第71話 今後の話
陽の傾いた夕刻。ルルーシュインが俺を誘ってデートの申し出をした。それに対して俺は両手でオッケー! のハンドサインで応える。そして、小洒落た台詞を気取って放つ。
「ああ、構わんが、俺と何しようってんだ?」
「この軍は、どう育てる? 何名規模の軍にするか、対人か、対魔物か、割合はどうするか?」
ルルーシュインは無表情で言い放つ。そして、並んで歩くと完全に見下ろされる形となる。頭の位置が80cm違うから当たり前か。
わざわざ散歩に誘った理由は、軍隊を作るに当たっての具体的な話か。確かに軍を作るって話は真面目に突き詰めればどれだけ話し合っても足りないほど細かい設定が必要な気がする。
「規模は来年迄に200人規模にしたい。ロンドヴルームの現兵力が200人だからな。それ以上は流石に不味い。その人数を目標にするのは、大神官達の危機感を煽ってロンドヴルームの軍備も倍増させる為だ。あと、軍としての戦闘対象は基本的には対人戦闘だが、対魔物の訓練も必要だろう。最終目標は3年後に来るだろう帝国との決戦に勝つ事。いや、講和でも構わない。平和を維持出来るならそれで良い。出来るか?」
「分かった。だが一先ずそれが難しい事だけお伝えしておこう。100人迄なら私が百人隊長をやれば済むが、200人は百人隊長が2人とそれを束ねる長が必要だ。それは急拵えでは厳しい。2~3年では相当急に動かねばならない。
2番手の短剣使いの盗賊は3年間みっちりと育てれば腕っぷしだけなら百人隊長は可能かもしれない。だが、魔法面では絶望的だ。百人隊長は隊の100人を守る全体魔法が使えなければ話にならない。そして、それなりの戦術的な能力も必要だ。武勇だけでそう簡単になれるものではない」
「やっぱあの2番手の盗賊は強い方なのか」
「現段階で十人隊長並の強さはある。魔法が使えないので隊は任せられないが……。あとウィルソンチャックは十人隊長としてはかなり弱い。魔法面と物わかりが良い所を除けば雑兵並みだ。悲しい事だが……」
「はは、あれで雑兵並みなら俺はひよこ並みだな」
「……」
そこは“隊長は子供ですよ”だろ? ツッコミはしないのか。
「で、対人と対魔物は違うのか?」
「全然違うな。基本的に対魔物戦闘に特化させた部隊は10人隊の武器構成がバラバラになる。基本的に個々人の強さを重視した訓練内容になる。そして、対人戦闘に特化させた兵隊は武器が統一されて、強さよりも命令を守る事が重視される訓練内容になる。兵達の装備をどうするか? 兵種は何を重視するか? 考える事は沢山有る」
「弓を使ったら被害は少ないんじゃないか?」
「弓は訓練に時間が掛かる上に、消耗品費を見た文官の目が飛び出るぞ。金があるなら弓兵も大量に育てられて大分楽なんだがな」
「まぁ、その辺の話を言えば俺は素人だ。色々教えて貰いながら決断だけ下す形になるが大丈夫か?」
「勿論だ、此方こそ宜しく頼む。むしろ子供の身でそこまで物分かりの良いと言うのは薄気味悪い程だ」
「はは、まぁ事情があってね」
「先ずは適性のある武器を伸ばして、軍の規律を教えていく。そして魔法の適性のある奴には文字と魔法……火矢や火玉弾を教えてMPの強化を始める。3年後の十人隊長候補としてな。見た感じ扱う武器は短剣・長剣と盾・戦斧・弓に別れているから丁度良いかもしれない。後の連中にも軍として後方支援の文官教育をしよう。それを行う為に最低限必要な武装と獣皮紙と羽根ペン代として金貨10枚程貰おう。出せるか?」
「持ってけ、だが金策もしないとな。このままだと俺の目的が果たされるまでに借金まみれになっちまう」
俺は人目を気にしつつ財布から金貨を10枚出して、ルルーシュインにチャリンと渡した。
「無論だ。金策は私も考えている。この街は治安の維持に軍事力を使っているから街の外での護衛や狩をする者が少ない。軍事訓練を兼ねて傭兵団ごっこや狩人ごっこをしても良いだろう。私が居れば巨人鬼とて負けはせぬ」
「はえ……巨人鬼」
巨人鬼とは身の丈3~5mの巨人で、パワーだけで言えば直立する大型バスにパワーショベルを付けたような化け物だ。縦横80cmの岩をぶん投げたり、蹴りで石積の家を崩したり、まともな神経だと対峙する事すら出来ない化け物だ。
「我がマ・ンでの百人隊長とは巨人鬼を倒せる武勇が必要なのだ」
「えー」
もしかしてヤバイ奴を拾ったのか?
「私のMPは300程ある。魔法ストックさえ溜まって居れば爆裂や蛇鎖巻で巨人鬼であろうが足止めが出来る。一撃を貰えばただでは済まないが、足止めと投げ槍が決まれば倒せない事はない」
爆裂は攻撃系魔法で、地面が対人地雷の様に爆発する。防具の無い脚なら軽く千切れて吹き飛ぶが、魔法防御を高めて鉄板の入った靴を履いていたら戦闘不能にはならないレベルの攻撃魔法だ。“人を殺せるレベル”の中魔法に分類される。以前クロスアーミー先生が俺に習得させようとしていた。
蛇鎖巻は小魔法ながらかなり便利な魔法で、地面から身体が鎖の蛇を召喚して、敵の足元に絡み付く。持続時間が短いが拘束能力は人間相手であれば十分過ぎる程ある。巨人鬼クラスになると片足当たり3~4本は必要だと思うが……。
「巨人鬼も狩れるのか」
「……そうだ。確かこの辺は魔物も強いのが勢揃いしている。街道を外れたら居る筈だ。豚鬼、巨人鬼、単眼巨人鬼……。そいつらは狩れば銅貨、銀貨、金貨……宿賃くらいにはなる筈だ」
「えっ、あんなデカいの倒して宿賃位なの?」
「状態が良ければ巨人鬼は金貨1枚、豚鬼は銀貨2枚程になる筈だ。悪ければ60%~90%位か、まぁ巨人鬼が討伐されるなんて1ヶ月に1~2匹位だからな」
ちなみに豚鬼は身長2~2.5m体重250~400kg程度の豚顔の力士みたいな奴等だ。武装されると手に負えない。ぶちかましで軽トラックにはねられるクラスの衝撃がある。
しかし、安いな。ゲームなり漫画なりだと装備が一新するくらいの値段が貰えそうだが……。
「そっか、中々上手くいかないもんだな」
「なあに、元々街の外で暮らしてる盗賊を束ねてるんだ、個々の能力は低くない。軍として団体行動が出来れば勝てん事はない」
◇ ◇ ◇ ◇
俺達が散歩から帰る頃には、陽が完全に落ちていた。夜は街に日中の熱を閉じ込めて、蒸し蒸しとする熱帯夜が訪れていた。何処からか弦楽器の音と女の歌が聴こえる様な気もする。




