目覚めの光
初めましての方もそうでない方もよろしくお願いいたします。
四部構成の第四部、これが最終部となります。
たまに挿絵も貼りますので、楽しんでいただけたら幸いです。
世界には限りがある。
だから世界を世界で廻さなければならない。
その廻りを人は、
運命とも、
輪廻とも、
律とも、
定めとも、
呼んだ。
そう読んだのだ。
私は、この廻りを悲劇と読もう。
そう呼んで欲しくないから、そう読むのだ。
私は、幸せなんだ………
………きっと、幸せなんだ。
*
線香の香りが風に流され、物悲しさを鼻腔でも感じる。
「東雲のお父ちゃんの所にも線香あげなきゃだよ」二つ違いの妹が私の袖を引っ張り誘導する。
「分かってるし。知ってるよ、見えてるもん」三歩も離れていない隣の墓石を両親と妹が洗い始めようとしているのは見えていた。
「ケンカしないの」妹のせいでお母さんに怒られてしまった。
「三つも墓を洗うから疲れてんだよ、な!」私はべつに疲れたわけじゃない、たんにお父さんが休みたいだけであろう。
「はぁ、パパは娘に甘いんだから。もぉ~」夫婦で『パパ』『ママ』と呼び合うのはやめて欲しい、あと、肘で突き合うのもやめて欲しい。
「思春期真っ盛りの娘にそんなもの見せないでよ」
「そうだそうだ!」
「反抗期かしら?」
「だねー」
「何が『だねー』だよ、全然真に受けてないじゃん」お父さんはいつもこれだ。私がまだ12歳だからって女の子の成長を甘く見ている。
「そうだそうだ!」 …妹がアホなせいかもしれない。
そんな事を考えていたと、線香の香りで不意に思い出す。
自分のことを大人だと思っていた当時の私は、まだ幼かった。
今もまだ子供だよ、とか、ずっと私達の子供だよ、とか、旭お父さんと紫お母さんは言いそうだな。
「私はもう19歳になりました」知っているであろう当たり前の事を報告しながら佐藤家と書かれた墓石に手を合わせた。
ここには三人の遺骨が眠っている。
旭お父さんと紫お母さんと妹の冬美だ。
それ以前の、ご先祖様達の遺骨は無い。
「育ててくれてありがとうございます」こんな事を言ったら二人は苦い顔をしただろう。
もしかしたら、少し怒ったかもしれないな。
でも、それでも、感謝の気持ちを言葉にしていたいのだ。
「ありがとうございます」
私を我が子として育ててくれた二人には感謝の言葉もない。
二人は私の両親だ。
その事を誇りに思う。
産みの親が嫌いなわけじゃない。
産みの親が私を捨てたわけじゃないと知っているから。
由美子お母さんと猛お父さんは私が産まれる前に殺されたそうだ。
死んだ母から助け出された私は、母の兄の娘、その娘婿家族である佐藤家に、紫お母さんと旭お父さんに引き取られたのだ。
だから私のお参りするお墓は、佐藤家、紫お母さんの旧姓である山中家、そして猛お父さんの東雲家の三つなのだ。
私にとってはみんなが家族であり、私はみんなのことが大好きだ。
そう思える様に育ててくれたから旭お父さんと紫お母さんには感謝の言葉もないのだ。
でも、感謝の言葉をちゃんと口に出して伝えたいのだ。
言葉足らずになると分かっていても、言葉にできるような想いじゃなくても。
