人間へ
「ナポリタンとハンバーグセットをお持ち…… きゃああっ」
入ってきた店員にタカスギは気を取られた。
その隙に、サカモトがタカスギの爪を絡め取る。
「その窓から飛び降りるぜよ! ここは、俺が食い止める」
急いで窓を開け、もぐらと弁蔵、サイゴウは屋根の上に飛び降りた。
「逃がすかっ、ピュイイッ」
タカスギは、指を唇に添え、笛を鳴らした。
森の方から、何かがこちらに迫ってくる。
「北辰一刀流、風属性、木枯らし!」
「……!」
指の筋肉を鍛えることで、爪をドリルのように回転させることが可能となり、相手を弾く。
タカスギの爪が外れ、隙が生まれた。
「くっ……」
タカスギは、とっさに地面にぶちまけられていたナポリタンを掴み、投げつけた。
木枯らしで回転していた爪に、ナポリタンが絡みつく。
「しまった!」
「うおおっ」
タカスギは、地面を蹴り、サカモトに突進した。
「何ぜよ、あれ……」
もぐらが空を見上げると、何かが迫ってくるのが見えた。
「イナゴでごわす!」
迫って来たのは、イナゴ。
その背に、タカスギの手下が跨がっている。
もぐらがトルネイドで迎撃しようとすると、弁蔵が叫んだ。
「アニキっ、銃だ!」
ギラリ、と光る鉄の塊。
相手は、トリガーに指を添え、もぐらに狙いを定めた。
慌てて屋根から飛び降りると同時に、弾丸が炸裂する音が空間内に響く。
「きゃああああーっ」
街は、来襲したイナゴの群れでパニックに陥った。
「コゴロー殿、地上は危険でごわす。 一旦地中へ」
「……分かったぜよ」
地中に潜り、そこから様子を伺う。
相手の数は、およそ10。
狙いは、鶴の丸薬である。
(どうすりゃいい? このまま地中にいても、ラチがあかんぜよ)
もぐらがどうしようかと頭を悩ませていると、すぐ隣に潜んでいたサイゴウが、こんな提案を持ちかけてきた。
「地上のイナゴを殲滅する手があるでごわす。 そのために、街のみんなを地中に逃がさねばならんでごわす」
「そんな手があるのか! まさか、ここで丸薬を飲むとかじゃ、ないよな?」
もぐらは、冗談を言ったつもりだった。
「……その通りでごわす」
「なっ!」
サイゴウは、もぐらが止める間もなく、穴から声を張り上げた。
「みんな、地中に避難するでごわす!」
あらかた避難が完了したのを確認すると、サイゴウは懐から丸薬を取り出した。
「コゴロー殿、準備はいいでごわすか?」
もぐらも、丸薬を取り出す。
「……」
既に、弁蔵は地中へと逃げている。
サカモトがどうなったかは分からないが、それを確認しに行けば、捕まりかねない。
「コゴロー殿、さっきのタカスギという男、あれは、丸薬を使って、人間に戦争をけしかけるつもりかも知れない」
あくまでサイゴウの予想であったが、もぐらも同意した。
(外見で判断するのは良くねーけど、あの淀んだ目は、そんなことを企んでそうな目ぜよ)
「……行くぜよ、サイゴウ」
もぐらは、丸薬を口に運んだ。




