復スピードには素直に感心する。
ただ、正直ここ最近は西條にはビシバシ鍛えられているので完全に食傷気味だ。
どうにかして回避したい。一秒でも長く勉強しない時間を延ばしたい。
「あ、いや勉強・・・してもいいんだけど」
「・・・柊?さっきから何をしているのですか?」
「いや、ちょっと考え事をな」
言いながら俺は生徒会室にあったノートパソコンをとってきて自分の机に置き、電源をつなぎ机の上に置いた。
動機のうち30%くらいは不純だったけど、今日は勉強ではなく今までで生まれた懸案事項の検討をする日にしよう、そうしよう。
「どういったことを考えているのですか」
「・・・勿論異能のことだよ
雪峰がどうすればA判定になるのかって昨日からずっと考えててな」
「え!?
もしかして紗希をA判定にする何かいい案があるのですか」
「いや今はないけど・・・
ただ、こないだの則武さんや昨日の陸斗を見て思ったことがあってな」
「なんですか・・・?」
俺の話に興味津々といった感じで身を乗り出す西條
とりあえず勉強からは一時的に興味を削ぐことには成功したようだった。
「・・・その前に聞きたいんだが
西條はもしかして異能の発現できない時があったりするのか」
「そりゃあ、ありますよ
私の場合なら、紗希みたいな信頼できる人の血が異能の発現のために必要です
それに20分程度までしか連続して発現できません。」
「だよな
逆に、異能が暴走するときもあるのか?」
「うっ・・・それもまたありますね」
「それはどんなときなんだ?」
「えっ、そ、そ、それは・・・黙秘します・・・
兎に角、どういうことが言いたいんですか?
質問ばっかりしないで答えてください!」
斜め下を向いてバツの悪そうに西條が言う。
西條は本当に感情が表に出やすいから何を考えているのか分かりやすい。
そういうところが素直でいいところなんだけど。
「黙秘かよ、まあいいけど」
自分の弱いところを明かさないといけないのだからそりゃ歯切れも悪くなるか
俺が聞きたかったのはどちらかというとこっちだったのだが。
パソコンを立ち上げネットを開きつつ俺は話を続ける。
「なんて言ったらいんだろ
異能自体を発現しているけど、特定の条件を満たしていないから本来の異能を発現できていない、みたいな
異能のコントロールがうまくいっていないせいで異能力が発現できないなんてことがあるような気がしてな
雪峰ももしかしたらそんな状態なんじゃないかと思ったんだ。」
「んー?
すみません、よくわからなかったです
どういう意味ですか?
紗希にはもう既に異能力は発現してあるとおもいますけど」
俺の拙い説明では西條はまだピンときていないようだ。
「雪峰は勉強も運動もできるし、おまけに性格もいいオールラウンダー優等生だろ?
あんだけ能力が高いのにD判定ていうのはやっぱなかなかあり得ないと思ってな。
そんなことが起こりうる合理的な理由てなんなんだろて
西條には血がないと異能が発現しないように
雪峰にも異能が発現するためのなにかがあるんじゃないかってことだよ」
「つまり、柊が言いたいのは
紗希は既に強力な異能が発現しているけど、何らかの要因が邪魔をして結果的にD判定になっているということですか?」
「そう
西條にとっての信頼する人の血というトリガーが彼奴にあるのか
もしくは何らかの要因が邪魔をして本来の実力が発揮できていないんじゃないかと思ってな」
流石西條。少しの説明ですぐに俺の意図を理解してくれた。
成績優秀者なだけあって地頭がいいんだろうな。





