第76話 燃え上がれザコ
「あっ、ザコトマホーク」
ザコは燃え盛る斧を放り投げると前面10m先の大土鬼に直撃して、周辺数十匹の土鬼を巻き添えにして燃え上がった。
「あっ、ザコ近接拡散弾」
ザコの両足のふくらはぎが開き、爆発したかと思ったら背後に居た黒い土鬼が数匹針鼠になってぶっ倒れていた。器用にも背後に黒い土鬼が集中する瞬間を狙ったのだろう。
「あっ、ザコ連装大型弓」
ザコの左手に持たれた連装大型弓が大人の腕ほどの太さの木の杭を発射して、黒い土鬼が固まっている場所をポコポコと吹き飛ばしていく。
「あっ、ザコ火炎嵐」
ザコの右掌から強烈な波動が迸り、敵の集団のど真ん中に光の柱が立ち上る。僅かに溜めを作ったその光は渦を描くように拡散して燃え上がり、半径40m程を火の海にした。中心から逃げ出そうとした黒い土鬼も逃げ切れずに火だるまとなって……倒れた。
一連の流れで1,000匹近くの土鬼が討伐されたのだが……。あんなもん有るなら先に出しとけ! と言いたい。
「あれは大魔法の火炎嵐ですね。火炎に対する防御を持たない土鬼だから焼けますが、対軍だと即時防御魔法が撃たれますから、大したダメージを与えられません。そして、あれ1発撃つのに金貨10枚位のコスト掛かるって知ってました?」
「誰だお前?」
さっきからザコの解説みたいなのをしている人が本格的に話し掛けてきたので、素直に聞きたい事を聞き返した。疑問に疑問で答える自己中とは俺の事よ!
「失礼しました、私はこの国の開発部の方から来た者ですよ」
消防署の方から来ましたみたいなものか。でもまぁ、詳しいって事は関係者ではあるんだろう。と言うか別にコイツが身分を偽っていようが俺に害はないだろう。折角だから色々聞いておこうか。
「トマホークとか近接拡散弾のコストは?」
「トマホークは金貨12枚で近接拡散弾は金貨8枚ですね。量産出来ればコストは安くなるとは思いますが、あんな大飯喰らいを誰が欲しがるか……」
まぁコストが安ければ世の中ザコだらけになってるな。
「そらぁお高いんでしょう?」
「製造コストだけで金貨1万枚ですね。適当な単眼巨人鬼を生け捕りにして魅了して操った方がコストははるかに安いんですけど、開発部ってこんなロマンを追い求めますからねぇ。ちなみに動力はMPと蓄電器の電力で、1時間動かすのにMP6万も使いますからねアレ」
「最早完全なる趣味やんけ。MP6万もあったら何回か火炎嵐でも撃てば土鬼なんてどーにでもなるやん……」
「この都市のMPはほぼ全て開発に回してますから、あまり魔法のストックが無いんですよ。ザコだってあれまだ開発中ですし……」
「行け! 走れ! 道が出来たぞ!」
ふと大きな声が城壁の下から聞こえてくる。声の方向を見ると、ザコが暴れてる隙に土鬼女王が潜んでいる可能性の高いと言われている場所へ向かう経路を十人隊長級10人の戦力が切り開いていた。
その経路を七百人隊長を先頭とした一団が駆け抜けていく。その中でもマントをはためかせいているルルーシュインがヤバい格好いい。
「えいしゃあああ!」
「ありありありありィー!」
「無駄ァ!」
そして、その部下の声も戦場に響く。ああ、うちの兵士達も頑張ってたのね。経路脇に血だらけになりながら黒い土鬼を撃退している3人組がいた。元2番手の盗賊が手数で圧倒している隙に元3番手の盗賊が槍で貫き、1番手の盗賊が斧で周囲を牽制すると言うコンボで、かなりの数の黒い土鬼討伐に成功していた。
だがすまんな。さっきまでずっとザコ見てたわ。男のロマンだもの……。
……と、ルルーシュイン達はもう行ったのか。3人組が黒い土鬼を2匹程葬っている間に彼等は恐ろしい勢いで遠ざかり、豆粒程に小さくなって見えなくなった。スゲー速ェ。
「作戦上手くいくと良いな」
「上手くいかないと国が滅亡するかもしれませんしね」
いつの間にかに開発部の方から来た人は横に並んでいた。
「ふぅ」
……俺が溜め息を吐いた直後。城壁の上にざわめきが走った。
「あれ……!」
「赤色と金色が出たぞー!」
聞くと、ルルーシュイン達とすれ違う形で赤色と金色の土鬼が此方に向かっているとグルグル野鳥の会の人達が言っている。あんな砂粒にすら見えない先のモノがよく見えるな……!
「おーーーい! 撤収! ヤバいのが来るぞ! 赤色と金色が来るぞぉーーー!」
俺は指揮権も命令権も無いので、うちの兵士を呼ぶつもりで声を掛けたら、慌てて他の兵士まで南門付近に引っ込んでしまった。門の前には動きの鈍いザコだけが取り残されている。
「西門と東門から百人隊長を呼べー!」
「誰かザコの補給パック持ってきてー!」
「魔法兵を呼んでこいー!」
「大型弓の矢を持ってこいー!」
たったの2匹でこの有り様。黒船かよ。
だが、南門付近で奮闘していた数名のおかげでザコの補給は済んだ様だった。上から見ていると丸分かりなのだが、ザコのコックピットは後方開閉式の複座式になっていた。操縦桿があるのは前方なので、操縦は前でやるのだろう。後部座席の人は、一生懸命銀色の魔方陣の描かれたキーボードみたいなのをタッチしている。恐らく操縦を魔法的な何かでサポートするような係りなのだろう。補給の人から貰っていたやたら眩しい水晶、それを嵌める場所が6つあって、そのうちの4つが輝きを失っていた。恐らくあれがMP1万の水晶なのだろう。水晶の交換と武器の補充を終えた段階で、補給班と門前で奮闘していた十人隊長級の兵士達は引っ込んだ。
南門の前には、錆びた銅の齎す緑色のザコが立っている。所々に刻まれた引っ掻き傷の内側には鉛色の地金が見えていた。武装は3発まで連続射出可能な連装大型弓と燃え盛る斧。それからふくらはぎに仕込まれた近接拡散弾の3つ。それから中の人が魔法を使う事も可能らしい。それが先程の火炎嵐と言う訳だ。
いつの間にかに土鬼の群れは左右に割れて、奥の方から赤色と金色の土鬼が並んで歩いてくる。土鬼の癖に海を割る聖者気取りか……。悪くない。
そして、彼等は20mの距離がある場所でザコと対峙する。何か小さい土鬼が2匹で全高3mのザコと向かい合う様子はザコの方が悪者に見える。
「始まるか」
赤い土鬼が姿勢を低くした時、赤い土鬼の後方が爆ぜてルルーシュイン並の速度で走り出した。