「大好きです。本当にありがとう… 」
勿論、冬美もアリアおばあちゃんも大好きだ。
「これから奴らを殺してきます。だから、目を瞑っていてくれたら嬉しいです…
と… 言っても… 紫お母さんには無理ですよね… 」
私は右目を、紫お母さんから移植された右目を右手で覆った。
私が初めて奴らを目にした6年前のあの日、奴らにより投げつけられた車、そして、激突した際に飛び散った車の部品やガラス片に石が、それらが直撃し私は両の目を失い、旭お父さんは頭を強く打ち脳死、紫お母さんは下半身を潰され静脈血栓塞栓症になり、冬美は車から漏れ出た燃料に焼かれて死んでいった。
たったの一撃、たったの一投、たったのそれだけで…
結果として生き残ったのは私だけ。
結果として私の中には移植された紫お母さんの右目と、輸血された旭お父さんの血液と、妹の苦痛の声だけが残った。
何も見えなくなった世界で聞こえてきた妹の叫び声と妹が焼ける音、それを見てか半狂乱になりながらも瓦礫から抜け出そうとする紫お母さんの悲鳴にも似た叫び声と瓦礫の崩れる音、私は、この二つの声と音を忘れる事は一生無いだろう。
脳裏に響く声と音を沈める為にも、私は奴らを殺すのだ。
だが、一番の理由は、奴らに殺された家族皆の魂の安らぎの為に、だ。
私はこの命続く限り奴らを殺すのだ。
私の生まれる前、アメリカや中国と言う名の国々があった頃、奴らは現れた。
奴らは…
< PPPPPPPPPP >
耳の裏に付けた機器がメッセージの受信を骨に伝える。
「はい、時間内には向かえます」メッセージを班長に伝え墓地を後にする。
「思ったよりも長いこと話しちゃってたんだな…」みんな話し好きだからいいかな。
「行ってきます。 」
*
「点呼!1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「6!」
「異常なし!第七班、全員戻りました!!!」
「了解した。防衛に移れ」
「承知致しました!」
誰も居ない空間に敬礼をする班長に続き私達も敬礼の姿勢をとる。
「健闘を祈る」
「ありがとうございます!失礼致しました!」
「疲れた」
「開口一番がそれですか… 」流石はダメ班長だ。
「この辺り一帯にばら撒いたナノマシンが日輪と接続されるまで後どれくらいかな?」
「2~30分ってところかね? 夏希副班長」
「ええ、そうです」班長が私に聞くなよ。
「2~30分か、アレに気付かれないといいけどなー」
「ですね」そう言って私達はそれを、奴らを、見上げる。
「デケーなー」
この世界にこれ以上無い醜悪な容姿と内面を兼ね備えた怪物は居ないだろう、その醜悪さは巨躯へと引き延ばされてもぼやける事は無い。
ピエロ、私達は奴らをそう呼んでいる。
「20mくらいかな」
「能力者の中にはアレと生身で戦える人も居るんだよな、化け物だな」
アイツらを素手で殴り殺せるなんて羨ましい話である。
もし、そうなれるのなら、私は化け物と呼ばれてもいい。
「ボー、としてどうした? またあの夢の事でも思い出していたのか?」
「違いますよ、ちょっと考え事をしていただけです」いつまでそのネタで私を弄るのだろうか、そのネタ以外に無いからだろうか?
