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ハイスクールコンプレックス  作者: 折原
邂逅篇
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それは!勉強していないからです!

「おつかれー」


ゴールデンウィークも終わって数日たったある晴れた日の放課後

俺は生徒会室(仮)の古めかしい木製の扉の扉を開けていた。


「お疲れ様です!」


「お疲れ様ー」


部屋の中に入ると、雪峰と西條はすでに来ていて、椅子に座っていて挨拶をしてくれた。

2人は向かい合って机の上に書類を広げている。どうやら生徒会の仕事をしているようだった。

俺はそのまま指定席になりつつある2人の間のお誕生日席に座った。


「連絡あったから今日は来たぞ」


俺が生徒会の協力者になることをファミレスで決意表明したあの日

俺は雪峰と西條の2人と連絡先を交換した。


理由は後述するが(というかすぐにわかる)それからというものの結構な頻度で「生徒会室に来るように」という連絡が主に西條から来るようになった。


生徒会室を則武さんに燃やされ、生徒会室はいまだに修繕工事中だったため当面、生徒会の活動スペースは旧校舎棟にある空き教室をあてがわれていた。

俺たちが普段使っている新棟からはここまで来るのに距離はあるが、その分人気が少なく落ち着けるので個人的には好きな場所になってしまった。


もとは先生向けの休憩所として使われていた部屋らしくその時の設備がそのまま残っていたので居心地がいいのもありがたかった

冷蔵庫、電子レンジ、ポット、コーヒーメーカー、テレビ、扇風機が備え付けられておりそれらが自由に使えるので部屋としての居心地の良さははっきり言ってこの学校のなかでも屈指だろう。

備品を撤去させずに残してくれた高木先生に感謝しないと。

もっとも別の理由で俺にとってこの部屋の居心地は悪いわけだが。


ちなみに以前の話通り生徒会室の修繕には予算も発注もラボが一手に担っているため学校側はほぼノータッチなのだとあとから高木先生に聞かされた。

雪峰の言う通り則武さんに何か処分が下ったという話も聞いていないので異能が絡むと色々デタラメだな、という感想しかない。


「今日は何があって俺を呼んだんだ」


「柊」


「はい」


始業式で出会ってからこの1か月でお互い苗字を呼び捨てで呼び合う程度には生徒会の2人とはそれなりに仲良くなっていた。


「何も言わなくても私が何を言いたいか分かりますよね?」


「・・・まあ」


「私が今一番欲しいものをご提出ください」


「・・・はあ

こちらになります、お納めください」


言いながら俺は日の目を見ないまま闇に葬りたい欲求を必死に抑えつつ今回の模試の成績表を西條へ両手で提出した。

受け取った西條は、俺の成績表を手に取ったまま一言も発することなく数十秒間、穴が開くんじゃないかと思えるほど凝視し続けた。怖すぎる。


「柊」


「はい・・・」


「このデバイスを握ってみてください」



言いながら西條は自分の持っている剣型デバイスを俺に差し出した。

てっきり怒られると思っていたので意外な発言に拍子抜けする。

なんだ、俺の成績が壊滅的過ぎて現実逃避してるのか。


デバイス

一言で言えばラボや大学が協力して開発しているその異能を具現化しやすくする補助ツールのようなものだ。


則武さんのような化け物じみた異能を発現できる奴にはデバイスなんて必要ないわけだが、勿論大概の人間はそんな強い異能は持っていない。


当然だが数で見てもAやB判定の強力な異能力者よりもCやD判定のあまり強くない異能力者のほうが圧倒的に多い。


そしてC判定までの異能力者は、ただ異能という名のエネルギーの出力ができる程度で具体的に何か異能が使えるわけでない。


イメージとしては気のようなイメージだ。

気をいくら持っていても異能として発現できない人間はただエネルギーを持っているだけで普通の人と結局大して変わらない。


だからそのようなあまり強くない異能力者が異能を具現化させるツールとして異能力を流し込むことで起動する装置、別名デバイスがあるわけだ。


デバイスには様々な種類があり、例えば武器型のデバイスは剣型、銃型、ナイフ型などがあったりするし、防御用のシールド型のデバイスがあったりする。


デバイスはラボや大学が特に力を入れて研究開発している分野の一つであるので、色々な種類がありすぎて俺もすべては把握していない。

そもそも俺がE判定でどうせ使えないから興味がないというのもあるが。

ちなみにデバイスによって発現する異能の出力は使用者の異能力によって左右される仕組みだ。

だから同じデバイスを使ってもA判定とD判定では全く違う強さになる。



まあ、御託はここまでにするか

俺は、西條に渡された剣型デバイスの柄の部分を握った。

俺に異能があればこの柄の部分から日本刀のように青白い刃が出てくるはずのだが、残念ながら現実は非情である。

当然何も起こらない。

当たり前に当たり前すぎて特にコメントのしようがないぐらいだ。


「・・・どうして何も起こらないかわかりますか?」


退屈そうな表情で西條さんは何も起こらないデバイスを眺め片手で頬杖をつきながら言った。


「俺が無能力者バニラだからだろ」


言いながら、デバイスを西條に投げ返す。


「そうです

じゃあどうして無能力者バニラなのかわかりますか?」


俺が握って何も起こらなかったのが嘘のように、西條が握って一秒もしないうちに青白い炎のような刃が出現した。

もはやデバイスに問題があるんじゃないかって八つ当たりしたくなる気分だ。



「いやそれを俺が知ってるわけないだろ・・・

それが分かったら苦労しないわ・・・」


なにいってんだ西條のやつ、異能がどうすれば発現するかとか異能を確実に発現できる方法を発見できたらノーベル賞ものだろうに。

なんて悪態の一つでも続けざまについてやろうと思った瞬間に西條は優等生が先生からの質問に答えるが如く勢いよく声を発した。


「それは!勉強していないからです!」


「うっ、なるほど、そう来たか・・・」


異能は狙って発現させたり、強化することが難しいのは有名だが、異能と正の相関がある要素がいくらかあるというのも有名な事実だ。



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