私の無力感には本当に死にたくなる
「インスタントだけどな
とりあえず西條はすぐ病院行ったほうがいいぜ
学校に連れ込んだ俺が言うことでもないかもしれないけどな
どっか怪我してるかもだし」
「まあ私は割と体は強いので多分大丈夫だと思いますど・・・」
いいながら西條は俺に右腕を伸ばして見せてくる。
確かにさっきまで掠り傷だらけのはずだった華奢な右腕はいつの間にか真っ白で傷一つない、いかにも女の子っていう感じの腕に戻っていた。
「異能のおかげでか?
普通の人なら、生徒会室が爆発した時と今回でもう2回は死んでるぞ多分」
信じれなくて思わず西條の腕を触ってしまう。
当然だが触り心地も普通の女の子の腕の柔らかさで夢を見ているような気分になった。
しばらくそうしていたが、何の許可もなく触ってしまっていたことに気がついてすぐに腕を離す。
「そういう異能力ですからねー
そういえば、よくよく考えると山縣さんに私のクローサーの電源切られたままなんですけど大丈夫なんでしょうか・・・
・・・紗希?」
西條が話していたから西條のほうしか見ていなかったが、西條の何かに気が付いて驚いた顔を見て
慌てて雪峰の方をみる。
そこには俺が渡したカフェラテを飲むなり、堰を切ったように静かに涙を流している雪峰がいた。
「d、ど、どど、どうしたんですか?紗希?」
「大丈夫か?」
「え!?・・・あ、うん・・・ごめん大丈夫」
指摘されるまで自分でも泣いていることに気づいていなかったらしい雪峰も涙をこぼしていることにやっと気づいたのか、指で涙を拭って止めようとする。
が、感情の高ぶりを抑えることが出来ないのか涙を止めることができない、とうとう目から涙がこぼれ頬を伝うようになってしまった。
「いや全然大丈夫そうではないぞ
これ使いな」
言いながら机の上の箱ティッシュを雪峰に渡してあげた。
なぜならハンカチなど一人暮らしの俺が準備しているわけがないからだ。
言ってて悲しいが。
「ごめんなさい、ほんとに」
「いやいや、なんで謝るんですか
紗希が謝ることなんて何一つないですよ」
思わず雪峰に抱き着いている西條は雪峰を見上げながらそう言った。
「ううん、ちがうの・・・」
「何が違うんだ?」
「私が謝りたいのは
私が不甲斐ないことだから・・・」
消え入りそうな声でごめんなさい、とまた口にしたのを俺は聞き逃さなかった
勿論西條もそうだと直感的に感じる。
「そんなことないですよ、今回の件で悪いのは全部あの黄輝の会長!
急に襲ってきて無理やりクローサーをつけさせるなんてやってることがありえないです!!!」
「・・・わかってる
千織の言う通り山縣くんはしていることもやっていることも滅茶苦茶だとは思う
ただ・・・」
「なんですか?」
「ただ?」
「則武さんにばれて、今日山懸君にばれて・・・
そうやっていずれ私の異能強度の噂は今後もっと広まるのでしょうね。
青月の生徒会長はD判定しかないって。
いや、そんなことももうどうでもいい
一番悲しいのは、前回の則武さんの時含め本来なら他校のトップと張り合うべき存在である私が、全く役立たずで、そして千織を助けてあげるどころか足を引っ張ることしかできないってこと
それが一番悲しい」
「雪峰・・・」
「今日、彼に立ちはだかるべきだったのは学校の代表である私であるべきだし
みんなもそう思ってるはず。
なのに私は何も出来ていない
千織は一生懸命頑張っているのに私はただその場にいるだけ」
「そんなことないですよ!そんなふうに言わないでください
紗希は・・・紗希は・・・」
西條は雪峰の言葉を否定したいがうまく言葉が出ないみたいだ。
かくいう俺も何を言っていいのかわからず、泣きながら自分の気持ちを吐露する雪峰をただ黙って聞くしかできなかった。
「則武さんが生徒会室に来た時もそうだった
千織にまた危ない目をかけてしまったし怪我をまたさせてしまった
いつも迷惑かけてばかりだなって思うと自分が情けなくなってきて
ごめんなさい、ほんと無力で・・・」
こんなに感情的になった雪峰を見るのは初めてだったから正直、驚いた。
いつも柔らかい笑顔を絶やさず、本心を見せないタイプの人間だと思っていたから
でも、今日やっと本当に考えていることが何なのか初めて知れた気がした。
そこに関してはこんな状態ではあったが少しうれしく感じてしまう。
そして彼女の想いは初めて彼女がD判定でしかないと知った日から俺がずっと懸念していたことだった。
「謝らないでください。あたしは紗希が幸せになってもらいたいだけなんです。
そのためにここまでやってきただけです。異能なんてどうでもよくて・・・
そんな風に思われてしまったら私も悲しくなってしまいます・・・」
涙が止まらない雪峰に感化されたらしい。
今度は西條まで雪峰の胸に抱き着いたまま泣き出してしまった。
西條は西條で雪峰にそんなことを言わせたい訳がない。
必死に雪峰を慰めたいという気持ちしかないのだろう。
俺だってこの2人を慰めたり勇気づけるような言葉を言いたかったのだが
人生経験の乏しい俺には女の子が2人泣き出した時に何と声をかけてあげればいいのか分からなかった。
「本当に千織には感謝しかないわ」
「えぐっ、ありがとうございます」
「私の無力感には本当に死にたくなる」
「無理すんな
雪峰は雪峰の出来ることをすればいいよ」
抱き合って慰めあってる二人をみていると
多分今の俺にできることは話を聞くことだけなんだろうなと何となく察した。
なぜなら俺もまた"無力"(E判定)でしかないから
「今の私にできることなんて残念だけど何もないわ」
「そんなことない」
「そんなことないです!それは言い過ぎです!」
「いくら成績がよかろうが運動が出来ようが関係ない。
御天という土地では、最も大切なことはどれだけ強力な異能を持てるか、それにつきるの
そういう観点で言えば私にできることなんて何もない」
「・・・」
そこまで言われてしまって
俺はいよいよなんて返せばいいのかわからなくなってしまった。





