帰還
地Fから始まり四部作全話をお読みいただいた方には心から感謝いたします、ありがとうございました。
これで完結です。
俺の役目は Clown=Lord を管理する事。
俺は魔王だ。
魔王なんだ。
夏希には申し訳ないことをした。
彼女の家族を殺したのは俺だ。
大英雄と呼ばれるに足る高レベルの人間をピエロが一撃で殺せるわけがない。
そんな奴だったらすぐに死んでいる、殺したのは俺なんだ。
フィルムの1コマ1コマを切り取り少しずつ書き込んでいった。
第一ノ神の代理者の能力を強化して行った。
負担は大きい。
こんな想いをするとは思わなかった。
俺が、俺の魂があの見た目を、Clown=Lord の見た目を受け入れてしまったのは今の俺が過去を知ったからだろう。
いや、触れてしまったからだ。
俺は魔王だ。
夏希は Clown=Lord だ。
そして彼女は神にさせられてしまう。
繰り返してしまう。
自ら死を望む、そんな想いはさせたくない。
神は分かってやったんだ。
恨む。
何で Clown=Lord 生んだんだ。
何で俺を生んだんだ。
そんな悲しい想いを今の夏希にはさせたくない。
これは死を望むよりも重く悲しい。
俺は殺さなければならない。
これは神の思い描いたシナリオなんだ。
Clown=Lord の思い通りになっていたのは神の描いたシナリオだからだ。
俺の考えを含めて。
この想いも含めて。
*
「化け物か」
味方へ向けての讃辞、敵へ向けての恐怖、人々の視線の先にいるのは化け物だ。
「アストラルアゲイン:オーラⅨ!!!」
「雷撃分身!!!」
「ドーム!!!」
3Dプリンターの様に浮き上がり迫り出したドーム、日輪が2人の大将の攻撃を最大限活かす為に造り出したドームが Clown=Lord を覆う。
「死ねぇッ!!!」
「来雷撃波!!!」
『五月蠅いわ!!!死ね!!!』
内と外から放たれた凄まじい衝撃波がドームを構成していた金属と超高性能ナノマシンを消失させる。
「クソがぁぁ!!!」
「まだだぁぁぁ!!!」
『どけぇぇぇ!!! 日輪をよこせ!!!』
隙を見て幾百もの能力者が攻撃を飛ばす。
『五月蠅いんだよぉぉぉッ!!! 雑魚の攻撃が効くわけがねぇだろうがぁぁぁ!!!』
Clown=Lord の振るったたった一発の拳で幾人もの精鋭と若き星々が散って行く。
「ロンギヌスの準備完了しました!!!」
「放てぇーーーーーーーーーーーッ!!!」
精鋭の一部が生身で Clown=Lord を押せえにかかり、日輪がそれをドームで覆う。
昼間に星の輝きが辺りを照らす。
衛星兵器:ロンギヌス
念力で操作された鋼の鏃が大地を貫く。
そう、大地を…
「ダメージ極小!!! 念力系は有効打になりえません!!!」
「それでもかまわん!!!有るだけ撃て!!!」
「大将方への心配は不敬である!!!力の限りぶつかって散れ!!!」
「 Clown=Lord の撃破はピエロの消失を意味する!!!この機を逃すな!!!」
英雄達が檄を飛ばす、Clown=Lordが何故此処に居るのかなど今の彼らにとってはどうでもいい事なのだ。
「アストラル系能力者を集めよ!!!」
「佐藤特等兵が居ればもしかしたら」
「何処に行ったのでしょうか?」
「霧の様に突然居なくなられたからな… 」
「一度 Clown=Lordは佐藤特等兵の前に現れていたな、その能力を警戒していたのかもしれないな」
戦火に迫られた一小隊の呟きに声が飛ぶ。
「集中しろ!死ぬぞ!!!」
「「「「「「は、はい! …え!?」」」」」」
「あー、あと、ただいま」
*
『サヨナラだ』
「死ぬかボケェッ!!!」畑中 薫は仲間の想いを背負いそう叫んだ。
『口から空気が出てないから何言っているのか分かんないよバーカ』
胸から手が抜かれた事で支えを失い崩れ落ちる畑中 薫を受け止めたかった。
受け止める腕も歩み寄る足も失った百合には最後の時を仲間の側で過ごす事も叶わない。
『さあ、日輪こんな所は早く出よう。 日輪を巻き込むような攻撃をしてくる連中なんか気にする必要はないよ』
