帰還の足取り
挿絵が有ります、苦手な方はお気を付けを。
お楽しみいただければ幸いです。
AIドル、AIとアイドルを掛けた造語だが、現在では造られた当時とは違い2Dの存在だけではなくアンドロイドなどの3Dの存在にまで使われるようになり世間一般にも浸透してきた言葉である。
広まった要因の一つは、やはり彼女であろう。
『皆様、おはようございます。 本日の天気予報及び交通状況のご報告を務めさてていただきます【 日輪 】でございます』
【 日輪 】それは、都市構成及び都市防衛を行っている人工知能であり、世間一般ではそのコミュニケーション用アンドロイドを指す名前である。
都市型防衛機能や超高性能ナノマシン統括システムと呼ばれていた為に認知度が低く街にナノマシンを撒く事を拒んだ人が多く出た、それを考慮して造られたのがこのテレビに映っているコミュニケーション用アンドロイドだ。
テレビ、これが家に有ると珍しがられる。
懐かしい、まだ持ってんのかよ、何時代だよ、何それ?知らなーい古すぎぃー、等々、おちょくられたり小馬鹿にされてしまう。
私は片目なので3DテレビやVR、そしてHV等は正常に見れなかったり目が疲れたりするので置いておらず、古い型のTV、テレビと呼ばれていた物を置いている。
だって、それしか見れないから。
しかし、テレビは受信のデータ量が少ないので少しお得だ。
家族の残してくれた大事なお金なので無駄遣いはしたくないのだ。
だから、お洒落にかけてきたお金も少ない。
嘘だ、見栄を張った。
自分で自分の為にお洒落にお金を使った事など今まで無い… 。
「紫お母さんは旭お父さんの為に毎朝こんな事をしていたのか… 」同期生に話した時に驚かれたが、父親の為に毎朝メイクをしている母親は少ないらしい。
「ラブラブだったもんな」普通に考えて、こんな面倒な事を毎日顔を合わせる夫の為にする方が稀有であろう。
毎朝メイクをする時間が勿体無い、寝ていた方が良い。
「由美子お母さんも猛お父さんの為に毎朝こんな事をしていたのかな?」
写真を見る限り、きっとそうだろうなぁ~。
何だか恥ずかしくなってきた。
親の思い出話もそうだが、私のメイクの腕前に恥ずかしくなってきた。
「一時間かけてこれかぁ… 、 直前にカレンさんしてもらおう」
私がメイクをしているのは、彼氏が出来たからでも、思い人が現れたからでもない。
「表彰式になんて出たくはないのになぁ… 、 でも、仕方がないよなぁ… 」
私が能力に目覚めて一月余り、私は先日の任務でピエロ討伐10体を達成して勲章を授与する事となった。
と、いっても最低級の一ツ星だ。
それに先月で討伐数10体を迎えた者達100人で出席する事となっている。
更に、今回の授与者は100体超えの称号である二ツ星を授与する25人の精鋭と1000体超えの栄誉である三ツ星を授与する3人の英雄が出席する事となっており、授与式の主役はこの25人と3人、そう言ってもいいだろう。
でもしかし、私は一ツ星授与者の代表の1人だ… 。
私は登壇に上がる36人の内の1人なのだ… 。
少しでも見苦しくないようにメイクをしているのだ… 。
「ありがとうございます、カレンさん」軽く頭を下げた。
「いえいえ~、お綺麗ですよ」笑顔が可憐で美しい、何で私は顔の傷を掻き毟ってしまったのだろうか?
ニキビみたいなものなのかもしれない、この傷が顔に有るのが嫌だ。
「あ、ありがとうございます」こんな美人に褒められるのはお世辞でも嬉しい、嫌な思いが紛れる。
こんな傷だらけの顔が綺麗なわけがない。
こんな傷だらけの顔の私が登壇する事となったのは、きっと旭お父さんと紫お母さんのせいだろう。
何故なら…
「おめでとう、夏希ちゃん」
「ありがとうございます!畑中大将!」
畑中 薫:ピエロ討伐数3697体
旭お父さんと紫お母さんの友人であり、百合さんと共にこの九州国軍の大将を務める超人、
【 不老の戦女 】
そう呼ばれるに足る能力者だ。
一応、歳はとっているらしいが私と変わらないくらいの見た目年齢をしており、旭お父さん達とあまり年齢は変わらない人物に対して失礼かもしれないが、可愛い見た目をしている。
「これを胸に励みたまえ」
「はい!」
ピエロが外から九州に上陸してくることは少ない、薫さんの『励みたまえ』の言葉には日本を取り戻したいという願いにも似た想いが込められているように感じた。
幾千、幾万ものピエロを討伐しても旧山口県を奪還する事すらかなっていない。
ピエロは何故か海を嫌う。
九州は地形に恵まれていた。
恵まれていなければ生き残れては居なかった。
地下水、平地、高原、田畑、海川、恵まれていた。
何よりも、海が凍っていない事が救いであった。
アメリカや中国等が滅亡していく中で島国日本は Clown=Lord の再臨の地でありながらも、ピエロの脅威を肌身で感じても、最愛の者の骨と死で感じるには至っていなかった。
ピエロが流氷に乗ってやって来たあの日までは… 。
各国からの難民船の入国を拒否し鎖国政策を取り、餓えに苦しみながらも耐え忍んできたのにあっけなかった、と、そう旭お父さんは苦い顔をして語ってくれた。
恐怖が感染するように、ピエロもまた感染するのだ。
活力ある生者には感染しないのが唯一の救いである。
遺体がピエロ化しないように処理を施すのに掛かる金額は驚くほど高い。
旭お父さん達の残してくれたお金の大半を使ってしまった程だ。
家族の皆はそれを望んでいなかったのかもしれないけど、私には必要なものだった。
ピエロにはなりたくないから、廃人にはなりたくないから、帰る場所が、心の拠り処が欲しかったのだ。
ピエロになってしまう事がとても怖い。
夢に出て来る、あの人が、夢の中のあの人が寄り添ってくれていなければ今頃はピエロに呑まれていたのかもしれない。
私は弱くて見栄っ張りだ。
日本奪還の、本土奪還の要でもあるあの橋が落ちてくれないかと、あの地下道が崩れてはくれないかと、幾度となくも願った程に心が弱い。
自分で掻き毟ったから残っているこの傷跡に常日頃から心を乱され続けている程に心が弱い。
「九州国が再び日本国と一つになれるその時まで我々の戦いは終わらない!」
私はピエロが殺したかった。
ピエロを殺す事で私自身がピエロではないと確かめたかったから、証明したかったから、殺したかった。
そして私はピエロを殺せるようになった。
「より多くの星を集めよ!より多くの星を掲げよ!その星で太陽を再び生み出すのだ!!!」
「「「「「「「「「「 日出ずるその時まで!!! 」」」」」」」」」」
九州国の中央に坐する日本国は戦争を起こさない、起こせない。
だから私達が戦うのだ、ピエロ達と。
これは、ピエロと私達との戦争なのだ。
ピエロを殺せる私は、ピエロを殺し続ける。
いつしか私は私を、心を、殺していた。
皆のお墓に手を合わさなくなったのは、手を合わせなくなったのは、いつからのことだっただろうか。
私は今日もピエロを殺し家路についた。
お読みいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いいたします。




