第69話 魔法都市グルグル
――魔法都市グルグル。螺旋状に広がる街の作りは一種の魔方陣となっており、方々の魔導具工房から流れる微量のMPが中心に向かって流れるように出来ている。
作りとしては“サイコロ”のシンボルを使って作られた聖別幼育園の地下室と同じ様なものとなっている。あれは“サイコロ”の持つ①の方向に流れを集める力を利用して、部屋を通り抜ける微量の魔素を地下室に送る様に建てられて居た。状況を見るにあの地下室は魔物を作っているんだろう。
“螺旋”のシンボルは“外に向かって広がる”と“中心に向かって集まる”と言う2つの相反する性質を持つが、魔法都市グルグルの街中に広がる“矢印”のシンボルによってMPのみを中心に集める作りとなっていた。言わば都市全体が巨大な魔導具と言っても良い。
中心、即ち魔法都市グルグルの宮殿、そのまた中心にある魔導具工場では、集められた豊富なMPで日々強力な魔導具が作られていた。
その宮殿で作られる魔導具は宮殿魔導具と呼ばれ、文字通り“戦略級”の威力を誇る物だった。故に「直接攻撃兵器は作らない」「購入の権利や開発の依頼は一国に片寄らさない」と言う条約をこの大陸すべての国と結んでいる。これは、この大陸全ての国家が宮殿魔導具に大いなる希望と驚異を感じていると言う事に他ならない。
宮殿魔導具は人形の巨大ロボットの様なものであったり、魔法の力で進む船であったりと、1つ生産するのに数ヶ月から数年掛かる物もあれば、2~3日位で作れられる様な便利道具もある。
例えば空間魔法の掛かっていて無限に道具の入るバッグ……と言うのはファンタジー世界で良く目にする。それに近い“箪笥の鞄”なる物は、30cm程の鞄の中に30倍の荷物が入って、殆んど重さも感じないらしい。値段はなんと金貨500枚。一応これも作るのに数日掛かるらしく、戦略級魔導具の末端という事で殆んど出回ってはいない。
“箪笥の鞄”もそうだが、基本的には魔導具の取引は金貨で行われる事が多い。故に日夜物凄い量の金貨が動いているらしい。恐ロシヤ。故に治安を守る兵士もそれなりの武装をして居るので、犯罪発生率は高くないとの事。代わりにと言っては何だが街の外には盗賊達が順番待ちをしているレベルだが……。
俺とパットミちゃんはあまり頼りない2人の護衛に護られつつ、魔法都市グルグルの魔導具屋を見て回っていた。
魔法都市グルグルは長耳族と短身族と白人族の雑居する都市となっているので、衛生環境はそこまで悪くないとされている。
地下にはロンドヴルーム程ではないが、下水と上水の道が通っており、一応公衆便所も存在はする。しかし、使うのは長耳族と白人族の半数程で、残りはまぁ家の中ではあまり致さないと言う程度で、何処に垂れ流しているかはお察しである。街には長耳族の雇った糞便回収人がペストマスクの様な物を着けて徘徊しているが、その両手にもったバケツは常に一杯である。
おっと、MPが都市の中心に向けて集まる代わりに、何が外側に向けられているかって? それは風。故に街の中心部に行けば行くほど臭くない。
街の外側? 住人の半分は鼻が曲がってるね。臭いもそうだけれど、そもそもの短身族の特徴と言う所か。あんまり言うと人種差別だと叩かれるかな。
ともあれ、俺は『設定集』の内容を頭で反芻しながら街の魔導具を渡り歩いているのだ! 解説じゃないぞ!
「ないぞー!」
◇ ◇ ◇ ◇
~店先。
「これなんですか?」
「これは制重の短剣ですね。MPを込めると300g程軽くなったり重くなったりします。場面に合わせて使えるので、使い勝手が良いと思います。問題は刃が薄いので重くした状態で力の強い人が使うと折れやすい所ですね。刃部分は一応鋼で、値段は金貨1.45枚です」
「高ェーな」
「魔導具ですから」
「これは?」
「これは透過の短剣です。MPを込めると刃が透けて見えます。柄までは透過しませんが、見えない刃で戦うのは充分心理的に優位になると思います。刃は銀製で、柔らか目の硬革位なら貫通する筈です。値段は金貨2枚です」
「うーん。大人相手に短剣で自衛は難しいか」
「杖が良いかも」
「そうか、杖か」
俺は手前の短い杖を手に取る。
「これは?」
「追い風の杖ですね。MPを込めれば所持者の背中を追い風が押します。持ち手が短いので子供向けの訓練具か玩具として買っていく人が多いですね。金貨0.1枚です」
「これは?」
「これは……モップです。当店の掃除用具で非売品です」
「うーん、イマイチ自衛手段にならないな……」
「お客様、当店の様な低価格帯の魔導具屋では大人相手の自衛手段を求めるのは厳しいかと存じます。ここは思いきって防犯グッズに切り替えて、近所の方に大声で助けを求める“助けて君”が金貨0.4枚ですがどうでしょうか?」
「うーん、確かに武器で身を守るのは大変だよなぁ……。でも、“助けて君”はいらない」
「一応私達刃物は使えない事になってる」
「うーん。そうなんだよなぁ……魔法を覚えてそれで身を守る方がいいかなぁ……。もう少し高い店に行ってみるか」
◇ ◇ ◇ ◇
「これは太陽の羅針盤です。この針は常に太陽の方向に向いています。インテリア時計の代わりにもなるのでおすすめですよ。値段は金貨19枚です」
「面白いが買わねー」
「これは浮遊石の鞄です。この浮遊石は空気中から微量の魔素を吸って浮くように出来てます。空に逃げないように浮力が制御されますので、逃がす心配は無用です。軽くなる重量は最大2kg迄。連続使用は5時間程、魔素は一晩で30%位回復します。値段は金貨15枚」
「これ凄く良いけど……買って良い?」
「確かに良い品だけど今は無駄使い」
「これは鷹眼の指輪です。3m程上空から俯瞰してものが見えるようになりますが、消費MPがどえらい高いです。値段は金貨10枚」
「これも欲しい」
「ダメ」
「これは霊糸の指輪です。指から紐が伸びて遠くのコップ位は取ってこれます。金貨3枚で良いです」
◇ ◇ ◇ ◇
「使えそうなもの有った?」
「有った。鷹眼の指輪は数百~数千人クラスの戦闘では必要になるな。騎兵辺りに持たせて敵の動きを測ったり……でも金がないな」
「でも絶対に必要な物もある」
「そうだな……先ずは――」
◇ ◇ ◇ ◇
「はい、霊糸の指輪2つ。これあげるから使いこなして味噌」
「はい?」
俺とパットミちゃんは霊糸の指輪を両手の無い男に渡した。
先ずは「人」だ。重要なのは「人」。護ってくれる人が居れば最悪自衛手段は後でも良い。




