第84話 クーデターがデター
「ルルーシュイン。連続快楽殺人犯は絶対に俺が助ける。だから何があっても殺すんじゃないぞ!」
俺は一晩悩んだ結果をルルーシュインに伝えた。
「だが、コーディ隊長。あれは全ての選択で最悪を齎す存在なのだろう? 人を殺す選択をする時点で生かしておくのはどう考えても不味い「言うな!」」
俺はルルーシュインの進言をぶったぎってしまった。
気付くと肩で息をしていた。
「……すまん。感情的になってしまった」
「いや、構わない。意図があるんだろう? その意図に暫くは付き合おう」
暫くは……か。俺も言っていて不味い選択だと言うのは分かっている。仮にアイツが俺の部隊の腕章を着けて殺人事件なんか起こそうものならロンドヴルームを巻き込む大騒ぎになるだろう。折角立ち上げた軍も解散で俺も投獄されるかもしれない。
だが、俺の中から溢れ出てくる何かが、アイツを助けなければならないと叫んでいるんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「瓦版?」
「そう、瓦版。ほら此処にコーディの活躍が載ってるよ」
塞ぎ気味の俺を見かねてパットミちゃんが瓦版を手に持って色々な話題を振ってくる。
・「魔法都市グルグルで土鬼女王発生! ロンドヴルームの天使コーディ山田が土鬼十万匹をほふる!」
・「クーロンで子供の顔が同じになるクローン病が多発。悪魔の子かも!?」
・「農業国家トキオで新種の魚発見! だが不味い!」
「……俺は十万匹も倒してねーぞ」
「多分、ルルーシュイン達が倒した数もカウントされているみたい。ほら、此処に野鳥の会の公式カウント数が載ってるよ」
「本当だ……ブッチギリで1位やん。俺の力じゃないけど……」
「いよっ! 社長さん! ロンドヴルーム一!」
まぁ、元気付けてくれようとして居るんだから喜んでおくか!
「そう? げへへへ……」
そこにルルーシュインが割り込んでくる。クソッ! シャチョサン風のニヤケ顔を見られた。
「所でコーディ隊長。連続快楽殺人犯の話は抜きにして、何故早く此処を離れないのだ?」
何だ真面目な話か。
「まだ、此処でやる事が残っている気がする……んだ。多分、土鬼女王より深刻な何かを感じる……」
そう、俺は此処魔法都市グルグルに違和感を感じていた。故に滞在を先延ばしにしていたのだが……。
「それは何故だ? 天使と言うのは予知能力があるのか?」
「……そうだな。今回は『設定集』に違和感を感じる」
「違和感?」
「ルルーシュイン、お前と騎士……つまりパットミちゃん達にだけは俺の『設定集』の能力を話すが、この『設定集』は過去の事が文章とイラス……絵で概要だけが判る能力なんだ。その『設定集』は1日起きに更新されるんだが、この国に来た時から魔法都市グルグルの“過去”の表記が微妙に変わっているんだ。国家体制が“国王制”から“国王制等”に変わってる。つまり……」
「つまり?」
「恐らくだが、国内の誰かがクーデターを画策している。それもかなり力を持った身近な存在が……だ。それが、国王制以外の国家体制が混在している理由になっている……と思うんだ」
俺はルルーシュインを信用して此処に留まる理由を打ち明けた。
「それは私にも心当たりがある。もし先を急ぐなら今此処でその事を進言するつもりだった。私の心当たりが当たっているならばクーデターを画策しているのは……、七百人隊長だ。……ここ数週間の報告と私の些細な違和感を聞いてくれ」
ルルーシュインは4つの違和感を話し始めた。
1つ目は「ロサーリオが他国の皇太子でありながら、当たり前のように土鬼女王の討伐戦に参加した事」
2つ目は「報告に来た兵士が土鬼女王が発生したと報告したのだが、何を確認して女王だと判断したのかが確認出来ない事」
3つ目は「北門に居た部隊が全滅するなど取り分け特定の部隊のみの損傷が激しく、七百人隊長に同行した百人隊長の部隊はほぼ欠損が出ていない事」
4つ目は「あれだけの数になるまで土鬼が増えるには女王とはいえ相当な日数が必要だと思うが、誰もそれに気付かなかったのか? と言う事」
最後に、その違和感の解消を探っていたここ数日の報告をしてくれた。
ルルーシュインは上記の違和感から土鬼女王の調査をするべく元盗賊組を引き連れて廃棄鉱山に籠った。そこで得た結論としては「数万の土鬼が潜伏するスペースは無い事」と、「通路が狭く、土鬼女王と戦闘をするスペースは存在しない事」……それと違和感が重なってある種の確信に変わった……と。
目立つ十数万匹の土鬼を軍の協力無しで誰にも見つからずに隠し通せるのは不可能。廃棄鉱山に詰め込んだとしても3万匹が関の山だった。故に、軍の関与は確定的。そして、廃棄鉱山とは別の巣がある可能性が高い。
「土鬼女王は生きてる。そしてどうやって意思疎通しているかは分からんが七百人隊長は土鬼女王と繋がっていると言うのは確かだろう。
つまり、七百人隊長が意図的に集団暴走を起こして王を殺そうとしたのだ。恐らくその為に南門の前に大本営を作ったんだろう。あの金色の土鬼が出したビームとやらで城門をぶち抜いて大本営ごと吹き飛ばす……と」
「金色の土鬼の能力は分かりようがないからな、大衆の前で疑い様のない戦死になっただろーな」
「今回の誤算は恐らく2つ。軍管理下ではなく研究所管理のザコが出動した事と……」
「俺か」
「そうだ、コーディ隊長が天使の羽を生やして土鬼を全滅させる何て誰が思い付くだろうか。それにザコが金色の土鬼の一撃を防ぎきったのも大きい」
「確かに、俺もあの数の土鬼を倒すとか未だに意味がわからん」
「ふ、そうだな。……そして疑わしいだけで犯人にするのも何だが、あのロサーリオと言う奴は怪しい……な」
「成る程。筋は繋がるな」
「ロサーリオが七百人隊長と組んでクーデターを起こして、魔法都市グルグルを乗っ取る……か。それはロンドヴルームにとっては悪夢だな」
「そうだな……」
そうなれば3年後の夏至の日、つまり決戦の日に北と南から挟撃される事になる。北から魔法都市グルグル軍。そして南から帝国軍。ただでさえ劣勢なのに完全にトドメを刺される事になるだろう。だが……。
「だが、逆にこのクーデターを潰して恩を売れば、決戦の日に魔法都市グルグルの軍を借り受ける事も可能だろう。また、魔法都市グルグルの魔導具が無ければ兵力は増やせない。ここは……」
「「クーデターを潰す」」
俺とルルーシュインの声が重なったのを見てパットミちゃんが微笑んだ。




