2人とも気を付けてくれよ
「へー、面白いデバイスもあるもんだな
武器以外にもデバイスって種類があるんだな
このデバイスで連絡をとるのか?
そんな回りくどい方法を取らなくても携帯でもいいんじゃ?」
「携帯で連絡する可能性も勿論あるわ
ただ、携帯をいじる暇もない可能性もあるし万が一に備えてね
一応携帯のマナーモードも解除しておいて」
「なるほど・・・りょーかい」
いきなり襲われでもしたら携帯をちまちま触ってる時間もないか。
触れるだけで起動できるこのデバイスは緊急連絡用にピッタリなのだろう。
「連絡デバイスのうち一つを柊へ託すわ
もし私たちに何かあったらこのデバイスを起動させて現在地を知らせるから助けに来てね」
「おっけー
てことは、俺はお留守番か
俺も雪峰たちと一緒に行こうかと思ってたんだけど」
「柊はそんな暇があった勉強してください
今日の課題も終わってないですよね
次のテストは絶対にいい点を取ってもらいますから」
「はいはい
辛辣だな西條」
次の定期テストへの西條の入れ込みはなかなかのもので
俺に絶対にいい点を取るために放課後はマンツーマンで指導してくるし
ここ最近は今日のノルマと称して毎日課題を押し付けられていた。
ぶっちゃけそんな日々が続いてかなり酸欠気味だった。
「勉強してB判定になってくれたら、喜んでついてきてもらいますから」
「わかったよ・・・
で見回りは行くつもりなんだ?」
「もう今日早速行くわ
先生にもそう頼まれてしまったの」
「今日!?
そらまた急だな」
俺の発言に言葉では同意しなかったが頷くような素振りを見せながら雪峰は答えた。
「ここまで被害者が出ちゃうとすぐに対応しないと被害を受けた生徒の保護者に何言われるか分からないし、先生たちも結構焦ってるみただわ
見回りもその一環てわけ
今回はごめんね柊、お留守番をお願いするわ
何かあったらそのデバイスで連絡するからその時はこの青い糸を辿って私たちのところまできて」
まだプレスには出ていないから噂が流れている程度で大きなニュースにはなっていないが、被害者の保護者へのアピールとして、すぐに対応したていうのを見せたいのだろうかなんて邪な思考も過った。
もしそうなのだとしたら、それに巻き込まれる形になってしまった雪峰が不憫でしかない。
「わかった
2人とも気を付けてくれよ
なんかあったらすぐ連絡してくれ」
「柊、私はもう行きますけどちゃんと今日のノルマは終わらせてから帰ってくださいね!
あとで確認テストしますから!
あ、鍵はいつものところに置いているので」
「りょーかい、わかったわかった
今は俺のことはいいから西條は雪峰を守ってあげろよ」
「当然です!
紗希、さっさと見回り終わらせましょう!」
「うん、それじゃあ行ってくるね、柊」
「気を付けて」
雪峰が部屋に来てもものの十数分。
こうして気が付くと俺は部屋に一人取り残されていた。さっきまで解いていた問題集や教科書、そして雪峰の飲みかけのコーヒーとともに
雪峰が飲みかけのマグカップ残すなんて珍しいな。
よほど気が動転していたのか気が急いでいたのか。
いずれにしてもかなり心配ではある。
雪峰本人が優秀なのもよくわかっているし、外部からの評価も相当高いとは思うが
それでも彼女はまだD判定で、異能力者としてははっきり言って大したことない。
万が一何かあったときには西條のほうがはるかに戦力になるだろう。
なんて心配事を取り残されたこの生徒会室で考えていたわけだが、にしてもこれからどうしよう。
西條の言いつけを守るならこのままこの部屋でおとなしく問題集を解き続けるべきなんだろうけど・・・
勉強・・・なんてするわけねーだろ
テスト前ということもあってかここ最近は毎日のように西條に生徒会室で勉強を強要されて息が詰まってたんだ。
サボるの一択しか俺の頭には選択肢が出てこなかった。
というか息抜きも大切だもんな。
効率を考えたらたまには休まないとな。そう自分に言い聞かせる。
寧ろ根詰めてやりすぎたら体調不良になって倒れてしまうかもしれないし。
さて、どーすっかな
とりあえず雪峰の飲みかけのマグカップを洗った俺はさっきもらったクルミ型デバイスをポケットへいれて生徒会室を出ることにした。
ここ最近教科書や参考書は生徒会室におきっぱにしている。
持って帰るのも面倒だしもうこのままでいいだろ。
そういや今、テスト期間中だからみんな早上がりしてて部活もしてないのか。
グラウンドを覗いてみても部活をしている生徒は誰もいなかった。
恐らく校舎や図書館でみんな勉強しているのだろう。
放課後は西條に半ば監禁されていたから全然気が付かなかったな。
ということは・・・普段は人が使っているあそこも今日なら空いてるんじゃ?
そう思った俺は中学時代は毎日のように通っていたある場所へ向かうことにした。
「お、やっぱ誰もいない」
体育教師も恐らく異能力者襲撃に対する対応に追われてそれどころではないのだろう。
予想通り体育館には教師も含めて人っ子一人いなかった。
これなら今は貸し切り状態だろう。
鬼の目がないうちに久々に一人でバスケでもするか、懐かしい中学以来か
ここ最近勉強ばっかでストレスたまってたしな、久しぶりに体が動かしたい。
上履きを脱いで靴下を履いたまま体育館に入る。
バッシュも体育館シューズも今あるわけないんだからこうするしか仕方ない。
倉庫からボールを一つ取ってきてしばらく一人でシューティングをすることにした。
連絡が入ったらすぐに分かるように連絡用のクルミ型デバイスと携帯は体育館の壁近くの床に置いておいた。
「さて、やるか」
軽くストレッチした俺は久々にドリブルする。
ボールの革の匂いが懐かしかった。いい感じだ。