ホテルにて
「狭い部屋ぜよ……」
部屋の広さは6畳。
床は畳で、備え付けのベッドがあるが、そのせいで部屋が余計狭く感じた。
「部屋が空いてただけでも、良しとするっす」
(……実際、俺の部屋もこのくらいだけどな)
弁蔵は最寄りのコンビニへ買い出しに行き、その間にもぐらはシャワーを浴びることにした。
蛍光灯の切れかかった、古ぼけた通路を真っ直ぐ進むと、シャワー室を発見。
しかし、扉の奧から水の音と鼻歌が聞こえてくる。
(なんぜよ、使用中か)
シャワーはホテルに一つしか無く、ここから離れたら他の者に使われてしまう恐れがある。
もぐらは、先客の鼻歌を聞きながら、待つこととなった。
そして、シャワーから男が出てきた。
(……!)
「待ってた奴がおったか! ここのシャワーにはあまり期待しない方がいいぜよ」
がっはっは、と豪快に笑い、男は去って行った。
シャワーの蛇口は、いくら捻っても、チョロチョロとしか水が出ない。
少ない水を使い、石鹸を体に馴染ませ、泡立てる。
(まさか、あいつだったとは……)
もぐらは、さっきの男を知っていた。
かつてもぐらは、東京のチバ先生という、北辰一刀流の剣の先生の元で修行をしていたが、その時の弟子の中に、さっきの男がいた。
弟子の数は、100以上だったが、その中でもずば抜けて強い男が二人。
一人は九州のサイゴウ。
そしてもう一人が、今の男、サカモトである。
(やっぱり、向こうは覚えてなかったぜよ……)
部屋に戻ると、弁蔵が何やら準備を始めていた。
「あっ、アニキ。 今から、俺の得意料理を振る舞うっす!」
受付から借りてきたコンロを使い、鍋で水を煮詰めている。
「……別に、弁当で良かったぜよ」
さっきの件で、もぐらはかなり気落ちしていた。
その為、食欲も湧かなかった。
「まあまあ、待ってて下さいっす!」
弁蔵は、フロントにあるレンジで、予め温めておいたさ〇うのご飯を紙の皿に乗せ、更にとんかつをその上に乗せた。
「コンビニの横に総菜屋があって良かったっす」
鍋から銀色の袋を取り出すと、破いて中身をかけた。
「弁蔵特製、カツカレーっす!」
「……オエッ」