閑話 ブレイクタイム
「そういや、難民拾ってからの道は何で襲われなかったんだろうな」
魔法都市グルグルの宿屋に着いた俺はふと疑問を口から漏らした。
「へへへ、これには秘密があるんですぁ親分」
下品た笑いをして、ケツのでかい男は言った。
「盗賊には盗賊のルールがあるんですぁ」
そう言うとケツのでかい男は片手でキツネの様なハンドサインを俺に向けてにおいを嗅ぐような仕草を向けた。
「これがてめぇの事はバレてるぜ、襲撃無用のハンドサインですぁ」
「ほう、ハンドサイン」
俺は頷いた。
「これは盗賊同士共通のハンドサインで、時々変わりやす。俺達盗賊ぁ隠れるより探知の能力が優れてめぇすから、ちょくちょく同業者を見付けてしまうんですぁ。襲撃しやすいポイントも分りやすからね、それで“隠れんぼ”に負けた奴ぁ見付けた奴に感謝して襲わねぇ事になってるんでさぁ」
「成る程、ケツを洗って出直して来いって奴か」
「へへ、そうでゲスよ。盗賊の大半は臭いやすからね、ケツにクソが付いていて襲撃に失敗する奴ぁクソ程おりやす。へへ」
ゲヘヘと笑いが起きる。と言うかマジで“ケツを洗って出直して来い”って言葉があるのか……。
「こいつのケツはいつもピッカピカだからなぁ……ゲヘヘへ」
ケツのでかい男はそのケツを剥き出しにしてパァン! と叩いた。その瞬間ドッと笑いが起きる。
「親分には早ぇや」
「いや、親分は案外もう済んでるかも知れねーぞ、へへへへ……」
「ひひひひ!」
この辺の話題はアレな男が集まったら出てくるよな。
「コーディ隊長は前も後ろも使用済みよ。男も女もね」
パットミちゃんが爆弾を投下する。
いやそれ、洒落になってないからね? パットミちゃん。一応心的外傷レベルの事だからね?
…………。
「「「ゲヘヘへガハハハ!!」」」
「流石親方だ! 俺が4歳の時ァ女より飯を盗む事で精いっぱいだったがなぁ!!」
「へへへ、お相手はお嬢ちゃんかい?」
「私の身体はコーディ隊長のモノよ」
おいおい、それも洒落になってねー。
「ゲヘヘへ!」
「フヒヒヒヒ! こんなに小さくて穴ァ開いてるのかお嬢ちゃんよぉ!」
「隊長も生えてるかどうかわかんねぇぜ! グヒヒヒヒ!」
パットミちゃんはさも当たり前のように会話に割り込んで元盗賊達を引っ掻き回している。度胸があるな……と言うか、大人慣れしている。ああ、確かパットミちゃんは武器屋に職場体験に行ってたな。荒くれ者の扱いはお手の物ってか。
「大した事じゃないよ」
「グヘヘへへへへ! 流石は親分の女だ!」
「へへへ、親分! そういやコイツのケツがでかい理由はわかりやすかい?」
「掘られたから?」
「ガハハハ! 逆だぜ親分!」
「違いやす。鞭打ちの刑ですぜ!」
「鞭打ち?」
「衛兵に捕まってケツだけ鞭で百叩きを15回食らったからなぁ! はっはー! でかくなって具合の良くなったケツを掘られまくったのよ!」
「ゲヘヘへ! 1回銅貨8枚ですぜ? 親分」
だからなんだと言うのだ。
「お、おう。病気に気をつけて程々にしろよ」
「そんでな、こいつの背中にも千回分のミミズ腫れが~」
◇ ◇ ◇ ◇
結論を言えばあいつら馬鹿みたいに捕まって何度も罰を受けまくっていた。普通は3回も捕まれば死刑になったりするのだが、捕まった街が違う街だったり、担当する奴が違っていたりと、やたらと運が良い。
その運が盗賊になる前にまともに働いていた時にでも発揮されればこうなる事もなかったのに……。
うーん。
まぁでも陰気より笑顔なのは良いな。
俺は宿屋の個室に入ってパットミちゃんと水を飲む。
ここは一応俺とパットミちゃんの部屋だ。雑魚寝部屋だと子供は誘拐される可能性が高いと言われて2人個室となった。一応入れるのはウィルソンチャックとルルーシュイン。そして、両手の無い男だけにした。
ウィルソンチャックは元々護衛として旅に同行しているので勿論の事だが、ルルーシュインは一応隊長として入室を許可した。そして、ウィルソンチャックが怪我をしているので、新しい護衛に両手の無い男を選んだ。一応人柄を見て大丈夫そうだと思ったからと言うのもあるが、両手がないから誘拐される事はないと言うウィルソンチャックの助言もあった。さらに言えば両手がなくても彼は足技で十分強い。
「コーディ、私何も気にしてないよ」
パットミちゃんは頭を持たれかけてくる。
「だから、コーディも終わった事は気にしないで」
ああ、さっきは俺の事を気遣ってカミングアウトしたのか。「大した事じゃない」ってな。
「……ああ」
パットミちゃんが俺を抱き寄せる。
「買い物に行こうか」
「そだねー」
窓の外は晴天。しかし異臭有り。ロンドヴルームの清潔さに慣れると、他の都市の衛生状況がかなり不潔に感じるな。
されど晴天。




