第82話 夢のまえがき
あれから更に数日。釈放されていない死刑囚は例の連続殺人犯だけとなった。俺はパットミちゃん以外の全ての人から連続殺人犯だけは殺しとけとの有難いアドバイスを貰い、「少し待て、少し待て」と何とか死刑宣告を引き延ばしたが、今日が限界っぽかった。皆に詰め寄られて最終面接となる事になった。
「なぁ、何が楽しくて殺したんだ」
「わからんのだ。ある日を境に人を殺す事が快感になった。それだけなのだ。マスターベーションは気持ちいいだろう? 理由なんて無い。故に殺したまでだ」
「同じ人間だぞ? お前のその行動が人の迷惑になるとは考えなかったのか?」
「全くそんな感覚がないのだ。昔からそうだったとは言わないが、その日を境に罪悪感と言う感覚が消失した」
「うーん」
ルルーシュインが割って入る。
「殺した方が良いだろう」
……いや、何かが引っかかる。ルルーシュインの提案を手で制止し、少し考える。もしかして、これは……俺と同じ……?
「……なぁ、この銀貨何色に見える?」
俺はポケットから金貨を取り出して連続殺人犯に見せる。
「あ? 銀色だろ?」
連続殺人犯は金貨を確認した後にそう言った。……引っ掛かりがある疑念へと変化する。
「おい、パットミちゃん、ルルーシュイン、少し外に出ようか」
「…………」
「アイツは色盲か? さっきのは金貨だろう?」
俺は自身の過去を振り返り、ルルーシュインへと返事を返す。
「……いや、アイツは俺だ」
俺は色々な可能性を考慮してその場で座り、目線を伏せる。
「どういう事だ?」
「彼は多分、赤い紐に操られているコーディみたいな状態になってる。多分、魔王の心臓じゃないにしろ、似たような状態になってる可能性がある。コーディは操られている時には視界が赤くなる。そして、提示される選択肢の中から最低な選択を余儀なくされる」
「――成る程。それはどうやれば治るのだ?」
「ロンドヴルームの聖水をかける位しか対処がわからないけど、それはもう無いの」
「どっちにしろ万事休すと言う事ではないか? コーディ隊長」
「……もう少し確認してみるか」
◇ ◇ ◇ ◇
「おい、連続殺人犯よ」
「何だ?」
「俺の右手を触ればこの牢屋に居る連中を全員惨殺してやろう。俺の左手を触ればお前の食事に一品追加してやろう。どっちを選ぶ?」
彼は迷う事なく右手に触れた。
「……間違いないな。おい、こいつを研究室に連れていけ!」
「成る程、研究室か……」
「そうだ、ルルーシュイン。もし連続殺人犯の罪悪感消失の原因が、もし赤い紐的な何かによるものなら、それを研究出来れば俺の中のルシフェルの対策にもなるんじゃないかと思ってな。奴を治せればきっと俺も……!」
分析の結果は翌日の午後に出た。彼の精神は強力な魔術に縛られており、救済は不可能だと判断された。洗脳とも違う、魅了とも違う、新しいステータス異常だと告げられた。
「なぁ、俺はこいつを殺したくない」
「だが、生きていても仕方ないだろう」
「どうする?」
俺はもう一晩だけ考える時間を貰った。
◇ ◇ ◇ ◇
俺はボーっとルルーシュイン達の訓練を見る。10人の死刑囚を追加して、兵士は合計22人となった。彼等は出自も人種もバラバラだが8割が元犯罪者だ。訓練内容はバラバラ。投獄期間が短くて肉体が衰えていない奴と捕まってすらいない盗賊組は腹筋も胸筋もバキバキで武器を振り回している。しかし、裸でさ迷っていた組や投獄期間が長い組はまだまだガリガリの身体で、肉体を作る為のマラソン大会が主だ。
俺に命を救われたと言って、元盗賊組とルルーシュインと同房の囚人組がやたらと忠誠心が強く、後から仲間になった組もワル同士の連帯感からか、それなりに反抗の兆しは見られない。裸でさ迷っていた組は盗賊組への対抗心でやたらと激しい訓練をしている。無論反乱なんて起こりそうにない。
だが、連続快楽殺人犯だけは別だ。アイツが持っているステータス異常が何かは解らないが、俺のアレと同じものなら、昼飯食いながらでも平気で刃物を刺してくるだろう。
……しかし、アイツは俺なのだ。今の俺はチロリちゃん、ゲロゲロちゃん、パットミちゃん、神殿長エナ、……そしてグローリアが居て何とか正気を保てて居るが、選択肢次第ではああなって居たとしてもおかしくはなかった。
どうにか救ってやりたい。
……と、悩んでいる時に声を掛けられた。
「他国の死刑囚を使って軍事訓練ですか。あなたは何をなさるおつもりでしょうか?」
出た……。七百人隊長。
「いや、少し魔物の動向が気になるものでね。私軍を使って周辺の魔物退治を行っていこうかと思ってね」
「それなら、天使の力を使ってこないだのようにババッと全滅させてしまえば良いのでは?」
コイツも俺が土鬼達を全滅させた時に天使の力を使ったと思っているのか……。本当は魔王の力なんだがな……。ああ、研究室の研究者達と軍事部門は完全別個になっていると言う事か。これ聞くに一応プライバシー的なのは守られているらしいな。
「流石にあれだけの魔物を何度も土に還すのはしんどいんでね。こないだもぶっ倒れたし、人の争いは人で解決してほしいよ」
「はは、全くですな。是非とも人の争いは人で解決させて貰いたいものです。では、失礼する」
「おうよ」
…………。
「早く出ていって欲しそうだなぁ」
去り行く七百人隊長の背中を見てそう呟いた。
そう言われると居座りたくなるよなぁ。何か違和感もあるし……。俺は脳内の『設定集』を確認しつつ、七百人隊長の背中を見送った。




