久しぶりだな、根暗ぁ
まじバスケするの久々すぎて懐かしすぎるな。
実家の周りにはバスケできる公園があったけど
引っ越して一人暮らしをしている今はまわりにそんな公園ないし、中学の部活引退してからは数えるぐらいしかボール触ってなかったしな。
しばらくの間、懐かしい感触を楽しんだり、シュートが入らなくてショックを受けたりどうせすぐばてて明日筋肉痛だろうなみたいなどうでもいいことを考えながら一人バスケを楽しんでいた。
久しぶりに体動かすのって最高だな、今後も体育館を放課後一般開放してくれればいいのになんて思う。まあ、青月のバスケ部がある以上無理なのはわかっているのだが。
とはいえ、本気でするバスケは大嫌いだからこれを続けたところでバスケがうまくなるわけでもないし、これきっかけで異能力が目覚めるなんてことは永遠にないのだろうけど・・・
などと根暗特有のネガティブシンキングに落ちかけていたその瞬間―――
「・・・ん?
今、もしかしてデバイスがうごいた?」
気が付くと体育館の床、ゴール下においていたデバイスが青い光を灯したと思ったら俺の目線まで浮かんできた。
招集命令。どうやら何かあったらしい。
「・・・早くいかないと
襲われたってことなんだよな」
急いでボールを片してデバイスを握る。すると先ほど説明を受けた通り青い糸が目の前に現れた。
これを辿れば雪峰に会えるはず。
外履きを履いた俺は運動不足の体で全力疾走をはじめた。
雪峰を助けてあげないと。
学校を出た俺は青い糸に導かれるがまま、住宅街を走っていった。どうやら俺の帰宅ルートとは逆方向らしい。
見慣れない街並みを走っていたがさっきまで運動していたこともあって喉が激しく乾いた。
とはいえ、飲み物を買ってる時間も惜しい。
兎に角一刻も早く雪峰の元へ向かっていたわけだが・・・
「おかしい
さっきから目的地にたどり着けない」
青い糸を辿って走り続けた俺はいつの間にか青月高校近くの住宅街に入っていた。
青い糸は途中までは道順を示し続けてくれていたので、ただただそれ通りに走っているだけでよかったのだが
「なんだこれ壁に向かって歩けてことか?」
デバイスの糸が伸びている先は壁、より正確に言えば民家の塀だった。
当然このまま進めば壁に激突することになる。
ここまでデバイスの糸はきちんとした道順を示してくれたし、無茶苦茶なショートカットは提示してこなった。
不安になった俺は回り道をして壁への激突を回避しようとしてみたわけだが、結局この地点に戻ってきてしまう。
いつまでたっても目的地にたどり着けない焦りからか余計に喉が渇いた。
でもそうも言ってられない。
さて、どうしたものかな・・・
「現状これしか雪峰達の居場所のヒントもないしな、信じるしかないか」
悩んでいても仕方ない。
俺はゆっくりと試しに手を伸ばして壁に触れようとしてみる。
触れた、と思った瞬間俺の手は壁をすり抜けその奥にまで伸びていった。
どうやら壁の向こうにもまだ空間があるらしい。
異能狩りの現場が他人に見つからない原因ってもしかしてこれなのか。
外から見えないようにして異能狩りを行ってたわけか。
ぐずぐずしている時間はない、早く先へ進もう。
「あれ、ここにこんな広い空間あったのか」
クルミ型デバイスの糸に導かれるがまま、壁の中に入ってみると、暗闇があたりを包んでいた
何も見えない中でデバイスの青い糸だけが先まで伸びている。
その後も気にせずデバイスの青い糸を信じて歩き続けると急に視界が開け大きな公園が出現した。
ただ、あたり一面はまだ暗いままだ。まだ5時ぐらいなのに。
まるで深夜の公園のように周囲は黒塗りされて、太陽のない暗褐色の空で淡くあたりが照らされていた。
本来の地形なら此処は公園がある場所で、異能の力であたりの雰囲気がかわってしまったのだろうか。
それとも異世界にでも飛ばされたのだろうか。
このあたりの土地勘がないから俺には答えがよくわからなかった。
公園に入り奥へと進む。中央に目を向けると西條さんと雪峰さんらしき人影とそれ以外に男が一人。
黒のスキニーに灰色基調で花柄の入ったパーカーそして銀に近い金髪の長身細見の男。
そのシルエットには恐ろしく見覚えがあった。
黒いマスクの下には薄い唇と黒の口ピアスが隠されているのが透けて見えている気分だ。
こいつのことを俺は知っている。
知っているどころかそれなりに仲が良かった・・・はずだ。
近づいてきた俺に気が付いたのか、金髪の男は片方の口角だけ上げて目を細めて笑った。
「・・・どんな不良ヤンキーが絡んでるのかと思ったら、お前か餓鬼大将」
「ん・・・
久しぶりだな、根暗ぁ」
公園の中央へ歩いていくごとに俺の推測が確信に変わっていく。
中学の卒業式以来ぶりで別に再会したくもなかったわけだがこうなってしまったら仕方がない。
「ああ、久しぶりだな陸斗・・・」
俺に気が付いた陸斗がマスクを外すと予想通り口ピアスのついた色素の薄い唇でにやりと笑った
久しぶりにあったこいつの以前と変わった点をしいて上げるのなら、中学時代よりも更に髪が明るくなり白に近い金髪になっていることぐらいか
以前から日本人離れしたハーフ顔ではあったが、髪はここまで明るくなかったはずだ。
人相の悪そうな笑顔は相変わらず変わってなかったが。
「柊!助けに来てくれたんですね!」
「・・・」
振り返って俺の顔を見るなり安堵の表情になる西條。
とりあえずは此処にたどり着けて良かったと心から思う。
一方呼び出した張本人の雪峰も俺に気づいたようではあったが、すぐ下を向いて髪が顔にかかってしまい表情が見えなかったが。