第77話 抗う者達・覚醒の曙
キリキリと左右から弓を引き絞る音が聞こえる。そして大型弓に木の杭がセットされる。その杭の先端には8つの鋲が打たれており、着弾と同時に火玉弾が8つ飛び出すんだと隣の人が教えてくれた。相手は高々2匹なのに大人気ないな。
「確かに危なさそうではあるがな」
赤い土鬼は黒い土鬼の倍速程の速度でザコの周りを移動しながら攻撃している。どう見てもトロいザコの攻撃が当たる速度ではない。範囲攻撃も発動までのタイムラグで余裕で避けられるだろう。ハッキリ言って相性が悪い。
ザコの身体は緑色の銅錆を削り取られて煌めく地金色が見えていた。まぁ見えるから何だって話だか、爪ごときではそもそも有効打は与えられないだろう。対してこっちは赤い土鬼の動きが鈍くなった瞬間に色々仕掛ければ良いだけだからな……。
その時はすぐ訪れた。
明らかに疲労を見せた赤い土鬼がフェイントの様な動きを正面で見せ、動きが止まった時だった。
金色の土鬼を範囲に巻き込む様に金色の土鬼と赤い土鬼の中心に光の柱が発生した。
「火炎嵐か」
そしてザコは右手の燃え盛る斧を振りかぶり、左手の連装式大型弓を左に向けて展開する。右にも左にも通しません宣言だ。足の疲弊した身でどの方向に逃げるか……が見ものだな。
赤い土鬼はそのどちらでもない選択肢に追い込まれた。
――股下。ザコは転倒を防ぐために蹠が広くなっており、また常に足を開くように展開している。故に股下には相当なスペースがあるのだが……。
「それは1番死にやすい選択肢だよ」
赤い土鬼が股下を潜り抜けた瞬間、待ってましたとばかりに左右のふくらはぎが開き、鋼鉄の弾丸が射出される。
「――近接拡散弾。土鬼同士に情報伝達機能があればな」
情報伝達機能があれば背後が1番不味いって分かるんだがな。……しかし、もしもそうやって対策をされると魔物対人間の戦いは一気に魔物側に傾く事になるだろう。あってたまるか。
ともあれ赤い土鬼は針鼠宜しく全身を貫かれて動かなくなった。
ザコは背後の敵の最後を確かめる事なく。連装式大型弓の照準を真正面に移す。火炎嵐で金色の土鬼を燃やした後に飛び道具で止めを刺す算段なんだろう。
それと同時に光の柱が……金色の土鬼の指先から伸びてきた金色の光に溶かされた。
「は?」
逆に金色の土鬼から黒色の魔方陣が展開し……。金色の光が溢れる。
「何か不味いぞ! 魔法防御誰か補助してやれッ!」
「一応胴体に強力な力が加えられた時に発動する、地金に直接彫られた魔法障壁の魔術回路があります! 大丈夫な筈です……が」
俺の叫びに反応した何名かが簡易的な呪文を詠唱し、パパパッ……と魔法防御っぽい結界が何枚かザコの前に出現するが、見た目通り新聞紙数枚程度の結界しか張れていない。隣の解説する人もゴチャゴチャと何か言っていたが、ザコも「ヤバい」事を感知したのか、燃え盛る斧を横に向け盾のように構えた。そして、連装大型弓を放……
……たんとした瞬間に仰向けに引き倒された。ザコの足元には近接拡散弾で針鼠になった筈の赤い土鬼が立っていた。ザコの放った連装大型弓の矢は弧を描いて遥か先へと飛んでいった。
「ゲギャゲギャ(俺達が馬鹿か何かか勘違いしてやがるぜ?)」
「ゲギャゲギャ(来る方向が分かれば対策は出来るんだよ愚図が)」
「はぁ!?!!? 言葉喋ったぞあの赤色と金色の土鬼達!?」
「んんん? ゲギャゲギャと……ですか???」
馬鹿な、俺だけに聞こえたと言うのか、あれは言葉を……!
「そんな事より……ザコが……!」
金色の土鬼の前に現れた黒い魔方陣から溢れる光が猛烈な勢いと指向性を帯びて放たれる。それは紙の様な魔法防御を貫いてザコの燃え盛る斧や両腕を溶かし、胴体に到達した瞬間――。ザコの胴体の表面の銅のコーティングが溶けて原版が剥き出しとなる。
そして、謎の防御魔法が発動して光線の軌道が変わり――――。
――城壁に直撃した。
城壁にも強力な魔法防御の魔術回路が刻まれているらしく、謎の光線を城壁の寸前で弾き飛ばしていた……のだが、
ガオオオン。
光線に押し負けたのか、バツンと音を立てて掻き消えた。刹那城壁に直撃。そして城壁の上部が崩壊した。その城壁の上にいた俺は転落。胸を強打して倒れた。
周囲の状況を確認して、俺が立ち上がる前に飛び込んできたのは斜め上から発射された大型弓の弦の音だった。直後、バリスタの矢は金色の土鬼に直撃する。爆発音に合わせて火玉弾が多段に発動する音が響く。
もっと早く撃てよ愚図が……。金色の土鬼は上半身と下半身に大きな穴を開けて倒れた。その全身には細かな穴が開いており、その1つ1つから炎を吹いている。
ギギ……ギリリ
俺の全身が何かに強く縛られる様な感覚が支配する。グローリアも同じく凶悪な気配に囚われているのを感じる。前回の半端な覚醒なんかじゃない。左手の薬指から何か根元から違う力の脈動を感じる。
俺は立ち上がると、ふわっとした浮遊感を伴って一歩を踏み出す。いや、その足取りは着地を果たさなかった。金色の夕陽に照らされて東の方角に伸びる俺の影には、右方向に向かって円状に展開する7つの羽が生えていた。
「少し早いが、まぁ良いだろう」
グローリアの身体を出たあの晩に聞いたあの声が、ハッキリと俺の口から発せられた。




