すいとん
「随分太っ腹な奴だな。 ほら、食え」
一万円札を財布にしまい、男は器にすいとんをもそった。
もぐらに差し出すと、その器から湯気が立ち上り、顔に纏わり付く。
生まれて初めての箸だったが、かまわずかき込んだ。
「ゴリッ……」
具の中に、噛み切れない程硬いものが入っている。
慌てて吐き出すと、コン、と音を立てて地面に落ちた。
「なっ、何の嫌がらせぜよ!?」
「おめーがそのダイヤを引き当てるとはな」
「……えっ?」
もぐらは足元を見た。
ただの石ではなく、キラキラと光りを反射させている。
すいとんの中に入っていたものは、紛れもなくダイヤモンドであった。
「……ピンク色の、ダイヤ?」
「まあ、話を聞け」
男は経歴を話し始めた。
男の名前は輪島(48)で、元々建設会社で働いていたが、ギャンブルにのめり込んでいた。
ある日、競馬で家と家族を失い、自暴自棄になっていた所、リストラに遭う。
年も40代後半、再就職先も見つからず、日雇いの現場仕事をしていたが、更なる不幸が襲う。
「地盤沈下だよ。 俺は、地面の裂け目に落ちた」
「……」
すいとんをすすりながら、もぐらは耳を傾けていた。
輪島は、裂け目に落ちながらも、まだ生きていた。
そこで、思わぬものを目にした。
ダイヤモンドの鉱脈である。
「何もかも失って、ようやく俺は一山当てたんだ。 秘密の鉱脈さ」
「秘密なのに、何で話したぜよ?」
輪島は、それがなぁ、とため息を吐いた。
「……この所、新しいダイヤが掘れなくなっててな。 そこで、ピンク色のダイヤをすいとんの中に入れて、それを引き当てたラッキーなやつに、手伝って貰おうと思ったんだよ」
まさか、こんな自分にうってつけな話があるとは、もぐらは思わなかった。
穴を掘ることは、もぐらの得意中の得意である。
「喜んで協力するぜよ!」




