少しはこっちに協力しろ!
わんわんわん!くーん
わんこの大群は千織の周りに集まり傷ついた西條を慰めているようなしぐさを始めたり、体を擦り付けたりしていた。
「かわいいなおい」
にしても言ってみるもんだな。
いやなに、いつから犬使いの西條になったの。それとも類は友を呼ぶんですかね。
「可愛いですね
こんなにたくさん来てもらえるとは思ってなかったですけど」
寄ってきた犬の頭を撫でながら笑顔になる西條。
さっきまでのシリアスな空気がいい意味でぶち壊しになったおかげで陸斗もどうしていのか戸惑っているようだった。
「おい、根暗ぁ
どういうつもりだ」
「お前、中学時代に犬恐怖症だったろ
だから、この状況を逆転するにはこれしかない気がしたんだよ
西條、このワンちゃんたちに陸斗を取り囲むように指示できないか?」
「んー、今なら行けそうな気がするのでやってみますね
わんわん!わん」
また犬語を繰り出す西條。
俺には何を言っているのかさっぱりだったがワンちゃん達には理解ができたらしい。
陸斗のほうへ向いた犬たちは陸斗を囲うように半円形に並びだした。
「さすがだな・・・
西條の異能、今日から犬を操る、に変えたほうがいいんじゃないのか」
「操るっていうのはなんだかいい気がしないので、お願いができる、にしようと思いますね・・・」
「冗談半分だったんだけどな・・・
おい!陸斗!お前!犬に囲われるのは嫌だろう!
まあそうでなくてもここまで犬が集まったら攻撃しずらいだろ・・・」
陸斗の顔を見てみると効果は絶大だったらしい。
今まで見たことないような引きつった顔で犬を見渡していた。
「こんなにかわいいワンちゃんたちに電撃を浴びせるわけにも行かないですもんね」
「いやお前やってくれたな!まじで!
絶対ぶっ殺すからな!」
気持ちの焦りが異能に出ているのか陸斗の体の周りには大量の電撃と火花が覆っているものの、やはり犬は苦手なのかこちらを攻撃することはなく戸惑ったまま立ちすくんでいた。
よく見ると陸斗自身異能がうまくコントロールできていないのかもしれない。
右手で左胸を押さえて不意に暴発してしまいそうになる電撃を抑えるのに必死といった感じだ。
形勢再逆転だ。さっさと今のうちに逃げよう。
「どっちにせよ陸斗、このまま膠着状態なんならこの犬達に道案内してもらって俺らは此処から脱出するぞ
西條がいれば犬と会話できるしな
雪峰!お前もこっちきな!一緒に帰ろう」
犬は目ではなく耳と匂いでここにたどり着けるから幻影の異能は関係ないてわけだ
一時はどうなるかと思ったが結果オーライだな。
別に一方的にこいつに絡まれただけだし、こんなところさっさと脱出しよう。
そして青月の教師にでも今日のことをチクってあとは野となれ山となれだ。
「え、ああ、うんありがと・・・」
今の今まで遠慮がちにずっと一人で公園の端に立ち尽くしている雪峰に声をかけてこっちに来るように言う。
とことことこっちに走ってくる雪峰もなんだから犬みたいで可愛いとか思てしまったのは秘密だ。
こっちに来た雪峰にもわんこたちは手荒い歓迎をしてくれてそのおかげで雪峰の表情が少しだけ和らいだ。
西條もやっと電撃のダメージが落ち着いたのかゆっくりと立ち上がった。
「柊、お願いはしてますけどあたし、わんちゃんと会話までできるんですかね
まだそこまで完璧なものではない気がしてます」
「いいからここは話合わせとけよ
ホントまじめだな西條は
そこまで厳密でなくてもいいんだよ
てか、その気になったら案外できるかもよ?」
「そーなんですかね・・・?わん?」
わん!わわん!
本当にわんわんいって近くの子犬と会話を始める西條。
まさかほんとにやりだすとは思わなかった。
それはそれとして犬攻撃はやはり有効だったらしい。
陸斗は攻撃する意欲が完全に消滅して俺たちに当たらないように周囲を銃で打っているだけだった。
犬に対しては襲ってくるかもって考えると怖くて攻撃できないのだろう。
意気消沈とはこのことだな。
「くそが・・・ちっ!
おい!竜生見てるだろ!何とかしろ!聞いてんのか!
お前もデバイス持ってんだろ、加勢しろ!」
「・・・陸斗、さすがのワシもケガをしていたり無防備な女の子を襲うなんて悪趣味なことはできんぞ
そもそもこの子たちを襲うのは本来の趣旨とも違うんじゃろう?」
「無駄に紳士面しやがって、くそが」
「ちょっと待て
竜生!?今、竜生っていったか!?」
また、懐かしい名前を聞いたもんだ。
そういや彼奴もバスケ推薦で黄輝に進学してたな
則武に続き、またもや予想外の同窓会には食傷気味だが
ただ、たつおなら陸斗と違って説得すれば行けるかもしれない。
「竜生!いるんなら陸斗のいうことばかり聞いてねーで
少しはこっちに協力しろ!
とりあえず早くここから出してくれ!」
「う、想に見つかってしまったか・・・」
気が付くと陸斗の背後の背景が歪み大男が姿を表した。
篠崎竜生。中学バスケ部のチームメイトだ。
まさかこんなよくわからない場所で陸斗ともども元中央中学バスケ部のミニ同窓会を開くことになるとはな
「わしはいないことにしてもらいたいんじゃがの
あと、たつおじゃなくてりゅうせい、じゃぞ!何度も言うがな!」
「お前がもしかしてこの異空間を作ってんのか」
竜生の読み方は「りゅうせい」なのだが、2メートル近いむさ苦しい大男の名前にしては爽やかすぎて似合わないということで、中学時代から此奴のことは「たつお」と呼んでいる。
本人は嫌がっているのだが。
「無視か!
まあ、否定はせんな
わしの異能は異空間ではなく、空間の視覚的認識を歪める異能じゃが」
「・・・おいこら、竜生もペラペラしゃべってんじゃねえぞ」
異能の制御に戸惑って動けなくなっている陸斗を間に挟んで竜生と話し続ける。