やめちまえないのか
気まずい沈黙が流れる。
「・・・やめちまえないのか」
「なにを」
「この戦いを
なんか事情ができたって言って転校して御天から離れちまえばいい
それこそもっと都会にいってさ
別に青月にこだわらなくてもいいじゃないか」
言ったあと後悔した。
こんな言い方だと今までも雪峰の思いや努力を否定しているような気がしたからだ。
これじゃ遠回しに諦めろといっているようなものだ。
それでも、雪峰の返事は意外なものだった。
「・・・もとはそうするつもりだったの」
「そうなのか?」
雪峰を傷つけてしまったかもなんて思ったがありがたいことにそんなことはなかった。
寧ろ織り込み済みというような声で雪峰は続けた。
「本当はね、私、生徒会選挙前に異能が発現しなかった時点で私はこの五家のいざこざからは降りるつもりだったの。
生徒会長になるつもりもなかったし、なんなら転校して御天(この土地)を離れてもいいかなって思ってた
ただ・・・」
「ただ?」
「おばあさま、えっと今の雪峰家の当主ね
今まで、おばあさまには私色々とお世話になっていてね
おばあさまに喜んでもらいたいて思ったら結局、青月(この学校)に残ってこうして生徒会長を引き受けることにしたの
千織も力になってくれるって言ってくれたから」
泣き顔で目を腫らした西條の頭を優しいお母さんのような手つきで撫でながら雪峰は続けた。
「・・・そうだ、私は自分を助けてくれたおばあちゃんに少しでも恩返しがしたいし
おばあちゃんに喜んでもらいたいし頑張ってきたの
だから、こんな落ち込んでちゃだめよね」
よし、と、深く深呼吸した。
心入れ替えるかのように
「あー、湿っぽい話をしてしまったわね
愚痴ばっかり言ってしまって本当に御免なさい
もう大丈夫、気持ち切り替えたから」
「もうこんな弱音をはいたりしない」
小さくそうつぶやいたような気がした
何だろう俺は話を聞いてただけなのだが
それでもいつの間にか雪峰は自力で元気をとり戻してくれたらしい。
「・・いいよ、愚痴ぐらいなら聞く
というか、同じく無能(E判)の俺には愚痴ぐらいしか聞けないから
無理して溜め込むほうが体に悪いぞ」
「ありがとね
柊にも寧ろ助けられてばかりだわ
則武さんにも、山縣君にも柊がいなかったら絶対やられてた」
「んなことはないよ
俺はその場にいるだけ、大した役にはたってない
今まであいつらを追い払えて来たのは西條のおかげだよ」
「あたしも全然です!
ていうかそう思うのなら柊もB判定に早くなってください
一緒に則武さんと山縣君をぶっ潰しましょう!!!!」
「いやだから!俺には無理だってのー
期待のハードルは埋めてくれって言ってるだろー
ああ、そうだ、せっかくこんな時間にまだ生徒会室いるんだしこないだ発見したゲームでもして帰るか?」
勉強という言葉を聞いた瞬間とりあえず話を変えないと、という気持ちが働いた。
そもそも西條たちが見回りに出てから一ミリも課題を進めていないことがばれてしまう。
というわけで唐突に最近この部屋から発掘された家庭用ゲーム機の話題を振ってみることにした。
恐らくは教師の誰かがこっそり持ち込んでそれがそのまま忘れ去られてこの部屋に残されてしまったのだろう。
「ダメです!そんな暇あるなら勉強!」
「厳しいな相変わらず」
糞真面目の西條らしく俺の誘いには全く乗る気配がなかったのだが
今回は俺に加勢してくれる強力な援軍がいた。
「千織、今日ぐらいはゲームしましょ?
色々あって疲れちゃったし」
雪峰が珍しく俺の意見に賛成してくれた。
「柊!ゲームです!ゲームしましょう!」
「いや、手のひら返すのがはやすぎだろまじで」
雪峰がしたいといった瞬間に手首がねじ切れる勢いで西條が賛成してきた。
雪峰本位主義とはこのことだな
ただまあ、この空気のなかこれ以上勉強するわけにもいかないしな、ここ最近勉強頑張ってたしたまにはいいだろ
というわけで、結局教師が残した超有名某格闘ゲームで3人で遅くまで遊んでいた。
終始割と湿っぽい雰囲気だったしそういう意味ではいい気分転換になったと思う。
なんというか、色々盛りだくさんの日だったな・・・
◆
黄輝高校生徒会長・山懸陸斗の襲撃があった翌日の放課後。
特に2人に何か言われたわけではなかったが、俺は生徒会室に足を運んでいた。
勿論理由は言うまでもない。
昨日の一件の進展を聞くためだ。
気になりすぎてうわの空ですべての授業を聞き流した俺は終業のチャイムを聞いた瞬間に教室を飛び出して生徒会室へ向かう。
生徒会室への扉を開けるといつも通り西條と雪峰が席についていた。
最早ここまでの一連の動作が日課になりつつあった。
「おす」
「おつかれさまです!」
「おつかれさま」
始めは生徒会室(仮)に入るってだけでかなり緊張していたのに今となっては慣れたものだし、雪峰と西條の2人も当たり前のように部屋に入ってきた俺を受け入れた。
ここ一か月程度でこの光景が当たり前になったことに違和感を感じつつ、俺はいつも通り荷物を置いて、いつも通り冷蔵庫から飲み物を取り出すといつも通りお誕生日席に座った。
「昨日は本当にありがとう、柊。
最後に送ってもくれて」
俺が椅子に座るなり雪峰が俺に感謝の言葉を口にしてくれた。
昨日は3人で某有名対戦ゲームに熱中し、最後は念のために2人を家まで送り届けた。
とりあえず、青月高校生徒会の準メンバーとしての役目は果たせたような気がする。
準メンバーの役目というのは一体何なのか俺にも分からんが。
「いいよあれくらいしか今の俺には出来ないから」
「いえいえ寧ろあそこまでしていただいて感謝しかないです。
また借りを作ってしまいました。何らかの方法でお返ししないと」
西條も俺にお礼を言ってくれる。
こういう時に感謝の言葉を口にしてくれるのは素直に嬉しいし
そういうことがさらっとできる二人は育ちがいいんだろうねなんて考える。
「そっかありがと
別に返しなんていらないけど」
「そういうわけにもいきません!
あたしの気もおさまらないので」