カーチェイス
「ちょっと借りるぜよっ」
普段持ち歩いている木刀で、原付に跨がって談笑している学生をなぎ倒す。
アクセルを握り込み、エンジンを吹かすと、道路へと飛び出した。
後方で、バカヤロー、という叫びが聞こえたが、後で謝って返せば良い。
(今は、奴を追うのが先だっ)
しかし、中々タカスギを捉えることはできない。
原付のスピードメーターは、いくらふかしても60キロから先を差さなかった。
(これじゃ、一生追いつけねーぜよ……)
タカスギは恐らく、都市の決まったコースを走っている。
(このまま走り続けると、どうなる?)
周回遅れになり、僅かな時間、タカスギと並走することができる。
その一瞬の内に、木刀を前輪に突き立てればいい。
(……チャンスはあるぜよ!)
もぐらは、原付のスピードを緩め、タカスギが後ろから迫るのを待った。
しばらくして、かん高いエンジン音がした。
ミラーで確認すると、タカスギが猛然と迫ってくる。
もぐらもスピードを上げて、できるだけ並走できる時間を増やす。
そして、車体が真横に並んだ。
「くらえっ」
「……!」
しかし、前輪に差し込む直前、タカスギに気付かれ、木刀を掴まれた。
「てめぇ、サカモトと一緒にいた野郎か」
木刀を掴まれたまま、徐々に後方に下がっていく。
「俺を倒したいなら、サイゴウを連れてくるんだったな」
「……サイゴウさんに頼るまでも、ねぇっ」
もぐらは、一気にブレーキをかけた。
車輪が滑り、激しくスピンする。
「……!」
そのスピンに、タカスギのバイクが巻き込まれ、両者共、回転しながら道路に火の粉を散らす。
「うぐっ……」
もぐらは、横倒しになったバイクから離れ、どうにか立ち上がった。
タカスギの方は、起き上がってこない。
「回転には慣れてるぜよ」
「……オエエッ」
目を回し、立ち上がれないタカスギに木刀を向けた。