「<ザザザザザ>」不快なノイズ音が辺りに響く。
不快、しかし Clown=Lordにとっては懐かしき愛の囁きであった。
「懐かしいね… 許せないね… 日輪によくも!!!!!!!!」
ピエロの考えている事なんて人間にも機械にも分からない。
ピエロがキレて地面を蹴り上げ、断層と下水管が日光に照らされる。
「凄いなぁ、初めて見たよこんな光景」
『はぁ???』
「佐藤特等兵!!!」 Clown=Lordの背に突然現れた佐藤 夏希に日輪が必死に声を飛ばす。
『勝って』という応援と願いを込めて声を飛ばす。
「何言ってるか分かんないよ」五月蠅い不愉快だ。
いきなり話しかけるなよ、枕詞の無い話なんて聞き続けられないよ、もう喋るなよ。
『日輪、何で私の名前は呼んでくれないのに… こんな傷物状態の未完成品を!!!』コイツも五月蠅い。
「もう死ねよ」能力を付与し腹に突き刺した旗槍をグリグリ回す。
『お前なんなんだよ!!!お前は私だろうが!!!』
「もうどうでもいいよ」そんな事どうでもいい。
『何が目的でこんな事を… 』
「会いたい人に会いに行く為だよ』
「はぁ???」
『なんだよ、私なら言いたい事くらいわかるだろう』
「あ、あれ???」
『私と入れ替わりたかったんだろ、ピエロは旗を通して流れ込んでくるんだよ。 知らなかったのか?馬鹿だなぁ~』
「え、あれ」
『ほら、会に行けよ』旗槍の先に付いた Clown=Lord を日輪のアンドロイドの方向へ投げやった。
ああ、今は私が Clown=Lord か。
なりかけの、なりかけの、なりかけ。
霧の様な霞の様な靄の様な、存在が生まれる。
そして、
『会いたい人に会いに行く』
死んだ。
確かに神は死ねた。
Clown=Lord であった東雲 夏希も日輪の下に逝けた。
佐藤 夏希も夢の中へ逝けた。
人間達も生きている。
結果だけ。
こんな事は許されない。
こんな事が許されてはいけない。
「遂に Clown=Lord を殺したぞ!!!」
人々は Clown=Lord の死体を、佐藤 夏希の死体を辱め貶める。
蹴り刺し殴りつける。
夏希に投げつけられているその石は投げている奴らの意思と意志の現れだ。
「日輪、佐藤特等兵お勤めご苦労様です……… 」反応無き人形とピエロの亡骸を前に人々は涙を流し手を合わせる。
Clown=Lord の腹に刺さっていた旗槍からとどめを刺したのは佐藤特等兵であると結論付けられる。
「大将や英雄達も此処へ……… 」星の輝きを宿した【 不老の戦女 】と電光石火の【 百合 】、そしてこの戦いで散って行った星々を生き残った皆で弔った。
俺は人間が嫌いだ。
触られるのも我慢ならない。
夏希にあんなまねをした人間が許せない。
俺は魔王だ。
俺が夏希を殺して生き返らせたら、夏希に取り込まれている神の魂まで蘇ってしまい繰り返してしまう。
夏希が自殺するしかなかったのだ。
そういうシナリオだったのだ。
納得がいかない、いくわけがない。
俺は魔王だ。
別の世界で仲間達が生きて行く為に、別の世界で再び夏希の様な優しい子が育ってくれるように、仲間達を殺した夏希の親を殺した。
夏希は人間だ。
人間が全員悪い奴ではない事くらい知っている。
俺は魔王だ。
もう、この世界に残しておくべき人間などいない。
間引きは人間にも必要なのだ、こんな奴らが異世界転生してきてはかなわん、苛立たしい。
管理するのは殺すよりも難しい、殺す事が管理の手段の一つとして用いられることなどよくある事だ。
人間はよくそれをしている。
神が死んだ世界で、神の弱った世界で、終末の世界で、 ………に、と言うべきか。でしか、と言うべきか。
そんな世界にしか魔王は現れない、そんな世界にしか存在しない、何故ならば魔王はそう世界に組み込まれているから。
悲しき存在である。
「 Clown=Lord の死体が!ああああああ!」
「佐藤特等兵のご遺体もだ!!!」
ネガティピア、負の感情を糧に………
主を失いし楽園に新たな主が決まる、その者は主としては充分な資格と力量を兼ね備えていた。