「あの夢の続きの話なら聞いてみたかったのです」
「だよねぇ~」
「からかわないでくださいよ」18歳の成人式の翌日の飲み会で、酔った勢いで、夢で見た事の内容を話してしまったのだが、後悔している。
「いや~、だってさ、鬼の副隊長があんな乙女チックな夢を見ているなんてさ、プッ」この野郎… 。
「副隊長だってまだまだ十代の少女なんですから、お馬に跨った王子様の夢だって見ますよぉ~」やめてくれよ… 。
「うぅ… 。 」恥ずかしい… 。
こういう事には慣れない… 。
「「「「「 ・・・・・ 」」」」」
「な、なんだよ!」皆して同じ顔して馬鹿にしやがって。
「 …い、いや、何でもない何でもない」動揺している、何でもないはずがない。
「任務に戻りましょう!」
「戻るも何も元々、ずっと、任務中だ!ちゃんと集中しろ!」 私をいじって遊ばないでほしい。
「やっぱり鬼だな」
「一瞬、可愛く思えたのが嘘のようですね」
「副隊長は、元から綺麗な顔をされていますよ」
「中身は鬼だけどな」
「隊長がそんなんだからですよ」
「えっ!?」
「五月蠅い!」さっきからゴニョゴニョと何の話をしているんだ、「まったく… 」此処は戦場なのに気の緩い。
此処に居る皆には死んでほしくはないから、少しだけきつく当たってしまう。
それで鬼と呼ばれても別に気にはしない。
「奴らを殺して世界を取り戻すんだろ、しっかりしろよ」
「 アハハハハハハッ、そうだぞー、しっかりしろよー 」
私の頭は困惑に埋め尽くされる。
「「「「 !? 」」」」
「副隊長が二人!?」
隊長のその言葉に私は同意しかける。
一瞬、私が居る様に錯覚してしまう程に似た顔立ちの女性が立っていた。
声も似ている、いや、同一と言っていい程に同じ様な声をしている。
しかし、その女性は私と違い、髪は白く、衣服は華美で煌びやか、顔に傷は一つも無く、瞳は紅と蒼で左右異なりそれぞれが違う美しさを讃えており、そして何よりも、メイクとも痣とも言い難い左頬に星型と右頬に雫型の模様が私とは違うという事を主張しているようであった。
軍人として生きる事を決めた私の無骨な手と化粧も知らない傷の有る顔が恥ずかしく思え、目の前のこの女性と私が似ているなんておこがましい事だ、と、そう萎縮してしまった。
「アハハハハハハッ、そう怖がらなくてもいいんだよ。 一緒に幸せになろうよ」
甘い、とても甘い、ジャリジャリとした歯触りと舌触りを感じる程に砂糖を混ぜられた蜂蜜。
そんな蜂蜜に全身をまさぐられ、萎縮してしまった、強張った体をほぐされる。
柔らかさと棘を併せ持つ無数の指先が全身を撫で走る様な甘い吐息をかけられた。
「副隊長!そいつから離れろ!そいつはピエロの首魁! Clown=Lord だ!!!」隊長のその叫び声で私の意識は保たれる。
落ちてしまうところだった。
いっそのこと落ちてしまいたかった、と、そう思ってしまう程に心地が良かった。
「しっかりしてください!」私を後ろに引っ張った麻由里が私の肩を強く揺さぶる。
「大丈夫」その声が小さかったせいか、再び、二度三度揺らされる。「大丈夫だから!上に連絡をして!早く!」揺れから解放された私は銃口をピエロの首魁 Clown=Lord へと向けた。
戦わねばならないが、私達では相手にならないのは明白だ。
なので、時間稼ぎをしなければならない。
まだ、発砲はしない。
だから、早まる気持ちを抑え、力む指先から意識を移す。
「まるで鬼の形相だよー、そう力まないでいいんだよー」
羞恥と憤りを覚える。
鬼の形相と言われたことが恥ずかしく、その余裕の態度が疎ましく、ピエロの首魁と似ている事に対して心に靄がかかる。
「私が私を嫌ってどうするんだい?」
「私はピエロなんかじゃない!!!」同じような顔をしている事で違いが明白になっている。
心の何処かで『負けている』と思ってしまっているその気持ちを飛ばす為にも私は叫んだ。
「私の!家族の!仇だ!」支離滅裂なのは言っていって分かったが、叫ばずにはいられなかった「死ねぇッ!!!!!」
「副隊長に続けッ!!!!!」会話での引き延ばしは困難だと判断してくれたのだろうか、ありがたい。
「そんな攻撃が効くわてないでしょ」
何が起こったのか分からなかった。
この、見た目の美しいピエロは見た目が美しい分、他のピエロよりも中身が醜い様に感じる。
「何で、また私だけ… ? 」
「そうだよ、此処には今私しか居ないんだよ」
亀裂の様なそれでいて深く満面の笑み、嗤み、だった。
能力者と非能力者の差はあまりにも大きく広く深い。
思わず天を仰ぎ見た私は青空に輝く一つ星を見た。
衛星兵器
国にとってしても非能力者の一部隊など取るに足らないという事なのだろう。
ピエロの首魁の死を間近で見れるのだから、特等席と言えるのかもしれない。
「人の心も醜いな」私は良いけど、仲間達の事を考えたら国のこの行動には憤りを感じてしまう。
集団で生活をしているのだから、統率側がこういう判断を強いられる状況は多々有り、仕方のないことだと理解している。
でも、当事者になると思うところが出てくるものだ。
「分かっているじゃないか、流石は私だ」
「私はお前みたいな皮肉は言わないよピエロの首魁、死ね」衛星兵器の煌めきが、自重落下を超える速度で大気圏外から落下、元を意、突入して来た鋼鉄の鏃と空気の摩擦により生じた炎が辺りを白く照らし焦がす、20mを超えるピエロの影も見えない程の眩い光だ。
「随分とまー、ストレートだねー」
真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに、直撃した。
真っ白だ。
此処は何処だろう?
