第55話 我誓う。
グローリアが寝た。砦の外では虫の声が聴こえる。俺は右手で丸を作りながら、寝ている兵士達の間をトントンとすり抜けていく。大原雑魚寝とは言ったものだ。女子が4歳児じゃなければ良いんだが……(笑)
俺が通り抜けると、方々で寝ていた女子3人が起き上がって出口まで付いてくる。出口を出て見張りの人に挨拶をすると、砦の前の広場にある丸太に腰掛けて彼女達の話を待つ。
え? ここじゃダメ? あんまり離れ過ぎると魔物も出るし危ないんだけど……。え? 狩人の五感使えって? あれは囁空気とか、実体が無いほど魔素が薄い魔物とかはあまり探知出来ないし、魔素の無い野犬とかが出たら危ないよ? ああ、返事は聞いてないって事ね。わかりますわかります……。
俺達は近くの水場に行くと見張りの兵士に伝え、大声を出したらすぐに助けに来てくれる様にしてもらった。
そして歩く事3分。俺達は清らかな池の前に立っていた。
チロリちゃんが口を開く。
「まず、聞いて頂戴。これから先、どんな事があっても……私達は味方と言う事」
「そりゃ知ってるよ」
「良く聞きなさい。この場に居る3人は貴方が大教会の神殿に入った日に、神殿長様に呼ばれてあなたに関する“預言”を預かったの」
「……は?」
「すぅーーーーっ、はぁああああああああ。私が言うけど……良いかしら?」
チロリちゃん覚悟の深呼吸、からの宣言。ゲロゲロちゃんとパットミちゃんはその宣言に頷いた。
「言うわ。あなたの中に居るのはグローリアとコーディだけじゃない。あなたの左手には、他人の心臓が宿っている」
「他人の心臓……?」
「血管とか見えたりしない……?」
「……? あっっっっっ! 赤い紐!」
「……見えてるのね。それは他人の記憶を持っているから、とても危険よ。『赤』に注意して。何かに縛られている感覚や赤くなる様な感覚があったら、その“他人”がコーディを操っているかも知れないから……」
「あれ……何か身体の中に記憶が……溶けてきた……。これは……?」
「これは事実よ、コーディ。受け入れる事は出来ないかも知れないけど……。神殿長様がコーディの記憶を一時的に思い出させなくしてあったの。それを、今解いたの。神殿長様は、どんな事があってもコーディ、神はあなたを許すと言っていました。だから、気を確かに……コーディ! コーディ!」
「か……ぁ、ぁああああああ…………」
「あ……」
「「「コーディ!」」」
俺は全てを思い出した。俺は、俺の意思で、俺の選択で……パットミ=ポリエステルちゃんを……グローリアを……。
汚した。
あのクロスアーミー先生と一緒に……!!
師匠の妻を名乗る女性も……!
これが俺を連れ出した理由……か……!
「コーディ、私は好きであなたの所に来たの。だからお願い。何があったとしても自分を責めないで」
パットミちゃん……。
呼吸が荒くなる。罪の意識が胸に広がる……。が、それ以上にある疑念が強く浮かび上がる。確かに「それ」を選択した意識があるのを覚えている。だが、自分の選択の筈なのにどうやっても自分がやりそうにない選択をしている……。頭に血が上っていた? いや、そんなもんじゃない。あれは……!
「コーディ」
意識が飛ぶ。頬に鋭い痛み。俺はチロリちゃんに頬を叩かれた。
「犯した罪は消えないのよ……! 私達は皆あなたがグローリアにした事を知ってる……! だから八つ裂きにしてやりたい位……! でも……ッ!でもッ、それ以上にあなたが……抗えない程の苦しさに喘いでいるのも知ってる……だから……だから……」
「コーディさんを支えます……」
「だから、私達が君を支える」
「何があろうとあなたを支える。だから、だから……コーディ。あなたは何があってもグローリアを幸せにしなさい。これはあなたしか出来ない事なんだから……!」
「……!」
「コーディ。私達はこれから……負ける事は出来ないの。あなた自身にも、帝国にも、クロスアーミー先生にも……」
「……」
「誓ってコーディ。絶対にグローリアを幸せにするって。そうすれば私達は絶対に裏切らない。あなたの騎士になるわ」
「……ああ。わかった」
俺は、目を閉じて息を吸って、息を吐きながら目を開く。
「我、コーディ山田が神に誓う。如何なるモノを犠牲にしようと、グローリアを幸せにすると」
右手を心臓に当てて、クロスアーミー先生の宣言を真似て誓う。こんな時に癪だが、神殿騎士の作法は神に宣誓する作法。作法に罪はない。
だが、……だがッ! あの顔がどうしても頭から離れない……。
「落ち着いて、コーディ」
3人は俺の前に跪く。
俺は気を取り直して宣誓を続ける。
「チロリ・ゲロゲロ・パットミの3人を我が騎士に命ずる」
「我、チロリは神に誓う。死して魂となりてもコーディ山田が騎士である事を」
「我、ゲロゲロは神に誓う。死して魂となりてもコーディ山田が騎士である事を」
「我、パットミは神に誓う。死して魂となりてもコーディ山田が騎士である事を」
「あの剣で肩をトントンする奴とかいる?」
「私はこれでお願い」
「これしか持ってない……」
「それなら私はこれで」
「えー……これで? 後でが良くない?」
チロリちゃんは革のベルトに差していた“錆斬”で、
ゲロゲロちゃんは付けていた眼鏡で、
パットミちゃんは革のベルトに差して持ち歩いている算盤で、
……肩をトントンした。なんだこれ。
「これで逃げられないわね。よろしくね、コーディ」
「ああ、チロリちゃん。これからも頼む」
「出来る事は少ないけど……よろしくね?、コーディ」
「ああ、ゲロゲロちゃん。これからも頼む」
「こーなっちゃったか、よろしく頼むよ、コーディ」
「……ああ、パットミちゃん。……これからも頼む」
「ああ、あの事だったら気にしないで、嫌じゃなかったし」
「……すまん。謝る事しか出来ない」
「私がいーってんだから気にしない」
「そーよね、別に気にする程の事じゃないんじゃない? ね? ゲロゲロちゃん」
「え? 私ッ!? えー、そうかな? えー、まぁそうかも」
「だから、まぁ、元気良く行こう。ね?」
あっ、そうか。忘れてたけどパットミちゃんはゲロゲロちゃんの恋の相談相手だったな。
何だかみんな笑顔になった。
だが、俺の中には違和感は残っている。