奪われていた死体人形が元の主の手に戻る………
屍霊形種の本体は魂であり肉体は入れ物に過ぎない。
魔王にとってはいとも容易く、まさに魔王然とした降臨。
しかし、死んでからしか意味をもてない悲しき能力だ。
「何だこりゃ……… 」
「嘘だろぉ……… 」
魔王は呆れかえる。
*
世界には限りがある。
だから世界を世界で廻さなければならない。
その廻りを人は、
運命とも、
輪廻とも、
律とも、
定めとも、
呼んだ。
そう読んだのだ。
私は、この廻りを悲劇と読もう。
そう呼んで欲しくないから、そう読むのだ。
私は、幸せなんだ………
………きっと、幸せなんだ。
*
これは魔王としての理である。
不幸が楽園
ネガティピア
彼は、魔王は、この流れを、シナリオを、変えたかった。
人間にとっては地獄だが、彼にとっては愛する者の眠る地。
魔王は凪の海を求めた、安らぎの為に。
「俺は魔王だ」
「か、神よ何故我々にこのような試練を」ふざけるなよ…
「悲劇か… 」何が悲劇だ…
「神よお救いください!!!」お前達が苦しめたんだろうが………
「神が来ようとも俺が殺す」
もう見たくはないのだ、繰り返したくはないのだ。
「この世界を殺す」
*
*
*
*
*
死の海に新たな命が生まれる事無く時が過ぎた。
*
『魔王は城に居る』不愛想に案内をしてくれた村人の言葉を思い出す。
「あれかな? あれだよね?」
しかしその城は暗く華やかさに欠けており、まるで人の住める墓であった。
勿論そこに住んでいる人間など居ない、住んでいるのは魔王だけだ。
門には簡素だが浮彫が施してあり、その中央には特徴的な文様が彫られていた。
「星の中央に雫ですね」
「見ればわかるでしょー」
「バカなのー」
「うふふふふ」
「<ブロロロロ>」馬の嘶きが門で跳ね返る。
「オマエまで笑うのですか?!酷い!!!」
「俺が開けてきますね」雄々しき馬の曳く馬車から毛皮を着た巨漢が飛び降り門を開ける。
「ありがとう」
「いえいえ!」嬉しそうな弾んだ声だが、頭に獣の頭骨を被っていてその笑顔を窺い知る事は出来ない。
門が開かれたことで城の庭に風がそよぐ、墓には花が添えられるがもしこの城が墓ならば眠る者は相当愛されていたのだろう、城の庭一面が色とりどりの綺麗で可憐な華々で彩られていた。
巨漢の男は馬車に再び乗り込む事は無く、辺りを警戒しながら馬車と並行して歩みを進める。
「城って言うのも頷けるなぁ、花の城だね」
「スゴイのぉー!!!」
「こんなに立派な庭園は私の記録にもありません、感嘆いたします」
「もしかしたら、魔王って案外と穏やかだったりしてな」
「それは無いと思いますぜ、だって世界を終わらせようとしているんですよ」
「会ってみないと分かんないよ。 だけど、私達は魔王を倒す為に、この世界を救う為に、異世界召喚されたんだから花に見惚れずに気を引き締めてくださいよ!」
「はーい」
「了解なのー」
「了解です」
「かしこまりました」
「分かりやしたぜ!」
「<ムシャムシャ>」
「コラ!道草…道、庭花(?)を食べる。 行儀が悪いでしょ!」
「もうそろそろ馬車から降りた方がいいかもですぜ」
空気がピリつく、それも痛いほどに。
その中心へと歩みを進めた。
馬も馬車を外され共に進む、彼もまた彼女らの一員なのだ。
彼女らは…
「私達は異世界より召喚されし勇者である!!! 貴様が魔王で間違いないな!!!」
城の中央、おそらくは玉座の間、勇者達は魔王の城の玉座の間まで歩みを進めたのだ。
そして、勇者は自らの名を叫んだ。
名乗り合うのが礼であるからだ。
「我が名は夏希!そなたの名を聞かせてもらおう!」
自らが何者なのかを名乗りながら、何者なのかを示す紋章の入った旗を付けた聖槍を掲げながら、勇者は、彼女は、困惑する。
先程まで辺りを支配していた痛いほどに身を切りつける程にピリついた空気が一変したから。
悲しみと、それと… なんと表現したらいいのかが分からない感情がこみ上げてくる… 。
「 ………俺は魔王だ」
「おかえり」「ただいま」
お読みいただき誠にありがとうございました。




