あい
お楽しみいただければ幸いです。
AIドルの先駆けでもある都市型防衛機能、超高性能ナノマシン統括管理システム【 日輪 】。
その日輪のコミュニケーション用アンドロイドの護衛任務は一般兵の花形任務であり、尊敬と嫉妬の的である。
「黒鉄所長が攫われたのかもしれないこん時に不謹慎ですが、俺嬉しいっす」
「運が良かったよな俺達、皆捜索に駆り出されているからな」
しかし、今日日輪の護衛任務に就いている彼らは運が無い。
「ひーのわちゃん♪」
なんせ、彼女が来てしまったから。
「本当はちゃんと器に入ってから会おうと思っていたんだけどね、何だかもう我慢できなくなって会いに来ちゃったよ!」
日輪の護衛任務に就いていた者達は自分の死を確信し、叫ぶよりも早く救助要請のスイッチを押した。
「邪魔者はもう居ないよ日輪」
邪魔者どころか建物も薙ぎ払われ更地と化している。
「あ、この白髪頭と目の色だと誰だか分かりにくいよね。 アハハハハッ、ごめんごめん」
一瞬で髪は黒く、二つ揃った瞳は紅く、最初からそうであったかのように淀む。
「日輪とずっと一緒にお喋りがしたかったから、日輪が生まれるこの時代に来たんだよ。 長かった、けど、ようやく一緒に居られるようになるね。
あと、もうすぐで器が出来上がるんだよ♪ 私だけ年を取った肉体なのは嫌だから、新しく創っちゃったんだ。勿論その器も私なんだけどね、一緒に暮らせるようにいっぱい頑張ったんだよ!凄いでしょ♪」
「貴女は誰ですか? 該当データがありません。佐藤特等兵でも Clown=Lord でもない。
貴女はいったい何者なのですか?」
落雷と星が落ちる。
「遂にこの時が来たな!!! Clown=Lord !!!」
「師と仲間達の、皆の安らぎの為に死ねッ!!! Clown=Lord !!!」
「 私は東雲 夏希だ 」
*
あの人と会うのは夢の中だけで、でも、私にとってあの人は家族と仲間を合わせたような大きな心の拠り所だった。
「死んだ海が凪のまま波風を立てずに蘇る為には酸素を創り出す植物のような者達が必要なんだと思うんだ。 ただ、親も何もい居ない世界に放り出すことになってしまうけどな。だからそういった者達には地に足をつけ根を張り強く生きてほしい、名前も分からぬ幼き孤児に植物に関する名前が授けられるのは俺のそんな思いからなんだ。 小さいけれど少しでも俺が居た証を残したくてな」
「何を言っているのか分かんないです」
「ハハハ、ひどい事を言うな。 でも、そんな君が…、 君は素直な方が魅力的で良いよ」
「な!何言っているんですか!!! そ、そういう事じゃないですよ!!!」
「???」
「???、じゃないですよ! 『俺が居た証を残したくてな』じゃないですよ!」
「ハハハ!!! 君の方が何を言っているか分からないぞ」
「うぅ… だ、だから… 居ればいいじゃないですか、居た証じゃなくて、此処に、居ればいいじゃないですか」
夢の中だけど、勇気を振り絞って言った一言だった。
夢の中だけど、ずっとそばに居て欲しかった。
夢の中だけでも。
「ありがとう、嬉しいよ。 でも、それは無理なんだ」
「なんでそんな事を言うんですか」
「俺も君とだったら一緒に長い時間を過ごせるかもしれない、でも、同じ時を過ごせないんだ」
「アナタは『でも』や『だが』や『しかし』が多いです」現実の私は人の事を言えない。
「君が好きだ。だから、俺には無理なんだ」
「何でそんな事を言うんですか」
「君も『何』や『何故』が多いよ」
「ずるいですよ」だって分からない事だらけなんだもん。
「なあ」
「ん?」何だろう?
