第58話 戦略会議
「先ずは明日、予定通りにケンデリカット・ユタとデブスペクトル・ユタの2人が水の都ヴェネチアを通って南方の名も無き占領国家に行って貰う。そして、テロリストを探してもらい、武器を支援する事になっている。武器の手配はどうなってる?」
俺は両手を組んで、そこに深く顎を置きケンデリカット・ユタとデブスペクトル・ユタの2人を交互に見る。
「必死こいて鉄巨人の胴体と鉄片を連日運び続けまして、鍛冶屋に密輸用の武器を鍛冶屋に作って貰いました。70cmサイズの中刃剣で、鍔を取り外しが出来る様にしました。9日間で60本仕上げて貰いまして、それを毛布に包んで1人30本持ち歩けます。
それから、職人の1人が魔導具作りの修行をしていたので、遊び心で衝撃の魔術回路も仕込みました。サイズは小さいながらロンドヴルームで売ってる武器の中でも割りと高い攻撃力があります。……予算は掛かりましたけどね」
「優秀だな、薬はどうなってる?」
「テロリストに支援する薬は高級傷薬を40個、あとはダミーで漢方薬を大量に積んであります。一応その漢方薬を売って路銀を稼ぐ予定です。普通の傷薬とかは現地で調達して売りますね。作り方は習ったので効果の低い普通の傷薬とかは私が現地で作りますよ」
「よろしい。では明日から旅立ってくれ。旅は往復の時間を含めて1ヶ月位掛かるだろう。多少長くなっても良いが、2ヶ月後迄には帰ってきてくれ」
「はい、会長」
「うんこちんちん」
相変わらず面白い兄弟だ。
俺は両手を上げて大袈裟に喜んだ。
……。
反応はイマイチみたいだな。
「では次に俺達の動向を伝える。俺とパットミちゃんとウィルソンチャック十人隊長は北へ向かい、都市国家郡をくるりと回る様にして移動する。ルートは未定だが目標は城塞都市ミデン。都市国家郡の親玉にして傭兵が基幹産業のイカれた国だ。いざと言う時に援軍派遣して貰えるように交渉してくる予定だ」
……予想だが、帝国はそう早いうちにロンドヴルーム国を攻める事はないだろうと考えている。実はその根拠に『設定集』の情報がある。俺がテロリスト支援のアイディアを持ち出した理由でもあるのだが、『設定集』の「名もなき占領国家郡」の説明に「レジスタンス」が潜んでいる。と、書いてあったからだ。
当然その情報は帝国もある程度察知しているだろうし、その状態では占領国家郡から兵を動かす訳にはいかない。この情報を纏めるに……恐らく、クロスアーミー先生の予想通り3年程度の時間が掛かるのではないかと考えているのだ。
3年と考えれば、長期的な展望が見える。水の都ヴェネチア以外にも、北の都市国家郡から傭兵が借りられたなら、資金が引き出せたなら、魔導具を得る事が出来たなら……相当なアドバンテージを得られる。
故に目的地は都市国家郡の最奥国、要塞都市ミデン。
「その間、チロリちゃんとゲロゲロちゃんと兵士達はこの辺の整地と砦の建設を進めておく事。可能なら鉄の採掘も進めていても良いが、安全第一でヨロシク」
「早く帰ってきなさいよ!」
「待ってますー……」
◇ ◇ ◇ ◇
という訳で、ユタ兄弟はテロリストを援助すべく南へ旅立ち、俺とパットミちゃんとウィルソンチャックは北へ、チロリちゃんとゲロゲロちゃんは留守番。
パットミちゃんを選んだ理由は商業スキル。あの先読みとも言えるレベルの気遣いは俺のやりたい事を整える力はこの旅に必要だと言う判断だ。
……。
会議を終えた俺は席に残って今後の展開を頭の中でシミュレーションしていく。忘れ物はないか? 不測の事態にはならないだろうか? 4歳児が事を成すのだ、備えすぎって事はないだろう。
今のところの敵は2つ。
俺に魔王の心臓とやらを埋め込んで生け贄にしようとしているというクロスアーミー先生。どーゆー理由でそうなってるのか不明だが、敵には間違いない。
そして、赤人の帝国は何が目的かは分からんが、ロンドヴルーム国を狙っているらしく、現在途中にある2つの国を攻め落として属国として統治中。目下、この侵略を止めなければ俺たちの未来はないと言った状態だからクロスアーミー先生とも手を組まねばならない。そんな所だ。
俺の力は大きく分けて3つ。先ずは『設定集』の力。これは俺の頭の中にある本で、この世界の概要が記されている。1日置きに知識が更新されるので、仮に国家レベルの問題が発生したら分かる様になっている。先日作った勢力地図もこの力の一部を具現化したに過ぎない。だが、あれはあれで欲しい所からすれば金貨1,000枚以上の価値があるんだよな。
それから「天使の歌声」。これは、俺の『設定集』に似て未来を映し出すと言う『羊皮紙本』を持つ預言者を呼び出すために必要なものだ。預言者は「聖気」と「陽光」と「丘陵」で呼び出すらしい。預言者の『羊皮紙本』を狙っているクロスアーミー先生にとっての交渉材料にもなるし、これがある限り殺されたりする事は……無いと思う。
最後に、転生者として前世の日本人だった頃の記憶があると言う事。これは同じ転生者のハイパワー・ナグルス先生も持っている。現代チートと言う奴だ。聞けばロンドヴルームを清潔に保つシステム周りはハイパワー・ナグルス先生の発案が大きいと誰かが言っていた。あと、ハイパワー・ナグルス先生が乱発行している『民明books』も現代チートと言えるだろう。
正直、『設定集』は戦略レベルの事にしか使えず、「天使の歌声」は取引にしか使えず、現代チートは内政や戦術レベルの事にしか使えず、また魔法のある世界故にあまり役に立たない側面を持つ。故に目下、自衛手段を途中で確保すると言う旅のサブ目標が有る訳だが……。
あと、俺には爆弾がある。“魔王の心臓”と言う、突然出てきて俺の選択肢の最悪な方にカーソルを当てて延々とクリックし続ける最低な奴だ。これはどのタイミングで出てくるかの予想も付かない。刃物持って歩いて、人を殺して回らないとも言えない。
ただ、表に出てきている時は赤い紐が俺の身体を縛っているか、視界が赤くなるので、今なら判断出来ると思う。
……あと、これを植え付けたのがクロスアーミー先生だと言うなら、七枚羽の天使はクロスアーミー先生かクロスアーミー先生の関係者かもしれないな。
ふと左手を見る。まだ、特に問題はなさそうだ。
……顔をあげるとウィルソンチャック十人隊長が砦の入口に立っているのが見えた。
「コーディ隊長、旅は最低1ヶ月は掛かるだろう。一応護衛は私1人だから、自衛の手段として最低限の事をお伝えしたいのだが大丈夫か?」
「ああ、頼む」
「じゃあ、今すぐにでも……」
俺とウィルソンチャックは出口から外に出て、向かい合った。




