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“偽天使転生”~社畜編集者の異世界成り上がり録~  作者: 林集一
聖の章 後編 都市国家群と祈りの道
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第83話 夢のおはなし

ちょっとホラー。


◇ ◇以上前書き。◇ ◇

 ふと気が付くと日本風の路地に立っていた。閑静な住宅街。コンクリートの塀が並んでおり、所々に鉄の門扉が備えられている。右に左に路地がいくつか有りつつ、目の届く範囲に数十軒の家が建っていた。


 あ、この感覚……。


 何となく以前も来た場所だと確信する。


 日本。……ここは日本か。僅か4年半しか離れては居ないが、既に異世界に順応しているためか、ふわふわした印象しか残っていない。建ち並ぶ一軒家に感じる違和感は身長のせいだろうか、前世より明らかに低くなった目線に、郷愁よりも不自然さを感じる。


暫く歩くと、違和感は更に大きくなる。鳥、虫、人、どの気配も稀薄で、空を見上げると見た事もない大きさの夕陽が道の奥でヂリヂリと地平線を焦がしていた。空の半分が鈍色の太陽に覆われつつも眩しさを感じる事もなく、たまたま赤い色の空の下に居ると言った感じだった。


「あらー、来たのねぇ!」


 久し振りの日本語が聞こえた。声のする方を見ると、おばあさんが一軒家の庭の門扉から両手を出して、犬とじゃれあっている。犬は門扉を隔ててはいるが、おばあさんに興奮して2本足でチンチンしながら鉄の柵にしがみついている。


「よぉーしよしよしよし、会いたかったよぉべろばろべろべろべ……」


 おいおいおい、舐めるのはやりすぎだろ……。


 良く見るとそれは犬ではなく犬の身体に人の首が付いた人面犬だった。


 ふと、周囲を見ると鳥に猫、ありとあらゆる生き物に人の顔がガムの様にへばりつき、その全てが俺を見てにたりにたりと笑っていた。


 お、おい……これは……。


 人面犬がゆっくりと近付いてくる。


「おい、お前。舐めるのがやりすぎだと言ったな?」


「い、いやそのそれは……」


「あのばばぁには俺が死んだ最愛の夫に見えている。だから舐めても平気なんだよ」


「近寄るな!」


「何故だ? 俺達は仲間じゃあないか……」


「違う! 俺は人間だ!」


「もしかしてお前……自分があの門扉の内側にいる人間(・・)共と同じ存在だとでも思っているのか……?」


 周囲を見ると周囲の門扉から両手を伸ばして愛する人の名を叫ぶ老人の姿が目に入る。


「アイツらが人間(・・)だ。俺達は違う。アイツらは誰の言いつけを守っているのか、どれだけ誘惑しようがなかなかあの檻から出てこようとしない。愛する人の顔を以てしてもな」


「だが、時折、俺達の誘いにのって、鍵を開けてくれる人が居るんだよな……お前だって開けただろう? そして、一緒にあの女の檻をこじ開けてやったじゃないか……。また一緒にあの扉を開けようぜ? コーディーーーー♪コォーーーーーディーーーー?」


「な……何を言ってるんだ……?」


 人面犬はへっへっへっと犬らしく片手を上げて俺の背後を指差した。


 振り返ると、鉄の門扉を開けて外に出ている女性が居た。

 その女性は半裸で犬と交わっている。口から歓喜の泡を出して快楽に身を任せている。俺はその顔に見覚えがあった。


「YOROZU修理店の師匠の……奥さんか?」


「あああ~そうよぉおお。ありがとうこぉおおでぃいいいちゃぁああん。おかげで死んだ夫に会えたのぉおおお。気持ちいいいぁああ」


「バカな」


「おいおいおい、忘れちまったのか? あの女は俺とお前でたぶらかしたんだろ?」


 人面犬がにやにやと笑う。


「お前は……!?」


「俺か? 俺は……お前だよ。人間のすべてを堕落させる者だ」


「~いやぁあああ!!!!」


 ふと気付くと、鉄の門扉の内側に立っていた女の子の両足が門扉の外の人面鳥と人面猫に噛み付かれて引き擦り出されていた。俺はこの声を知っている。


「グローリア!」


「あの女とも一緒に楽しんだじゃねえか……くく、どろどろになるまでな……」


「んーーーー!」


 違う方向から声にならない声が聞こえた。門扉の内側にいるのはパットミちゃんで、俺の顔をした人面猿に両手を鷲掴みにされて引っ張られている。


「やめろッ! お前達は何のためにこんな事をッ!」


「お前達? おかしな事を言うな。俺達、だろ? そして、判る筈だぞ、俺達ならな。何のためにしているか……」


「俺達……だと?」


「コーディー? 俺達は楽しむために産まれてきたんじゃないか? 俺達は人を堕落させれば堕落させるほど力を得られるんだ。そして、人は堕落する事を望んでいる。違うか? これはWIN⇔WINなんだよ。人は生まれながらの家に閉じ籠るように出来ている。だが、その家から一歩外に出るだけで刺激的な毎日が待っている。見ろよあの女、気持ち良さそうだろう?」


 YOROZU修理店の師匠の奥さんは人面犬と激しくまぐわって糞便を撒き散らしながら歓喜に打ち震えている。


「コーディ、何も“言われた事を守る必要はないんだ”俺達は自由に作られている。一歩外に出るだけで良いんだ。誰かに定められた“運命”の奴隷はうんざりだろう? なぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



「うわぁああああああ!」


「コーディ大丈夫!?」


「……ゆ……夢か!?」


 俺はほぼ1ヶ月前から泊まっている宿屋の一室で目が覚めた。パットミちゃんが側に寄ってきて俺を抱き締めた。


「悪夢の原因はお前か……!」


 俺の左手の薬指からは赤い糸がふよふよと嘲笑う様にして飛び出していた。


「コーディ……私が守るから……」


 何の夢だったか……強いメッセージの込められた夢を見た気がしたが、その夢を思い出す事が出来なかった。



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