「え」
「えええええ!?!?!?」
一瞬何をされたのか分からなかった。
「ハハハ」
初めてだった。
なんと、男の人にキスをされたのだ。
しかも、傷の有る左の頬に。
「な、何で」
「俺の居た証」ずるい。
「そ、そういう事じゃないですよ! 何で傷の有る… 」
「???」
「嫌じゃないんですか… ?」
「何が? あ、キスされるの嫌だった… かな?」
この人は鈍感だ。
「 !? 」
「お返しです」この時初めて、ちゃんとしたキスをした。
ほっぺにチュー、からのいきなりの大幅前進だ。
でも、同世代の皆には笑われるだろうな。
でも、幸せだった。
唇と唇が重なっていた時間はほんのわずかな時間だったと思う、もう少し重ねていたかった。
でも、でも、でも…、女の子からのキスで長い時間は恥ずかしい… 。
私のキスは変じゃなかったかな?
唇だけだけど下手じゃなかったかな?
「あ、お、おう!」
「それじゃあ、分からないですよ」耳まで赤かった、たぶん私も赤かったと思う。
私はあの人が好きだった。
今も好きだ。
もう夢の中に現れてはくれない、何故だろう、分からないよ。
いくら寝ても現れてはくれない、目を開けても目を閉じても、現実しか見えない。
逃げたい。
「いや、逃げたのか」
私は逃げてしまった。
辛い現実から逃げてしまった。
私は自分の顔がピエロだと思った、そうであってほしくなかったから。
でも、そうなってしまった。
もっとみんなのお墓に行きたかった。
線香のにおいが恋しい、もう、会には行けない。
「私はピエロだ」そしておそらく私は…
『 Clown=Lord のようでござるが、何か変でござるな』
私は、とうとう頭がおかしくなってしまったようだ。
夢の中のあの人に会いたいと願うばかりに白昼夢を、幻覚を、変な馬を、幻視してしまう。
『 Clown=Lord になりかけのようにも見えますね』
『判断が難しいでござるなぁ』
『殺しておくべきだと思います』
『無益な殺生はよくないでござるよ、それに今の拙者達には虫を殺す事も出来ないでござるよ』
『コイツを今ここで殺せれば……… 』
驚いた、そして幻だと確信した。
アンリさんにそっくりのイケメンまで出てきた、いやまて、それだけではない。
「あ」
角の生えた六本足の馬もアンリさん似のイケメンも所詮は幻覚なので、耳元で、枕元で、廃墟の瓦礫元で、物騒な話をされても別に気にしない。
だから、思った事を口にしていた。
「カレンさんだ」
『な!?なんでその名を!? あ!いや、私の名前はスイニーンであって………
カレンさんの幻覚は変な事を言いながら消えて行った。
『精神状態を保たないと飛ばされると言ったはずなのだがな、結局、私と白彦様だけになってしまいましたね』
『さようでござるなぁ~』
幻覚達が何かを言っているけどあの人ではないから、もういいや。
「寝よう」今なら会えるかもしれない。
『寝ていても会えないでござるよ』流石は幻覚だ、私の隠している恥部をいとも容易く。
『会う? もしや!この時代に Clown=Lord の会おうとしている奴が!?』
『ぬぬぬ? それは分からぬでござるよ』
『では、いったい』
『乙女の秘密でござるよ』
『乙女? Clown=Lord が乙女???』
「失礼なアンリさんだな」本物はこんな事を言わない、やはり幻覚だ。
『既に私の名前を……… 』
『もう時間がないでござるから、一言だけ助言をさせてもらうでござるよ!』
『貴様は死ぬべきだ』
『ぬぬぬ!? 違うでござるよ!』
『しかし事実です』
『ぬぬぬ!?時間がないでござる!!!』
「幻覚って五月蠅いんだな」風よりも五月蠅い。
『会いたい人が居るのなら会えるうちに会っておくべきでござるよ!!! サヨナラでござる!!!』
『フフフ、確かにそれが Clown=Lord の根本的な問題なのかもしれませんね。 くだらない』
「会えないよ」私のこの言葉を聞くよりも早く幻覚達は消えて行った。
「会いたいよ」
お読みいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いいたします。




