一文無し
「うおっ!? や、やべぇ!」
「冷てぇぜよっ」
ツルハシが抜いたのは、劣化した配水管であった。
穴から勢い良く水が溢れる。
輪島は、ツルハシで穴を塞ごうとしたが、一時しのぎにしかならず、隙間から水が漏れ出す。
「くそっ、おめぇ、上でふさげるもん取ってこい!」
「こんなの、どうやって塞ぐぜよ? そもそも、防犯カメラが回ってるんじゃ……」
輪島は、使えねぇな、と怒鳴り声を上げたが、何かで繋ぎ止める方法は思い付かなかった。
「……輪島さん、ここはもう……」
「っざけんなっ! やっと手に入れたチャンスなんだぞ! 捨てられるかよっ」
しかし、このままではトンネル内は水没してしまう。
輪島は、それでもギリギリまで採掘を続けると言い張り、ツルハシを抜いた。
「馬鹿野郎っ」
バチン、と平手打ちの音が響いた。
「……な、何しやがる!」
「ここにいたら水没して死んじまうぜよ! 命の方が大事だろ」
輪島は、もぐらの言うことを聞かず、穴を掘り進めた。
「……輪島さんっ」
「俺には、これしかねぇんだ……」
輪島は、この鉱脈で稼いだ3000万を、女、車、高級マンションの賃貸につぎ込んだが、たったの半年で破綻した。
「妻も、家も、取り戻したかったんだ」
「夢見てんじゃねぇ、目を覚ますぜよ!」
「……目を、覚ます? これは、夢?」
輪島は突然、ツルハシを振り回し始めた。
「これは夢だったのかっ、あははっ、あはははっ」
所構わず壁を叩きまくる。
すぐ脇には、配水管があった。
(やべぇ、これ以上穴を増やされたらかなわんぜよ)
もぐらは、暴れている輪島の脇腹目がけ、拳を打ち込んだ。
倒れた輪島を担ぎ、裏の従業員の通路から店を出た。
幸い、常駐している警備は怠慢で、一瞬監視カメラに姿が映っていたものの、騒ぎにはならなかった。
そんなこととは知らず、もぐらは公園の住まいに戻ってきた。
「ふう…… 何とか帰ってこれたぜよ」
輪島は気を失ったままである。
(こいつのせいで一文無しぜよ…… いや、待てよ)
もぐらは、テントから出て、炊き出しの所までやって来た。
(……あった!)
足元には、ピンクのダイヤが転がっていた。




