通過
もぐらたちは、岩陰に隠れ、どうするかを話し合った。
正面から突破するにしても、爪では甲羅に対抗できない。
かと言って、新たに迂回ルートを掘るにしても、別な亀と遭遇したら意味が無い。
「八方塞がりぜよ……」
すると、弁蔵がこんなことを口にした。
「……なら、僕が話、付けてきましょうか?」
「お前が?」
自信は無いっすけど、とつぶやき、弁蔵は亀の元へと向かう。
(弁蔵のやつ、どうするつもりなんだ?)
「またお前かっ!」
亀が弁蔵に気付き、いきり立ってきた。
「亀さん。 あなたはここが自分の縄張りとおっしゃっていますが、それなら証拠を見せて下さい」
「……証拠?」
「このトンネルは、我々もぐらが掘ったもの。 つまり、あなたがここを自分のものと言うのなら、国からこの土地を購入したのでしょう。 その際、土地の権利書を譲り受けているかと」
とは言え、こんな通路のど真ん中を売りに出している訳がない。
また、トンネルそのものを購入する財力など、目の前の亀には無いだろう。
「あるんですか? 権利書」
「……ねーよ、バカヤローめっ!」
亀は、ノソノソとその場から立ち去った。
(弁蔵にいいとこ取りされるとは、不覚ぜよ……)
内心、失敗すればいいのに、と思っていたもぐらは、若干へこんだ。
「しかし、九州まで、一体どれくらいあるんすかね?」
トンネルには、標識のようなものもない。
まだスタートしたばかりであったが、早くも不安が募る。
「……そこのアンコウに聞いてみるか」
「それなら、九州と四国間を常に行き来してる魚に聞くのがいいっすよ。 あそこのブリの方が、いいんじゃないっすか?」
ブリは餌を求め、幅広い範囲を回遊している海水魚である。
丁度、一匹のブリがもぐらの頭上を泳いでいた為、話を聞くことにした。
「すんませーん、ここから九州まで、どれくらいっすか?」