第92話 勝戦処理その1
「研究室の研究員から伝言です」
「はいよ」
「王様の首が繋がったそうです」
「そうか」
「……葬儀は2週間後の真昼となりました。関係者として出席をお願いします」
「わかった」
俺はスコールの様な雨が降り注ぐ南門前。宿泊先の安宿の軒先で、雨に打たれながら汚れた白衣の小間使いから研究室からの伝言を聞いた。一応、首を繋げて防腐処理をした後に葬式になると言う事か。2週間と言うのは他国から弔問を受け付けるという意味だろう。
今この国の機能は完全に麻痺している。政治的選択や決定を王の意志に一任していた為に官僚機構は最低限しか数を揃えて居らず、3人いる大臣も責任感のある者が皆無で、選択や決定を任される“王”に任命されるくらいなら辞任する。と口を揃えて言っている様だ。
七百人隊長はその政治的な基盤の弱さを変えるために動いていたならば……、俺が関与しなければ“救国の英雄”だったかも知れない。そして、その七百人隊長はロンドヴルームの神殿騎士に討たれ、守るべき国王すら“俺の部下”の連続快楽殺人犯によって首を斬られた……。
俺が此処で行った事は正しかったのだろうか。
クーデターを止めて良かったのだろうか?
クロスアーミー先生を呼んで良かったのだろうか?
恐らく答えは出ないだろう。
「ロンドヴルームの神殿騎士クロスアーミー閣下の演説です!」
殆んど怪我人すら居ないロンドヴルーム兵と、金を掴まされたような顔をした現地民が人を集め始めた。
ろくでもない事を言うのだろうよ。
クロスアーミー先生は演説台代わりの崩れかけた南門の上に上がって大声で演説を始めた。
「この度はこの国に取ってとても不運な出来事だった。かの善王が七百人隊長のクーデターによって命を落とされた。この事は何より魔法都市グルグルの損失であり、我々ロンドヴルームに取っても痛恨の極みだ。我々ロンドヴルームはかの善王のクーデターを予見し、悪逆の七百人隊長を討つべく国中の戦力を集め300人の兵士を送り込んだ。死闘の結果、720人居た魔法都市グルグルの兵は僅か110人となり、今後兵士として仕事を続けられる者はほんの50人だけとなった。それは、残念ながら国家としての体を成さない程の兵力だ。これだけの力では残念ながら街の治安維持はおろか、盗賊達の襲撃にすら耐えられない。故に、我がロンドヴルームが、私クロスアーミーが将軍代理として魔法都市グルグルを守り抜く事を誓おう」
異常な拍手と声援が群衆から上がる。
仕込みがあるにしろ見た感じの反応は良いように思う。
「そして、空位となった国王の座も次が決まるまで守る事を誓おう。だが、国王は未婚で血縁者が希薄だと聞いている。故に、新しい国王を血縁を辿って見付ける事に空虚な思いを抱く者も多いだろう、だが、この国の現状を見るに一刻も早い強力な支配者を望んでいるだろう事と予想がつく。そこで……だ、ここは私に任せて欲しいのだが……どうだろうか?」
「……」
「……クロス! アー! ミー!」
「「クロス! アー! ミー!」」
「「「クロス! アー! ミー!」」」
ワァアアアアア!
クロスアーミー先生は群衆に手を振った。
先生、前半で言ってる事と後半で言ってる事違いますよ?
恐らく演説の感触で路線を変更したのだろう。狸め。
◇ ◇ ◇ ◇
この国は王、研究室、軍の三本柱に僅かな官僚で支えられていた。だが、王は死に、軍も七百人隊長を失い、720人居た兵士も僅か50人程に減った。その2つを埋めるには外国からの介入を許すしかない。
だが、周辺の都市国家郡はルルーシュインの故郷マ・ンがそうだったように興亡を繰り返す群雄割拠の状態にあり、信用出来る国家は少ない。その中で聖光教会の運営するロンドヴルームの信用は高い方なのだ。
王と七百人隊長の死はロンドヴルームが原因と言うのは多くの者が見ていた。だが、その事を口に出す者は居ない。
その理由としてはクーデター自体は七百人隊長が起こしたモノだと、王が拡声魔導具で宣言してからの戦闘であった事が大きい。
それから俺が街の社会不適合者やはぐれ者を必死に集めて社畜隊を強化していたのはグルグルの住人が見ている。故に、連続快楽殺人犯もある意味ではグルグルの膿の部分であって、腕章を渡した社畜隊には非がないと思っている部分もあるのだろう。
そして、何よりこうなってしまった以上はロンドヴルームが街唯一の救世主でもあるからだ。
――――雨は降り続く。雨は負傷者の傷を洗う恵みとなり、体温を奪う障りとなり、ほんのチョッピリ惨劇の視界を狭める。畑にするには血を吸いすぎた土が何処までもぬかるんでいた。
◇ ◇ ◇ ◇
……俺は居たたまれなくなって、薬を作る材料を取りに両手の無い男とパットミちゃんと街外の林へと向かった。
「ふぅ、この国の王も愚図だったが、国民も相応に単純だな」
「そもそもこの国の住人は政治に興味何てありませんよ閣下」
森へ向かおうと崩れた城壁の側に近寄った時に、こんな呟きが聞こえた気がした。




