第89話 最悪の結末 前編
それから更に1週間後――――。作戦決行日。
俺は資金難に喘ぎつつ――、幾つかの仕込みをしながら過ごしていた。近所の森に入り、水包の体液をベースとした傷薬や軟膏の作成、現地民のすすめで包帯の代わりになる伸びる樹脂の採集もした。うん、これゴムかな。近所の森での活動中は狩人の六感と緊急避難の魔素避音波で水包以外の魔物とは出会う事はなかった。水包の核は何気に役立つので数を集めておいた。微々たるものだが集めれば魔法部隊の弾数になる。
◇ ◇ ◇ ◇
「おーい、来たぞー」
「ザコの運搬と西の砦への連絡回しは終わりましたぜー」
先ず援軍として呼んだウィルソンチャック十人隊長と配下10人の工兵部隊が合流した。肘の骨折(脱臼)は良くなったらしく、ギプスは外れていた。
「コーディ隊長少し大きくなりましたねー」
「パットミちゃん元気だった?」
今から戦争だと言うのに随分と気楽な奴等だな。
「ええ! 今日の正午から戦争!? 聞いてないっすよ!」
「時間が無いから、つべこべ言わずに何か罠作ってくれい」
「じゃあ土が柔らかいから塹壕と土壁を作っておきますぜ……。おい、工兵全員スコップを持て」
「「「うーっす」」」
「塹壕と壁に竹槍仕込んでおきますねー」
「道中作ってた蒔菱が役立つかも」
「馬鹿言え強化魔法で守られた戦場の兵士に小石踏む程のダメージも無いわ」
「竹槍足りないよ糸鋸持ってきてー!」
何とまぁ、役に立ちそうな連中だ。あと少し早く呼んでおけば良かったか……。
ウィルソンチャック十人隊長が工兵ってのは本当だった様で、正午の予令が鳴る迄の間に敵が歩きにくそうな30㎝×30cm×30m程の土壁と塹壕を2重にして配置してしまった。その範囲は土が柔らかく、何処を踏んでも竹槍が埋まっているので、仮に転けたらめっちゃ痛い、大ジャンプしても着地地点の広範囲に熊手や短剣を刃を上にして仕込んであるので、どっちにしろ痛い。
城の前で堂々と陣地作成していたのだが、土鬼の死体を漁るようにして作った陣地なので、農業でもしてるのかと思われたのか全く怪しまれなかった。一応今日の城壁の守りは魔法部隊の方々なので、見逃して貰っていると言う所ではあるのだが……。
何だかんだで陣地作成が終わった。となると、武装がスコップと革鎧程度しかないウィルソンチャック隊は後方で土鬼が来ないかどうかの見張り位しかやる事がないのだが、まぁ居ないよりは良いだろう。敵が後方部隊と見誤ってくれるならば上等だ。
傭兵の皆さんもルルーシュインの指揮下に入って、いそいそと土の中に潜っていった。潜った後は全く動かない。一旦目を瞑って見たらもう何処に居るか分からないレベルだ。流石傭兵、よく訓練されている。
かーんかーん み"ーん
正午の鐘と蝉の絶唱が鳴り響くこの世界は真夏。この場に居る50人超の各々が冷却の魔導石を使って身体を冷やしつつの戦いとなる。この魔導石は普段街の外で作業する人達も念のために持ち歩くレベルの魔導具で、けっこうな安価で出回っている。1回使用すると全方位に18℃程の冷風が30分~1時間位出るらしい。その後はただの石となる。普段は兜の上部に付けて、頭から首筋に風が流れるようにして使われる事が多いとの事だった。
――3年後の帝国との戦いは真夏の真夏。夏至だからな。ここで訓練せずに何処で訓練をするのだ。実践訓練が出来る事を喜ぼう。
◇ ◇ ◇ ◇
「ルルーシュイン、俺はパットミちゃんと両手の無い男と、街でレンタルした馬に乗って後方の丘に避難している。敵がこっちに向かってきたり、負けそうになれば逃げるからな。後は頼んだ」
「確かに社畜隊50余人の命、お預かり致そう。そして、戦術で十倍以上の敵と戦う術も有る事を証明しよう」
「頼りにしてるぞ」
俺は、いざとなったらレンタルした馬を借りパクするつもりでルルーシュイン達の陣の遥か後方へと移動する。
「始まったみたいだな」
「……!……!……!」
「………………!…………!」
先ず、南門から500m程南にルルーシュインの部隊が4人1組となって並んでいた。
長槍兵の構える槍の右下に重装歩兵、左下に軽装の剣盾兵、長槍兵の後ろに魔法兵が掌を敵に向けて構えている。その4人1組が間30cm程開けて1列に整列している。何と言うか、形容するならば隙間だらけの槍衾のような形になっている。但し、槍の真下に盾が2つ、剣と斧が1つづつある形なので、防御力はそれなりに高いと言えるだろう。
だが、あくまでも兵力40では、薄い壁1枚の戦力で、交換する後方戦力は居ない。両翼にはルルーシュインとキュアスパルタカスが配置され、中心にはせむしのセム君が槍を構えているが、何処まで耐えられるか……。
「……!」
「……!」
ルルーシュイン側と七百人隊長側が何度か大声で声明を交換する声が聞こえる。直後、南門が開け放たれて、500人の兵力が100人づつ整列して出てくる。
斧と盾を持った重装歩兵、長槍を持った槍兵、剣と盾を持った剣盾兵、弓と剣を持った軽装弓兵、どれも統率されていて強そうだ。どの100人と当たっても、うちの40人隊は全滅しそうなんだが……、アイツら大丈夫か?
「ーーー!」
全員が出た所で南門が閉まる。ザワザワと敵軍が騒ぎ始めると同時に拡声魔導器から魔法部隊メラデハナーイ百人隊長の声が響き渡る。
「えー、七百人隊長はクーデターを画策した疑いが持たれている。証拠はこの盗聴魔導具の『ピー』音声だ。何か言い訳はあるか!? ちなみに陛下も同席の上でこの音声は録音したぞ!」
南門の上、メラデハナーイ百人隊長の隣に国王が現れる。
「……!……!」
「そうか! よもや隠しもせぬか……ならば成敗してくれる!」
「……!……!」
拡声魔導具の声は良く通るが、風向きが悪いのか南門の下で喚いている七百人隊長の声やルルーシュインの声は聞き取れはしない。
「た……戦うのは我が魔法部隊100人と魔法剣士部隊20人、傭兵とロンドヴルームの天……シャチク隊だ! 城壁とロンドヴルームの部隊に挟まれてまともに戦えるとは思うな!」
「……!……!」
「あー、テステス、あのね。ごめんね。国王だけどね……七百人隊長さん、本気で国が欲しかったら別に譲ってもよかったんだよ。だから、こうなった事は残念だよ」
……両軍の兵士達がザワザワと大混乱に陥って居るのが見える。恐らく南門の向こう側もえらい騒ぎになっているだろう。確かに話した感じ王様に向いてなさそうな奴だと思って居たが、これは度を越えている。爆弾発言だろう。王として言ってはいけない一言だ。この戦闘が終わっても国は乱れに乱れるぞ。
「王様ってね。大変なのよ。でも、誰かがやらなきゃいけない。本当は、私、研究だけ出来たら良いと思ってるんだけどね。なかなか上手くいかないね。……お互いに」
王様が一歩引いて手をヒラリと横に払う。それを合図に……戦闘が始まった。




