第60話 出会いへの旅へ……
「魔法都市グルグル?」
「そうです。魔法都市グルグルに行けば、それなりに強い対魔の魔導具があると思いますので、北に行くのであれば寄ってみて損はないかも知れません。魔王の心臓を少しでも抑える魔導具があれば良いのですが……」
神殿長エナは自信無さげにそう呟いた。
「魔法都市グルグルか……今回は旅のゴールを城塞都市ミデンに設定してるから……森林国家アイヌを通ってから魔法都市グルグル……そして鉱山都市ユミルを通って……城塞都市ミデンか。うん。帰りは貿易都市クーロン、交易都市ゲソル、農業国家トキオを通るルートにすれば結構色々な都市を回れるな。
魔法都市グルグル……元々自衛のための魔導具が欲しかったんだ、対魔の魔導具は有っても無くても良い寄り道だ」
俺は地図を広げながらあーでもないこーでもないと話を始めたら、部屋の扉からぞろぞろと俺の騎士達とウィルソンチャック十人隊長が入ってくる。
顔は明らかに曇っていた。特にチロリちゃんの顔はかなりひきつっている様に見える。
「元気そうね」
「おう、チロリちゃん、心配掛けたな」
「心配したわよ」
「……すまんな」
……。
沈黙を破るようにウィルソンチャックが話に割り込んでくる。
「で、予定通り行くんですかい?」
「行く、ルートは農業国家トキオを通って行く予定だったが、森林国家アイヌを通って行くルートに変更する。先ずは魔法都市グルグルへと向かう。早くしないといつまた暴走するかわかんねーからな」
暴走と言う単語を聞いた瞬間ウィルソンチャック十人隊長の片目が閉じて眉が動いた。思うところはあるのだろう。無い髪の毛を掻きながら話し掛けてくる。
「私はコーディ隊長の護衛ではなくて、襲ってくる盗賊とかの護衛って事で良いんですかね?」
「茶化すな。まぁ、だが魔王の心臓の事を黙っていて悪かった。今話すよ」
俺はウィルソンチャック十人隊長に、この数日間にあった魔王の心臓関連の事を話した。
◇ ◇ ◇ ◇
「魔王か、全然実感がわかないが……まぁあの強さはそうなんだろう。結構真剣に戦ったんだが、遊ばれていただけだったからな」
そうだ、4歳児の俺が大人の兵隊……しかも十人隊長の攻撃を余裕で捌いたのだ。……余力を残して。しかも、肉体性能の差が虎とチワワ位違う状態でも翻弄していたから驚きだ。
「ともかく、そー言う訳だ。不測の事態がないように頼む」
「わかりやした。いやぁ、とんでもない人を上司に持ったもんだ」
「じゃあ、俺達は行くぞ。チロリちゃん、ゲロゲロちゃん、後はよろしく頼むぞ」
「無理しない程度に頑張ってね」
「無事を祈ってます……」
◇ ◇ ◇ ◇
俺達はウィルソンチャックの用意した食料やテント等の道具を背中に背負い、ロンドヴルームを出て北への道を歩き始めた。先ずは森林国家アイヌへと向かう。
――――森林国家アイヌ。人種的には98%を長耳族が占めており、そのロハスな生活様式から出る森の幸が都市を潤している。特産品は狩られた獣から作られる革製品と獣皮紙で、その過程で獣肉も大量に生産される。
また、栄養価の高い果物や木の実等の食料品も大量に収穫されるために食料が不足する事は殆んどない。但し、季節で得られる食材が決まっているので、栄養素の事を考えると計画的な食料管理と備蓄は必須な様である。
食料輸出の面では果物等を使って作られた葡萄酒や林檎酒や蜂蜜酒が全体の60%を占め、残りはナッツや獣の干し肉や香辛料等が占めている。しかし、主食の麦類や塩は輸入に頼っている所も有るため、食料自給率は100%とは言えない所がある。
地図に書かれている戦4食6工6商3はゲームのステータスの様なもので、その国家のみで自活可能かの指針となる。その国家の持つ力を総合的に表すものではない。
戦食工商の数字は、基本的に5が普通に生活する上で満足のいく生産量で、6からはその産業は輸出可能という意味を持つ数字となり、文句なしの基幹産業は9となる。1~3は足りない部分を他国からの輸入で補っていると見て良い。4であるならばギリギリ自活可能なクラスと言う訳だ。
しかし、森林国家アイヌの食料事情の所で述べたように、食の数値が6であれ、食料は輸入しなければならない事情は存在するし、逆にロンドヴルーム国の様に食5でも必要な食料を輸入に頼らずに何とか遣り繰りしている国もある。
その辺の事情は国によって様々だ。
それを鑑みて見るに、森林国家アイヌの戦力は都市を維持する程度に有り、食料と工業製品は輸出可能な程の水準で有り、商売は多少下手で、国外から不足分を搾取される所が有る……と見る事が出来る。
国家間の争いは無いが、鉱山都市ユミルに住む短身族とは種族の美的感覚や生活環境の違いから、あまり仲が良いとは言えない状況がある。また、散発的に国や集落が魔物に襲われる事があるが、狩人の職に就く者が多いために、少々の魔物は跳ね返してきた歴史がある。
宗教的には祖先崇拝が強く、聖光教会の信者は5%にも満たない。だが5%とは言え他国の宗教の信者が一定数居る事はこの国の首脳陣にとっては悩ましい部分であった。だが、この国もロンドヴルームの聖光教会の承認を受けて国の権威を保証されていると言う側面を持つ。
……と言う訳だ。
「チロリちゃん、果物好きだから来たかっただろうね」
「そう言えば八百屋に職場体験来てたもんな。まぁ、平和になったら幾らでも旅をして回ろうじゃないの」
「そうね」
俺達は徒歩1週間の旅路を終えて、先ずはじめの目的地森林国家アイヌの入り口に来ていた。
開けた森の木の上に建つ木製の小屋、地上に建つ石造りの小屋。行き交う長耳族の人々。森林国家アイヌの名を情景で名乗る集落が目の前に広がっていた。




