検問
食欲のない今の状態で、目の前のカツカレーを胃袋に収める自信は、もぐらには無い。
「弁蔵、いくら受験生だからって……」
「違うっす。 アニキ、今日カメに負けて落ち込んでたから」
カツカレーは、弁蔵の気遣いであった。
落ち込んでいた理由は、カメに負けたことより、弁蔵に後れを取ったことにあったが、それでも、この後輩のことが、少しかわいく思えた。
(……全く、ズレたやつぜよ)
もぐらは、スプーンを取ると、カレーを一口食べた。
「……どうっすか?」
「うめぇぜよ」
カツカレーを平らげると、二人は眠りについた。
翌日、再び九州を目指し、日が暮れた頃、九州の入り口である大分の検問までやって来た。
門の前に小屋があり、部外者は通行料を払うことで中に入れる。
列に並んで待っていると、もぐらの番が来た。
「出身を言え」
強面のもぐらの検問官に問われ、答える。
「出身は東京ぜよ」
「何が、東京ぜよ、だ。 四国の者の通行料は2倍だ。 4万モグー払ってから中に入れ」
(……やっぱり、そう来たぜよ)
もぐらの手持ちは300モグー。
嫌がらせ以前に、そもそも足りない。
一旦列から離れ、弁蔵と話し合う。
「九州も四国も、お互い仲悪いっすからね」
「何かしらの嫌がらせをしてくるとは思ったが、仕方ない。 金を稼ぐぜよ」
通りがかった店でバイト募集してたかな、ともぐらが考えていると、弁蔵が声を張り上げた。
「見えたっ!」
「……何か閃いたのか?」
「ここから離れて、壁を掘りましょう」
(壁を掘る? やっぱり、検問を迂回するルート を掘り進める気か?)
弁蔵が続けて説明する。
「ここら辺には、ある物が埋まっているはずっす」
天然のダイヤモンドかな? と考えていると、弁蔵が答えた。
「違うっすよ。 ここら辺は、昔ゴミの集積場だったんす」
「まだ何も言ってねーぜよ!」
今は禁止されているが、この海にゴミを投げ捨てる業者が多数存在していた。
掘り進めれば、そういったゴミが土の中から出てくる。
「そういうことか。 とりあえず、掘り進めてみるぜよ」