第61話 運命の出会い
「薪割りスピナード!」
「斧投げダイナミック!」
森林国家アイヌの宿屋にて技名を叫びつつ薪を割っている男、それは俺です。
隣の木桶の前に座って無言で食器を洗っているのはパットミちゃんです。
「……」
そして、俺の正面で俺の8倍速で薪を割っているのはウィルソンチャック十人隊長です。
「コーディ隊長……割った薪が胸に当たってパーティー全滅とかやめてくださいよ……」
「大丈夫だ、前回と違って布鎧を着けている。それに聖水はあと1本残ってる」
「薪割り失敗で聖水が吹き飛ぶって考えたらどーにも無駄だと思うんだがな……」
ウィルソンチャック十人隊長は軽そうな頭を抱えて踞った。
「どーしてこーなった」
遡る事半日、話は森林国家アイヌの町ヌストイッゾに到着した俺達が宿を取って商店街に買い物に行ったその時まで遡る。
◇ ◇ ◇ ◇
「さーて、この国の特産品は香辛料だとか言うから、ちょっと羽を伸ばしてくるかね」
「くるかねー!」
「伸ばそう。ご飯楽しみ」
「自衛手段が見つかるまでは単独行動は無しでお願いしますぜ、コーディ隊長」
森林国家アイヌの街並みは一言で表すとログハウス横丁と言う所で、魚の骨の様な通りの作りをしている。横路に入ってもそこそこ店は繁盛しているが、生い茂る木々が影を落として少し薄暗い。
「この赤蛇粉ってスタミナ付きそうだよね」
「そうね」
「子供がそれ気にする必要ねーぞ」
「赤蛇粉辛いんだって」
「見た目通り」
「辛いの好きだぜぇ? へへへ」
ちょくちょく寄り道をしながら適当な物を買い込んでいく。大量に買っても荷物になるので、3人旅の中で試す程度の香辛料を懐に入れていく。現代食事事情を知っているだけに食事の彩りには気を使いたい。そして、飯は豪華に行きたい。俺とパットミちゃんは成長期だしな。
「食事は此処でとろうか。冒険者の酒場『菊門の魔窟』」
「まずそう」
「危険な香りがするぞ」
俺はパーティーメンバーの讒言を無視し、『菊門の魔窟』のスウィングドアを頭上に見送った。背後に若干2名の溜め息を感じる。
――冒険者の酒場。それは浪漫。
グローリアよ、見ろ、これが浪漫だ。
(ろまんー)
眼前に広がるのは柄の悪い男達の海。スキンヘッドに刺青で『悪者』と彫っているスーツ男に、モヒカン肩パットのヒャッハー君。鉄兜赤マントに革のパンツオンリーの戦士君。革のビキニアーマーを着けている男達も居る。おっと、カウンター席にはつなぎを着た男も居るじゃないの。ウボウボ。
これだよこれ! 如何にもファンタジーな世界じゃあないか。こんな世界が見たかった!
俺はいかにも新入りが座りそうな端っこの四角い4人掛けテーブルの椅子にドカと掛ける。
うーん。良い眺めだ。これでマンガ肉みたいなのをかじりながら馬の小便と呼ばれる安い麦酒何かを飲めれば最高なんだが……しかし、俺は4歳児。ここはハードボイルドに“ミルク”を注文するぜっ!
「マスター、ミルク3つを頼む」
「畏まりました」
……有るのかよ。ここは「帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな」じゃないのか。あっ、俺が4歳児だから煽らないのか。流石に4歳児煽ったら人格疑われるもんな。マスター良い人そうだし。
見渡す限り、まさに荒くれといった人々で埋まっている酒場は、まるで俺達が存在しない存在であるかのように振る舞う。その喧騒を抜けて先程までカウンターにいたマスターが現れる。
「どうぞ、農業国家トキオから冷凍されて届いた新鮮なミルクでございます」
蝶ネクタイのマスターが丸いお盆から机に、4つのミルクをトンと置いた。
「ん? 俺達は3つだぞ?」
「1つはあちら様のミルクでございます」
横を見ると、いつの間にかに“額に十字傷の有る男”が居り、笑顔でミルクを受け取っていた。
「お酒飲まないんですか?」
「下戸なもので」
なら酒場に来るんじゃねーよと思いつつ、俺は笑顔でグラスを浮かせる。
カツン
十字傷の男は笑顔で乾杯に応じた。
「観光ですか?」
「残念ながら仕事です。観光で来られたなら良かったのですが……」
「そうですか。俺も仕事で来てますよ。おあいこですね」
「その年で仕事を? 私もその位の年から働いていましたが……。珍しいですね。ともあれこんなところに仲間が居るとは」
今度は十字傷の男がグラスを差し出した。
カツン
ガラスのグラス同士が良い音を立てる。
「おっ、オッサン苦労人か……よーし、ミルクは俺がおごっちゃる! まぁ飲め飲め!」
「はは、ありがとうございます。初めて人に奢って貰いましたよ」
「おっ、そうか。良いもんだろう? ははは、人の金で飲む酒は旨かろう……じゃなかった、牛乳か、うはははは」
何となく旅の出会いにテンションの上がった俺は父上母上から貰った金貨を崩して見知らぬオッサンに奢ってしまった。その判断は甘かったと言わざるを得ないが、良い出会いがあったので良しとするべきか……そこは悩む所だった。
そこに謎の一団が割り込んでくる。
「さあさあ、皆様! 世にも珍しい喋る武器だよ! 使って頼もしい、喋って楽しい! 見てらっしゃい寄ってらっしゃい!」
「……何だ?」
「何でしょうねぇ」
パットミちゃんとウィルソンチャックはいぶかしむ様に一団を一瞥した。
何やら革のビキニアーマーの男達がうやうやしく抜き身の片手剣を持って近付いてくる。
そこで俺のテンションは爆上がりする。
喋る武器!? 浪漫だ!
俺は雰囲気に酔っ払った勢いで喋る武器と言われた片手剣にノコノコと近付いていく。
「はい捕まえた」
はい捕まった。……へ?
俺はスルリと首を極められ、眼前に抜き身の片手剣を当てられた。
「5秒以内にさっきの金貨の袋を寄越せ、そこの十字傷のお前もその高そうな武器を寄越せ、さもなくばこいつを殺す」
「……持ってけ」
ウィルソンチャックは1秒以内に金貨99枚の入った袋を賊に放り投げた。そして、間もなく十字傷の男も悩む事なくスルリと腰の片手剣を差し出した。
「ずいぶん金持ちじゃねぇか……。あばよ!」
賊は煙玉の様なものを地面に叩き付けた後に俺を天井まで放り投げて姿を消した。
……。
危うくこの場の全員が死んでもおかしくない展開だぞ……。あぶねぇな……。
重力に負けて地面に叩きつけられる前に、ウィルソンチャックのキャッチが間に合った。空中で足首を捕まれる酷いキャッチのされ方だったが、魔王の心臓の不安定さを考えたら最善のやり方か……。
額に十字傷の有る男は、その後挨拶をして直ぐに店を出ていった。
◇ ◇ ◇ ◇
と言う事があり、旅銀の全てを失った俺は宿屋でひたすら薪割りスピナードを放つマシーンと化していた。無論理由はお金がないからである。
「ピコーン! 富岳三千六百景!」
「お願いだから斧持ってふざけないでくれコーディ隊長!」
真っ二つに割れた薪は音を立てて転がった。




