第73話 集団戦闘
俺達は城壁の外で恐ろしいものを見た。地平線の向こうまで蠢く大土鬼の軍団。彼等はグルグル野鳥の会の方々によると10万匹程度居るらしい。割合は土鬼4に大土鬼5程度らしい。残りはそれ以外の何かだそうだ。それ以外って何よ超怖い。
城壁の外には魔法都市グルグルの百人隊長率いる100人部隊が整列しており、左右に行軍を始めていた。東西南北の門のうち、東西北を百人隊長率いる100人部隊が守り、ここ南門を俺達旅人戦力が守る事になった。南門は巨大弓が2門設置されているから比較的楽に守れると言う理由からだが、それでも十人隊長率いる10人部隊は待機している。
左右を見渡すと俺達の他に20人位の旅人戦力達がパラパラと散っている。此所に来る位だから自信があるのだろうか、各々かなり強そうに見える。既に半分は突っ込んで行ったと言うから、全員で40人前後か。
……旅人戦力達の中に額に十字傷の男を見付ける。
「あの男は強いぞ。恐らく私より強い筈だ」
ルルーシュインは俺の目線を読んで、台詞を被せてきた。
……マジかよ。元百人隊長より強いとか何者だよ。
「じゃあ戦後にでもスカウトしてみるかな」
ルルーシュインは「無理だな」と言う感じに顎を右に振った。
「本格的な敵が此処へ到着する予定時間は約15分後らしい。我々は前面で敵の数を少なくする為に戦う予定だ」
「俺とパットミちゃんは入り口付近で怪我人の介抱でもしてるさ。護衛はウィルソンチャックと両手の無い男で充分だ。2~3匹以上近付いてきたら逃げるしな」
「では、進軍する」
ルルーシュイン率いる10人隊は真っ直ぐに行進していく……。
足取りは揃ってはいなかったが、隊列に大きな乱れはなかった。無駄口も叩いていない。数日でここまでよく纏めたもんだ。
俺は戦況が厳しくなるまでは見学してみようと、側まで近付いて行った。
5分程経つと、チラホラと5~10匹程度が纏まった土鬼の集団が現れ、戦闘が始まった。
その奥には土鬼の波と言うレベルの敵が徒歩速度で迫ってくる。鈍足な行軍速度でも容赦なく揺れる地響きと砂煙が敵の数が半端ではない事を告げる。
「横列陣形で12時方向の7匹集団に移動攻撃!」
ルルーシュインの号令で一斉に飛び出した10人隊の一撃で土鬼の集団は沈黙した。
「次、3時方向の10匹集団に移動攻撃!」
同じくルルーシュインの号令で土鬼の集団がバタバタと倒れる。
そりゃ土鬼の戦闘力は武器を持ってない小学生程度だから武器を持った軍人に襲われたら一撃で死ぬわな。
そうこうしているうちに敵の本隊が迫ってくる。波と言うよりゆっくりと動く津波のような光景だ。
「全員戦闘用意! 太陽陣……散開! 初回は剣盾の3人が抜けろっ!」
太陽陣とは文字通り円の形に広がる陣で、全員が外側を向いている。敵を通さなければ全て正面からの敵しか居らず、正面の敵のみを倒せば良いと言う陣形かな。囲まれた時に取る陣形のようだ。見ると、道中裸になっていた所を拾った剣盾を持った組が円の中で待機している。やはりまだ少し頼りない感じはする。
「太陽陣……収縮! ……囚人組と剣盾組入れ替え! ……太陽陣……散開!」
太陽陣は収縮と散開があり、収縮時に中の人員と交代するらしい。怪我人とかを守ったり、休憩も出来る訳だな。
ルルーシュインの言った通り2番手の盗賊は頭一個飛び抜けており、他の兵士より活躍している様に見える。彼は短剣を振るってズバズバと土鬼の腕や首を切り裂いて、前蹴りで後ろに向かって倒す。倒れてきた土鬼に押されてバランスを崩した土鬼もまた両手を斬り落とされどんどん地面の上に折り重なっていく。
……ウィルソンチャックに肩車してもらって周りを見渡すと、方々で激しい戦闘が始まっていた。やはり額に十字傷の男は強いらしく、かなり奥の方まで無双しながら突進していった。剣の一薙ぎで8匹程の土鬼の首が飛び、左閃、右閃。平泳ぎをしながら進むが如く土鬼の波を掻き分けていく。何だあの強さは、と言うか剣の威力もすげぇ。
こっちはこっちで討ち漏らしがちょくちょく寄ってくるが、全てウィルソンチャックと両手の無い男が蹴り砕いている。大土鬼はそれなりに間合いを測ったりするので、一撃で蹴り砕くのは難しいが、蹴り倒して頭に一撃――なんてコンボでどうにかしていた。ウィルソンチャックが前蹴りを放つ度に揺れるが、ウィルソンチャックの頭には掴む髪がないのでかなり困る。姿勢制御に難があった。
ヒュン…………
ドーン
大型弓から打ち出される丸太みたいな矢も、かなり奥の方の土鬼を吹き飛ばしているらしく、頭上をポンポンと通り過ぎていく。
「コーディ隊長。そろそろ険しくなってきたぜ、撤退を進言する」
ウィルソンチャックが俺を揺らしながら言い放った。
「まぁ、護衛がそう言うなら仕方無いよね。じゃあこの辺はルルーシュイン達に任せて俺達は城壁まで撤退しますか」
「了解」
俺はウィルソンチャックの頭から飛び降りて、小走りで城門へと撤退する。
振り返ると、ルルーシュインも波に圧されてゆっくりと後退している様だ。時々棒を持っている大土鬼も混ざっているので、一撃で倒せずに一合二合斬り結ぶ事も増えてきた。
見た感じ既に200~300匹位は討伐しているように見えるので、城門まで撤退する頃には2,000~3,000匹は討伐出来てそうだな。
「ぐわぁ!」
あっ、剣盾組の1人が土鬼に引き倒された。リンチを食らってる。
……と思ったらルルーシュインが割って入って、その場にいた10匹前後の土鬼を土鬼の海に向かって放り投げた。あれなら投げられた土鬼も着地点の土鬼もただでは済まないだろう。
「剣盾組はコイツを城門近くまで運べ! コーディ隊長に治療してもらって休んでろ!」
「り……了解!」
早くも脱落者が出たか。剣盾組の2人がリンチを受けた剣盾君に肩を貸して小走りで向かってくる。道を遮る2~3匹の土鬼を相手しながらの移動は少し難儀そうだ。だがそれでも兵士の意地か、何とか撤退中の俺達と合流して、7人で城門へと戻った。
「すいませ……隊長……はぁ……はぁ」
「良いよ良いよ、数日前まで素人だったんだからあの場に立ってただけでも凄いよ」
実際、土鬼の津波とも言える行進は地響きが聞こえて地面が揺れる圧迫感があり、個体自体は弱いとは言え、あれに向かっていくのは相当な勇気がいるだろう。
俺は土鬼に引き倒されて、全身に引っ掻き傷と噛傷を負った兵士の身体に軟膏を塗って止血していく。脇の兵士も軽く怪我をしていたので、ある程度リンチされた兵士の治療が終わると軟膏を塗って止血していく。




