第68話 文化の違い
魔法都市グルグルの安い宿屋。コーディ山田とその部下数名は今後の話をするべく車座に座っていた。宿の部屋はボコボコの木の板の上に土壁が立っている程度の部屋で、かろうじて崩壊を免れているといった星1つ物件だった。
車座は上座から俺、パットミちゃん、ウィルソンチャック、そして、たった今口を開いている奴の席になっている。
「兵士の特性がありそうなのは11名だな。特に2番手の盗賊の短剣術と軽業が10人隊長並みに強い。3番手の盗賊の槍術と4番手の弓術も、鍛えれば10人隊長になれる器があった。残りはまぁまぁ普通の兵士だ。両手を切り落とされた元囚人も元戦士で身のこなしが良く、MPも人の倍ほど有るので、足技だけで兵士並の力はあるらしい。だが、両手がないので選には入れなかった。……と言う訳で残りの者は兵士ではない職に就く事になるが、受け入れ先はあるのか?」
発言の主は黒い長髪を後ろで束ねるイケメン32歳。痩せては居るが骨は太く、背は長身185cm程で何処か中華風の服装をしている。彼は俺が名付けた“ルルーシュイン”と言う名前を名乗っている。
元の名はリチョウ・ド・ロジン。マ・ンと言う国のロジン地域を治める貴族でありながら一軍100人程の常備軍を指揮していたらしい。しかし、そのマ・ンは魔物の集団暴走と盗賊の襲撃が重なり滅亡した。
彼はその後、隣国の森林国家アイヌにて狩人をして父母と暮らしていたが、父が病気になり、その父の「息子の手で送ってくれ」との遺言を受けて父の首をはねた。母はそんな事は知らず、父は息子と出稼ぎに出たと思っている。
そこで、リチョウ・ド・ロジンは長耳族の衛兵に捕まって投獄された。マ・ンの司法では親の介錯は親の意思があれば合法の安楽死なのだが、森林国家の長耳族はそれを良しとしなかった。長耳族は民族的に排他的な側面をもち、司法の管理が恣意的な傾向がある。
現代日本での司法は「法を犯したか」「罪を裁く必要があるか」「罪人に責任能力があるか」この3つのフィルターを通る者が刑を執行される。しかし、この世界の司法は殆んどの国が「泥棒をして捕まったら手首を切り落とすか鞭打ち100回か1週間位投獄」と言う位の適当な裁量で裁いている。牢獄が一杯と言う理由でさっさと腕を落として釈放……と言う事実上の死刑を行う事もあれば、美女だから腕を落とすのは勿体無いので鞭打ちしようなんて適当さだ。
そんな古代的で適当な法の運用をする都市国家郡の中で、森林国家アイヌだけは現代日本での3原則フィルターを採用している司法先進国家でもあった。しかし、その運用は「罪を裁く必要があるか」と言う所に「異民族は多く罪を犯す為に積極的に裁くべし」と言うバイアスが掛かる。
故にリチョウ・ド・ロジンは有罪。親殺しの罪で投獄された。
1日1杯の水と1週間に2つのパンのみを与えられる懲役2年と言う事実上の死刑、若しくは奴隷預りの刑となった。
そこでの幸運は母親に「出稼ぎに行ってくる」と告げて家を出た事だった。家にはマ・ンからの付き人が居るので、即生活に困る事はない。
しかし、66歳を越える母にリチョウ・ド・ロジンが投獄されていた1年半は長かった。
母は父と同じ病気に侵されていたのだ。彼が家に帰っての母開口一番の言葉は子供を思いやる言葉ではあったが、直ぐ様、介錯の話題となった。余程時間がなかったのだろう。
そこで、ルルーシュインは母に伝えた。父も病気で介錯したと言う事を。その訃報を受けた母は泣いて喜んだ。父よりも先に逝く事がなく、帰って来た息子に介錯を頼める事を……。そして、自身の命の灯火が燃え尽きる前に息子の帰還に間に合った事を。
……。
事が終わった後、ルルーシュインは父の墓と同じ場所に母を埋葬した。無許可であるために見付かればまた投獄されるのだろうが、国を去るルルーシュインには関係がなかった。
そして、付き人に礼を言い、形見の品を幾らか見繕いはしたものの、家の財産の全てを贈与して、旅立った。
これは、元囚人の方々が集合時間に遅れた理由の1つだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「選に漏れた奴の受け入れ先は今から作る。1人1人の職業や特性はわかるか?」
「元誘拐奴隷商人と武器と薬物の密輸犯と食い詰める程度の商人しかいないぞ。中には元鍛冶屋や陶工なんてのも居たが、腕は良くないらしいし、まともに商売するのなら足手まといだな」
「まともに商売するなら足手まといかもしれないが、うちはあまりまともな商売はしないからな。特に武器と薬物の密輸犯は役に立ちそうだ」
「ヤバい所に仕えてしまったみたいだな」
ルルーシュインは自嘲して笑う。
「そうだな」
俺も笑顔で返す。
「さておき、俺はこの魔法都市グルグルに用事があるんだ。魔導具屋と魔法屋……を目当ての物を見付けるまで適当に回ってくる。時間が掛かるかも知れない。取り敢えず金貨1枚預けるから、兵士達に訓練をしていてくれ」
「兵士を鍛えるのに金貨はいらない。私と兵が居れば良い」
「頼もしいな。頼んだぞ、ルルーシュイン」
ルルーシュインは黙って頷いた。
俺はその様子を確認して、宿屋を出た。護衛として、骨折しているウィルソンチャックと、訓練に参加しない両手を失った男を伴い、パットミちゃんを併せた4人で行く事にした。
「さて、俺は魔王の心臓の対策と自衛手段の確保か……。金は足りるかな」




