目的がやっぱりよくわからないですね
「へー、誰?」
「この人みたいよ・・・」
雪峰がA4の紙を俺に渡してくる。
俺は急いで勉強道具を机からどかして渡された紙を西條と一緒に覗き込んだ。
中身は青月の教師が作った昨日の異能力者狩りに関する概要をまとめた資料だった。
こんな機密文書、去年の俺だったら絶対目にすることはなかっただろう。
役得というかなんというか立場が変わったもんだよ俺もなんて声に出さず一人感慨に耽りつつ内容を追い始めた。
「被害者はうちのサッカー部の2年生ね。クローサーをミサンガみたいに足に巻いていたり首にチョーカーのようにつけて見えるようにしていたそうよ。
帰宅中に友達と別れて家に帰るところを狙われたみたい」
内容に目を通してみると確かにそのようなことが書かれていた。
よく見たら、この被害者の名前、サッカー部のイケメン君じゃないか。
こりゃいい気味だな、なんか偉そうでいけ好かない奴だったし。
言われてみればこいつも足にミサンガみたいにクローサーを巻いて、イキってたななんて思ったが当然口には出さない。
「襲撃場所も此処(青月高校)の近くみたいですね」
襲撃場所は青月高校の横にある閑静な住宅街の中央にある大きな公園だった。
帰り道でないのであまり土地勘はなかったが何度か傍を通ったことがある
「ちっか、こんな近くでも被害者が出てんだな
こんな人気の多いところ、B判の異能力者同士でぶつかったら絶対大騒ぎになってると思うんだけどな」
こんな住宅街のど真ん中で異能を使ってたら絶対誰かの目につきそうなものだが
「不思議なことにすべての異能力者狩りは被害があった瞬間は誰にも見られていないの
発見はいつも被害があった後
異能狩りの力が強すぎて犯行時間がものの数分で短いということと
恐らく襲撃の際に何かしらの異能が使われて現場を隠しているのだろう、ていうのが大半の見方ね」
なるほど、そもそも人目につかなくなるような異能を使って目撃者を出さない状態にして襲撃してるわけか用意周到なことで。
そこまでする犯人の動機はさっぱりわからんわけだが。
「そして、これが・・・
ここまでの被害者が襲撃された地点の一覧をマップ化したものね」
いつの間にか机の上にあったタブレットを起動させた雪峰がそういって俺たちに画面を見せてきた。
御天の地図上に点がついていてそのそれぞれが襲撃された地点を表している
点の色が襲われた生徒の学校を表しているようだった。
紅陽なら赤い点。青月なら青色の点らしい。
「これで9件目計12人目、地図を見ればわかると思うのだけどどの高校もまんべんなく被害にあっているわ」
「ん、割とどの高校の近くでも起きてんだな」
「ですね、特に傾向があるわけでもなさそうです」
五校の周辺それぞれでまんべんなく生徒が襲われており確かにどこかの学校をピンポイントで狙った犯行でないというのも納得できた。
被害者の性別や異能の種類も統一性はなく、1人だけで襲われることがあれば、複数人が一気にまとめて襲われていることもありやはり共通の特徴というのはB判定ということだけ。
「だからこそ厄介なの
異能狩りをして一体何を目的としているのかもわからないままだしね」
「被害にあったサッカー部のやつはどうなったんだ」
「他の被害者と同じね。クローサーを改造されておしまい。
一応精密検査のために今は御天大学の附属病院に入院しているけど特に身体は攻撃されていないようだし、他の事件と同様にクローサー以外に被害はないのだと思うわ。
勿論クローサーを改造されちゃったからしばらくはD判定やE判定と同じ扱いになるのだけど」
「へー、なるほどね・・・」
「んー、それにしても目的がやっぱりよくわからないですね
クローサーを改造してB判定から異能力を奪って、犯人はいったい何がしたいのでしょうね」
いきなり襲われて、クローサーを改造してB判定からE判定に転落するなんていい気味だな、というスタンスを変える気は更々ないが、にしても動機はさっぱり俺にも思いつかない。
ストレス発散で片っ端から襲っているとかか?
その割には被害場所や被害者に偏りがないのはおかしいか・・・
「そうね
教師もみんなそれで頭を悩ませていたわ
私も職員室に呼び出された上に生徒代表としてこの件についてどう思うって意見を求められて困ったわ」
「皆目見当がつかないもんな」
「そうそう」
「とはいえ、ここまで被害が出ていたら学校側もそれなりに対策を取らざるを得ないだろ」
「その通り、流石柊、察しがいいわね
それで本題なのだけど・・・
うちの学校の近くだしちょっと見回りをしてもらえないかって先生に頼まれてしまってね」
「え、そうなんですか?」
「まじ?
嫌な予感しかしないなそれ
D判定だろ雪峰は
なんでそんなこと頼むんだよあいつら」
異能力という面だけで考えれば雪峰よりもっと強い異能力者なんていくらでもいるだろう。
いくら生徒会長と言えどこの話は荷が重すぎる・・・
こんな可愛い女の子をそんな危険なところへ行かせようとするなんて学校側も何考えてんだか。
「あー・・・柊、そんな怖い顔しないでください。
実はその、先生には紗希のD判定のことは黙ってるんです」
「え、まじ!?
知らなかった」
生徒に黙っていたのは以前聞いたけど先生にも雪峰の異能の話は黙ってたのか
そして、今日の雪峰にどこか元気がない理由を一瞬で察してしまった。
なるほど、こんなこといきなり頼まれたらそりゃ疲れるか。
「ごめん、柊にはまだ言ってなかったけど・・・
噂なんてすぐ広まるものだしできる限り知っている人は少ないほうがいいと思って。
教育委員会が文科省異能課やラボと仲が悪いおかげで学校には異能に関するパーソナルな情報はそんなに開示しなくて済むから」
「といいますか、基本的に異能力の管理はラボに一任されています
あたしも異能について学校側からなにかとやかく言われたことはないですねー
異能力に関する研修なんかもラボが一任して請け負ってますしね」
「そうだったのか
教師から異能について聞かれることは少なかったが・・・
学校側が俺たちの異能を管理しているわけではないんだな」