アパート
宝石を手に取り、そのまま立ち去ろうとしたもぐらであったが、ベンチに倒れている輪島を一瞥すると、このまま見捨てるわけにはいかないか、という気持ちが湧いてきた。
「……輪島さん、起きるぜよ」
「うっ、ぐぅ……」
もそり、と起き上がると、辺りを見渡した。
「ここは、公園か。 ……おめぇが俺を運んだのか?」
「あのままいたら、水没してたぜよ」
「……あのまま死んでたほうがマシだったかもな」
ふっ、と自虐的な笑みを漏らす。
もぐらは、手にしていた宝石を輪島に見せた。
「……! そいつは……」
「これは、輪島さんがすいとんに入れてた宝石ぜよ。 これを売って、やり直すぜよ」
「まだ運は残ってやがったか! そいつを元にして、一発逆転だ!」
「ちーがーうーだーろーっ」
もぐらが怒鳴り声を上げると、歩いていたホームレスが驚き、抱えていた空き缶が辺りに散らばる。
「これを売って、住むとこを確保するぜよ。 そして、ちゃんと働くんだ」
「……そんなチンタラしてる暇、ねぇんだよっ」
バチン、ともぐらが平手打ちを食らわせた。
「てめっ……」
更に手を返し、バチン、と平手打ちを続ける。
「おまっ、やめっ」
バチンバチン、バチンバチン、と平手打ちを繰り返す。
「やめっ、いてっ、いてえっ、わかっ、分かった!」
「分かればいいぜよ」
夜が明け、市内の宝石を取り扱うショップにやって来ると、店員に宝石を見せた。
「ん~、なるほど! このサイズのダイヤなら、30万ですね」
「ふざけんなっ! それだけでけぇダイヤは滅多に……」
輪島が言い切る前に、もぐらが手を上げる。
「ひっ、そっ、それでいいです」
「しつけが行き届いてますね」
にっこりと店員が微笑んだ。
この後、不動産に向かい、市内にある格安のアパートを借りることにした。
駅から15分、ワンルームのユニットバスで、広さは6畳。
家賃は2万5000円である。
不動産に提出する職業や現在住んでいる住所は、輪島が資料を偽造した。
「こういうのは得意なんだよ。 ホームレス仲間にも作ってやったりした」
こうして、もぐらと輪島の同居生活がスタートすることとなった。