誰か居ないのかな?
驚いた、ゆっくりとだが、驚いた。
誰かに耳を塞がれながら寄り添われる感覚に抱かれる。
何故だろう、凄く落ち着く。
「ただの愚痴になるかもしれないから、耳を傾けずに聞き流してくれてもかまわない。 いや、そうしてくれるとありがたい」今日はよく驚かされる日のようだな、夢に出て来る男の声だ。
その声に耳を傾けるなと言うのは無理な話である。
「君に俺と同じ思いはさせたくない」どういう意味だろうか?
疑問が声にならない、声として出て来ない。
「君と奴の肉体と魂が入れ替わってしまえば、君は見知らぬ世界へと、圧縮されたバネの様に弾き飛ばされる」急に何の話をしているのだろうか?
いつもの様に姿を見せてほしい。
「そして奴はこの時代のこの世界に留まり、その先に居る俺達だけではない、大勢の者達の命と人生を変えてしまう」悲しげな声だ。
傍に居るのなら慰めてあげたい、そう思ってしまう程に聞いている方も悲しくなってしまう声だ。
「俺の我が儘なのかもしれないが、でも、受け取ってほしい」夢に出て来る会った事も無い男の我が儘をきいてしまう私は、少しダメな女なのかもしれない。
いや、だって、夢だし、かっこいいし、し、仕方ないよね!
うぅ… 。
誰に言い訳をしているんだろう?
何で私は夢を見ているんだろう?
と言うよりも、私は死んだんじゃないの?
「屍を抱く君へ、屍を抱く君にだからこそ送れる俺からの最後の我が儘だ」え、最後の?
その言葉に私の疑問は吹き飛んだ。
急だ。
心に穴の開いたような冷たくて悲しい気持ちになる。
まって
「今まで話しに付き合ってくれてありがとう。
君の望むままに生きてくれ、さようならだ。じゃあな」
ねえ、まって
行かないで
あなたも私を置いて行ってしまうの… ?
夢の中の人に想いを寄せてしまっていたのは、夢の中の人なら居なくならないと思っていたからなのに… 。
衛星兵器の輝きが見えたあの時に、すぐに受け入れられたのは皆の所に行けると思ったからなのに… 。
此処には誰も居ない。
皆何処に行ったの… ?
まって
まってよ
「ねぇ… ま… って、 よ」ようやく声に出た。
あの人には届いているのだろうか?
「先生!夏希さんの意識が回復しました!!!!!」聞きなれない声が私の鼓膜を強く叩く。
「此処は何処?」
お読みいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いいたします。
・各部時系列順
マトリョーシカ~百旗の英雄物語~ → 地点F~魔物の戦争と屍の冒険譚~ → グッドモーニングサタデー → マトリョーシカ~百旗の帰還~
・部構成
地点F~魔物の戦争と屍の冒険譚~ → マトリョーシカ~百旗の英雄物語~ → グッドモーニングサタデー → マトリョーシカ~百旗の帰還~




