第62話 山賊ルピン
「はい、これ金貨99枚です」
「あ、ありがとうございます」
俺の薪割りスピナードが薪割り塔十字塔十字斧に進化した頃、昨日の十字傷の男が宿屋に来て俺の金貨の袋を置いていった。
「私も剣を盗られましたので、そのついでですよ」
そんな事を言いながら白い馬に乗って去った十字傷の男はすんごい格好良かった。
なんと十字傷の男はあの後、盗賊達を魔法を使って追い掛けて、アジトに居る盗賊団を全滅させてから自身の剣と俺の財布を取り返したらしい。男の中の男だ。
「格好いいな……ウィルソンチャック十人隊長も見習えよ?」
「言っときますけどノコノコと抜剣してる武器に近付いて行って人質になったのはコーディ隊長ですからね?」
「不用心」
「ぐうの音も出ねぇ」
街の広場には首の無い死体が悪趣味に3つ貼り付けられていた。首には「盗人」と書かれている札が掛けられていた。何となくあの腕に捕まったんだろうな、と見覚えの有る腕があった。札にある名前は山賊ルピン。残念な男だ。
俺は膝を折って瞑目する。
「何してるんで?」
「……祈ってるんだよ」
俺は首から上を奪われた可哀想な盗賊達の冥福と来世の改心を願い、真上にある太陽に向かって祈った。
「コーディ隊長は被害者のくせに、アレの事までよく祈れるな、聖職者だからか? どっちにしろ私にはわからねぇ」
俺は目を開けると、少し後ろに並んで祈りを捧げるパットミちゃんの姿が見えた。
◇ ◇ ◇ ◇
俺達は宿屋に宿賃を払い、一晩休憩した後に寄合馬車で森林国家アイヌの北の方へ進む事にした。
世の中は結構悪意に満ちているという事を、この身をもって味わう事が出来た。この経験を活かすなら寄り道はしない方が吉と言うものだ。
ガタゴトと揺れる馬車の荷台に腰掛けて、太陽の沈む西の空を眺める。
「世知辛いなぁ……」
「大丈夫」
パットミちゃんが俺の右手を握り締める。
チラとウィルソンチャックの方を見ると狸寝入りをしている。ずいぶん優秀な護衛だな。そして便利な奴だ。
「空が赤いねェ……」
「赤いね」
……。
ガタゴト
「俺の力はまだまだ小さい。だが、出来る事から重ねていけばきっと目標に届く。これ迄もそうだった。そしてこれからも……。前回は失敗したが、今回は生き延びてみせる」
「私に出来る事があったら言って」
ふと、独白に似た決意表明みたいなのが漏れてしまった。パットミちゃんの表情から、前回の意味は掴んではないと感じるが、精一杯受け取ってくれているんだと握った右手から伝わってくる。
こんな時間が続けば良いな……。
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「と言う訳で、これがパットミちゃんに出来る事です」
「はぁ」
「これ、私も書くんかい?」
森林国家アイヌの名産品は“獣皮紙”。そして、俺の元職業は“編集者”。ここまで来たらもうお分かりだろう。現代チートの時間だぁああああッ!
そうッ!! ハイパワー・ナグルス先生が前世の日本の記憶を使って民明booksレーベルを立ち上げたように俺も現代日本の進んだ文芸作品の記憶を使って荒稼ぎするッ! 森林国家アイヌに入ってから獣皮紙と羽根ペンとインクを買って、馬車に揺られる時間に寝て睡眠時間や休憩時間を生かして書いた『他人の本』を喰らえッ!
1日目。至森林国家アイヌ 南部街シャケゲトー
「本日は『人類失格』を書いたので、それを模写してくれ」
「根暗が死んだ」
「主人公は何がしたかったのか?」
「くそう! 此処には共産主義者は居ないのかッ……!」
◇ ◇ ◇ ◇
2日目。至森林国家アイヌ 中央街クマデター南部
「『みかん』はどうだッ……!」
「みかんに爆裂でドカーン」
「魔法使いが隠れている」
「魔法の概念を忘れてたッ……!」
◇ ◇ ◇ ◇
3日目。至森林国家アイヌ 中央街クマデター北部
「『ウキウキ雲』」
「難解」
「くたばって死ね」
「俺の文章力が足りねぇ……!」
◇ ◇ ◇ ◇
4日目。至森林国家アイヌ 北部町エトローフ
「『魯山人風卵かけご飯の作り方』」
「何で鶏の卵を1時間手で暖めるの???」
「誰が読むんだ」
「時代が追い付いてねぇ……!」
◇ ◇ ◇ ◇
1週間目。至森林国家アイヌ 外縁部シャコターン
「『three four John』『精神』『cherry boy』の三部作ッ!」
「平凡」
「無駄に長い」
「残念だけど作家の才能無いよ」
「書くだけ無駄だ」
「いや、俺のチートが……」
「急ごう。遊んでる暇ない。それと夜はちゃんと寝て」
「ぐ……ッ……! だが、俺は諦めないぞッ……!」
異世界人には異世界人の好みがある筈だ……! それがわかれば……成る程、ハイパワー・ナグルス先生の民明booksは同性愛作品に絞る事でニッチな客層をゲットしたんだな。
少し売れそうな本を調べてみるか……。
◇ ◇ ◇ ◇
……1週間と半分日目。
「荷物重すぎ」
「これ以上獣皮紙買ったら私護衛やめて帰るかんな」
「ぐうッ!」
彼等の発言は売れない小説家となった俺の心を抉った。確かに荷物の50%は獣皮紙と言う状態なのだ。護衛と補助役の彼等は正しい意見を言っているのだろう。しかし、この胸に来る感情は何だ……!1日10万文字以上も書いたんだぞ!
……。
「……再利用してみるか」
俺は暗記して魔法領域にする事にした。仮にこれを全て暗記に回すならば……1,875領域に達するだろう。大賢者も真っ青な出鱈目領域になるな。我ながら頑張って書いたものだ。文字数の指定されている原稿用紙に書いた訳ではないので、1つの領域に800文字以内と言うルールのある魔法の領域にするには不適当だが、獣皮紙1枚を半分位に区切って800文字以内にして調整すれば可能ではある……筈だ。獣皮紙1枚に2,000文字近く書いているので、半端な感じにはなるが……まぁ何も意味の無いものを暗記するよりはましだろう。
この魔法の領域に関しては少し作戦がある。なるべく多く持っている事によって得られる効果は大きい。現在頭の中にある領域は原稿用紙32枚分、32領域有り、「光癒(小)×1」「魔素避音波(小)×2」「接続型乱数転移(大)×11」で14領域を消費しているから、残り18領域使う事が出来る。
魔法都市グルグルに着くのが楽しみだ。
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「魔法都市グルグルに着いたら一旦荷物をまとめて送ろう。聖光教会の大教会神殿長エナ宛に送り付ければどーにかしてくれるだろ」
俺の他人を宛にする行き当たりばったりな作戦に頭を抱えるパットミちゃんとウィルソンチャック十人隊長だったが、結局それしかないと納得してくれた。
明日は明日の風が吹くのだ。うむ。




