プロローグ
とあるアパートの一室。
ここに、茶をすすりながらテレビを見るもぐらがいた。
「今年もあと少しぜよ」
人間界の電波を拾い、今見ているのは紅白なる番組だ。
こたつに入りながら、爪でミカンの皮をむく。
年の瀬の定番の過ごし方と言えよう。
ミカンの欠片をつまみ、口に運ぼうとした時だった。
「……あれ?」
突然、テレビにノイズが入った。
「何ぜよ~、これから安〇ちゃんが出るってのによぅ」
こたつから這い出て、テレビの頭をガンガン叩く。
ノイズは消えず、更に画面が荒れるのを見て、もぐらは爪を振り上げた。
(こなくそっ)
すると、今度は大きく足元が揺れた。
(……地震!?)
慌ててこたつの中に潜り込み、揺れが収まるのを待つ。
(……)
ところが、いつまで経っても揺れは収まらず、暑さに耐えかね、もぐらは外に飛び立した。
「ぶはあっ、耐えきれんぜよっ」
こたつから這い出て、アパートの外に出る。
バアン、と扉を開けると、隣に住んでいる受験生の弁蔵が、天井を見上げていた。
「弁蔵! この地響きは一体何ぜよ?」
弁蔵は眼鏡を爪で押し上げ、得意げにこう言った。
「……何すかね」
しばらく外にいた二人であったが、中々揺れは収まらない。
「部屋、戻るか」
「……そっすね」
その内収まるだろうと、部屋に引き替えそうとした時だった。
天井の岩盤から、巨大な何かが姿を現した。
「う、うわあああーーーっ」
それは、人間界でいうドリルと呼ばれる物だった。
「あれはドリルっす! 人間共が、この真上で工事を始めたんすよ」
近年、こういった工事によって、もぐらは住処を奪われていた。
「ここも、引っ越さないといけなくなりますね……」
(……くそ、人間共の好きにさせてたまるかよ…)
もぐらは、ある決意固めた。
「……弁蔵、九州のサイゴウの所に行くぞ」