第74話 潰滅
「大変だ! 北に布陣していた100人隊が潰滅して、そこから溢れた土鬼土もが西と東の門前に居た100人隊に襲い掛かってるぞ!」
なんと。
疲れを回復させた剣盾兵が、ルルーシュイン達の討ち漏らしをポコポコと狩るのをピクニック気分で見ていた俺達に衝撃の報告が入る。
「何があった?」
「分からん。グルグル野鳥の会の方々によると北から来た黒い土鬼が相当強いらしく、はじめは互角だったのだが、雑兵が殺されて武器を奪われた後はあれよあれよと形勢が傾いて……と言う感じだ。今は城壁の上から魔法を降らせて足止めは出来ているが、出来るならば一旦引いた方が良さそうだぞ」
俺は辺りを見渡すと、土鬼の群れは津波といった状態から富山の日本海と言った状態に落ち着いており、既に1~2万程討伐され……ん?。
「おいッ! 野鳥の会の人ッ! 土鬼の死体は何処だッ! アイツら持っていってないかッ!?」
俺はある事が頭に過り、城壁の上で土鬼を数えている野鳥の会の人達に大声で質問した。
「奥に引き摺って行ってますよ~」
まさか!?
「ウィルソンチャーック! 急いでルルーシュインを呼べ! 旅人戦力達にも戻って来いと伝えろッ! 緊急事態だッ!」
「わかった!」
ウィルソンチャックは敵を蹴り飛ばしながら奥の方へ進んでいく。
「もしかしたら土鬼に暗闇の使い手が居れば、土鬼の死体から意図的に強い土鬼が作れるって事? 黒い土鬼はそれ?」
パットミちゃんが口を開いた。
「あり得る。土鬼女王と言う位だからな。人並みに知能があるなら……尚更だ」
暫くすると旅人戦力とルルーシュインの部隊、ウィルソンチャックが帰って来た。7人になった10人部隊を先頭に土鬼の群れを切り開き、ルルーシュインが殿を務める形になっていた。各々はそれなりに傷だらけになっており、ルルーシュインですら槍は折れ、所々無視出来ない程の怪我をしている。
「あれが黒い土鬼か」
ルルーシュインは1人で7匹の黒い土鬼の攻撃を捌いて足留めをしていた。折れた槍を使って防いだり押したりだけの器用な立ち回りは流石元百人隊長と言うだけある。
「雑魚を突破したから加勢するぜ兄貴ィッ!」
「兄貴ではない。ルルーシュイン十人隊長だ」
元2番手の盗賊が前面の土鬼を突き抜けた直後に反転して、黒い土鬼の1匹をルルーシュインから引き剥がし、遠目でないと目に見えない程の乱打戦を繰り広げる。
黒い土鬼は硬質化したような鋭い爪先を猫の様に高速で捲し立て、元2番手の盗賊はそれに両手の短剣を合わせて応戦する。どちらも手数優先、猫パンチ並みの軽い斬撃を放つ。
「足元がお留守だぜ?」
元2番手の盗賊はにやけた笑顔で言い放つ。そしてジリジリと踏み込んだ左足を軸にして放ったローキックは上半身の攻撃とは完全に独立しており、完全に意識外からの攻撃を受けて転倒した黒い土鬼に他の兵士からの援護攻撃が入る。
グパー。
黒い土鬼は斧で轢断された。
「奥の方には黒い土鬼が10匹以上居る! この戦力では勝てん! 撤退して来た!」
……指示を出すまでもなく撤退して来たようだ。部隊全員が雑魚を突破したので、全員でルルーシュインの援護に入り、1匹1匹確実に仕留めていく。全員を仕留めた所で俺達は全員で南門の中に駆け込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
ルルーシュインは臨時の野戦病院と化している南門前の広場で椅子に座りながら報告をする。
「奥の方には更に強そうな赤い土鬼と金色の土鬼が居た。目にした瞬間に撤退したから幸いにも接触こそしなかったが……あれは巨人鬼とか単眼巨人鬼レベルの敵と見て良いだろう」
……マジかよ。
「魔法のストックは使い果たしたが、MPは念のため9割ほど残してある。恐らく夜の間に軍義がある筈だ、そこでこのMPの使い道を決める事になるだろう。決戦は明日になるな……」
「明日? 夜を跨ぐのはかなり不味い事にならないか?」
「魔法都市グルグルの城壁はそれなりに強固な魔法障壁が貼られている筈だ。問題ない」
「いや、土鬼達が死体を引き摺っていった。魔物が出来る三要件を思い出してみろ!」
「魔物が出来る三要件だと……何だそれは? 魔素……ではないのか?」
ん? もしかして魔物の作り方は一般的に知られてないのか……?
「魔物の出来る三要件は暗闇・窪地・魔素だ。暗い窪地に魔素が溜まると魔物が出来る。深い窪地に魔物の死体を投げ込むと、底の方に魔素が溜まって強い魔物が出来るんだ」
「馬鹿な……。それを魔物が利用していると言うのか……!?」
ルルーシュインの顔が歪む。
「もしかしてらあの黒い土鬼はそれで出来た変種かも知れない。赤と金もな。土鬼女王が強い魔物を作る知恵を付けたとなると……大変だぞ。ほぼ無尽蔵に土鬼を生産出来るんだからな」
ルルーシュインの顔が更に険しくなる。目線は過去の……魔物と盗賊によって滅ぼされたマ・ンに向けられているのだろうか。
「ああ、すいませんそこの髪の長いお方、国王陛下とグルグル軍の軍団長がお呼びです! 力を貸して欲しいと!」
恐らく使いっぱしりの女性が飛び込んできた。
「分かった。主のコーディ隊長も同席させてもらうが構わないか?」
「問題ないと思います! 此方です!」
俺達は兵士達の被害を確認して、怪我の手当てと入浴をしたら宿屋で食事して休んでいるよう伝え、破損した武具の修繕と買い換えはパットミちゃんと文官達に注文するように告げて大本営へと向かった。
大本営は革のテントと粗末な絨毯で作られた簡単なもので、中央に3畳程度の机があり、上に魔法都市グルグルの周辺地図と魔物図鑑、報告書が並べられていた。既に偉そうな人が10人程机を取り囲んでいる。
俺達はそこに向かって挨拶をする。
「俺はコーディ山田。ロンドヴルームの神殿騎士支軍の長をしている。見た目は4歳児だが中身は大人と思ってくれて良い」
「私はルルーシュイン。コーディ隊長に十人隊長として仕えている」
「おお! 来てくれたか! 君達は今回の攻防戦で3位の戦績らしいじゃないか! 助かっているぞ! ああ、私はここの軍の司令官でね。まぁ七百人隊長とでも呼んでくれ」
カイゼル髭のオッサンはそう言って地図へと目を落とすように手で合図した。
「この都市は完全な円形で、外周だけが一周繋がる円形の道路があるが、それ以外は完全な螺旋になっていて、奥に進むには南門前の此処を通るしかない。仮に門を突破されても此処さえ守ればどうにかなると言う事だ。そして、都市の外周を守るこの城壁は魔法で強化しているから一晩位は巨人鬼の群れでも耐えられる筈だ。今日は此処で作戦会議をして明日決戦としよう」




