第75話 民明booksより引用
「~と言う訳で、土鬼女王があの黒い土鬼を作っている可能性がある。証拠はさっきも言ったが土鬼の死体を土鬼が奥へ引き摺っていった事だ。これは野鳥の会の方々も見ている」
「成る程、つまり夜が来たら不味いと言う事だな? あの黒い土鬼が増える……と」
「それどころか赤や金色の黒い土鬼以上に強そうな土鬼が増える可能性もあります。故に夕暮れ迄には敵の本拠地に行って土鬼女王を討伐する必要があります」
「では、うちからは私と百人隊長4人出そう、ルルーシュインと額に十字傷の男と……旅人戦力のモブ君の8人で陽の暮れる2時間前に強襲しよう。他の戦力は十人隊長クラスの戦力のみ城外で陽動作戦を行う。街の警護を雑兵に任せられれば恐らく50人位は動員出来る筈だ。緊急事態と言う事なので秘密兵器も出そう」
「おっと、ルルーシュイン君にはこれをやろう。本日限りの軍需物資10%OFFカードだ。コーディ隊長には金貨24枚と端数と強襲作戦の参謀報酬とルルーシュイン君の参戦費用金貨10枚だ。見た感じルルーシュイン君
の武装は最下級品の様だから、これで人並みの武器防具は揃えて欲しい」
ただの金属片に「軍需物資002-10%」と刻まれた物と金貨34枚と端数貨幣を受け取った。これから買い物に行ってこいと暗に言っているのだろう。
「どうせいつかは買わなければならない買い物だから、この34枚全部使って高い武器を買ったら良いよ」
◇ ◇ ◇ ◇
~という訳で俺達はその足で中級の魔導具屋併設の武器屋へと足を踏み入れた。するとルルーシュインの目がある武器に釘付けとなった。
「これは……」
「これかい? 金貨1枚で良いよ。その槍は癖が強すぎて誰も使えないんだ。本当は良い槍みたいなんだけどねー」
ルルーシュインは青龍偃月刀と崩し字で刃身に刻まれた槍を手に取る。
「これはマ・ンの槍だ。関刀槍と言って、使い方が独特なんだ。使える男はもうこの世には残ってないがな」
ルルーシュインはそう言いながら20kgはあるだろう槍をゴアと言う音を出しながら振った。
「だが使える男の亡霊は此処に居る」
ルルーシュインはこれ迄にない笑顔で店員に金貨を握らせて始めの買い物を済ませた。
その後は青地に金の縁取りをした中華服みたいな服に、ダブレットの様な下着、鋼の肩当ての付いた赤いマント、仕込みのある革のベルト、金属片の埋め込まれた先の尖った靴を買った。端数は出たが、ほぼ金貨24枚を使いきる名采配だった。
あわれな話だが、10人隊の全装備品はその端数ですらギリ賄える。
一応中華服モドキと赤いマントには常に新聞紙2~3枚程度の魔法防御が展開されているらしく、やたら高かった。銀糸の刺繍で【魔法防御】と【形状記憶再生】の魔術回路が付与されているらしく、魔術回路の銀糸の刺繍部分が傷付いても勝手に再生して魔法効果が持続するらしい。プログラムの一部が脱落しても補完するプログラムって所か。そりゃあ防具だから攻撃も受けるだろうから、その都度魔術回路を総取っ替えしてたら割りに合わないもんな。
だけれどもこれでも装備品としては中の下らしいから驚きだ。市販されてる最高の武具を指輪まで揃えて買うと金貨1,000枚で足りないらしい。それ、ロンドヴルームの年間軍事費用なのだが……。
ともかく買い物を終え、それらを全て装着したルルーシュインは中華大将軍と言った感じの出で立ちとなった。アカン、格好いい。長年の牢獄生活で多少痩せたと言っていたが腹筋バキバキだし、髪が伸びてるのも中華の人ぽい。
後は食事となけなしの回復魔法を掛けて出発となった。
少し早い夕食のメニューは柔らかいライ麦パン。ウズラの香草焼き。温野菜。スイカジュース。
俺はルルーシュイン達を作戦ミーティング見送った後に、城の外で陽動を行う組に近付いていく。
陽動組には元1番手~3番手の盗賊が参加するらしい。元4番手の盗賊は弓使いのため、矢を奪われると不味いと言う理由で留守番となった。俺とパットミちゃんとウィルソンチャック、それから剣盾組と元囚人組と城壁の上で観戦する事になっている。
ルルーシュイン達は陽動で敵の数が減ったら突撃する予定だ。
「陽動は夜になったら終了だぞ。野鳥の会の方々は鳥目で夜は見えないからな」
特に話した事もない隣の人からのありがたいお言葉があった。
……それにしても野鳥の会の方々って何者なんだ。
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
――作戦が始まった。その様子を俺は城壁の上に立つウィルソンチャックの上で確認している。あ、肩車してもらってるって事ね。
号令と共に南門の重たい扉が鎖で巻き取られて開いていく。間もなく全開になり待機していた十人隊長級の猛者10人が飛び出していった。あれから昼間の時間帯にも断続的に戦闘はしていたらしく、土鬼と大土鬼を間引き過ぎたとの事。おかげで南門の外は土鬼3、大土鬼4、黒い土鬼3の割合になっている。つまり、見た感じ数千匹の黒い土鬼がいる。ヤバい。
当初発見した数の半分ほどは狩ったのだが、相変わらず総数数万匹は残っているらしい。やはり、普通の土鬼と大土鬼を産む土鬼女王を討伐しないと終わらないのだろう。割合の変化を見るに黒い土鬼を昼間作る連中も居る筈だ。
ガション!
ん? 何か機械音の様な音が聞こえる。
ガション!
あれはまさかの……!
「あっ、ザコ!」
……ザコ?
そこには単眼の機械巨人が立っていた。全長3mで片手には連装式バリスタを構えており、もう片手には燃え盛る斧を持っていた。
確か『設定集』に人形の巨大ロボットの様なものがあるとか書かれていたな……。これか……。しかし、この姿形は……。
「すいません」
「はい?」
「もしかして“ザコ”って『民明books』の出版物のキャラクターですか?」
「そうだよ。どうやったら単眼巨人鬼の中に人間が入って操縦するってアイディアが出てくるんだろうな。それを魔法と金属機構で再現する宮殿の魔導具工房もどうかしているが……」
俺は白眼を剥いた。




