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“偽天使転生”~社畜編集者の異世界成り上がり録~  作者: 林集一
聖の章 中編 死の商人と赤い紐の謎
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第51話+第52話 深淵で嗤う者の名は

これにて胸くそ展開は半分終了です。お付き合いいただいた方々に感謝します。

 翌朝はやって来た。俺の身体は所々革で擦れて赤く赤く蚯蚓の様に腫れていた。


 俺は誰にも話し掛けられないままに朝食を終え、安息日――職場体験の準備をする。


 YOROZU修理店……。潰れてないと良いな。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ――――今日はだぁれだぁれも俺の手を繋がなかった。まぁ、こんなもんだろう。最近は精神年齢10歳児にしてはビバリーヒルズしていたが、所詮ガキのおままごとだからな。


……何だか少し違和感のある日常を消費すべく歩く。


 すると、特に何もなくYOROZU修理店へと到着した。


「おはようございます……師匠の奥さん」


「あら……おはよう。グローリアちゃん」


「今日は何をしますか?」


「そうね……店番かしら? 椅子に座る姿勢から教えようかしら?」


 師匠の奥さんは店の看板を「くろうず」へとひっくり返した。


 そして、椅子の上に座って自身の膝を撫でた。


 俺はため息を突きながら師匠の奥さんの膝の上に座る。


 すると、肩に重たい物が乗し掛かる。当たり前の様に右目を右に向けるとうっすらとポッチリがある。同じ様に左目を左に向けるとうっすらとポッチリがある。今の俺は凄い斜視の人みたくなってるだろう。


 シュッ、と俺の瞼と眼球の隙間から出た赤い何かが涙袋の間を横切った。


 そうだ、俺は4歳児じゃないか。少し位甘えても良いんじゃないか? ストレスは溜まってるんだ。手を伸ばせばほら……先端。何だ簡単じゃないか。何を俺は悩んでいたんだ。


 グローリアを閉じ込めた部屋が激しくノックをしているが、今はそれどころじゃないだろう。


「ん……ッ、グローリアちゃんはとっても可愛いわぁ……」

「今はその名前を聞きたくないな」


「おばさんだけどいいのぉ……?」


「…………」


 俺は無言で口を開いた。すると、開いた口に奥さんがぬるりと滑り込んできた。目から腕から、ギリギリと赤い紐が身体を締め付けるように溢れ出てきた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ……。


 やってしまった……。完全にこれ邪教徒じゃねぇか……。


 入れこそはしなかった。が、これはもうグレーゾーンまっしぐらだ。出こそしなかったが、ビリビリと痺れる程の快感があった。


 何かもう駄目かもしれない。


 ドロドロになって煙草を吸っている師匠の奥さんを名乗る女性を置いて、ふらふらと街の中心へと向かう。


 道行く人々は皆すれ違い様に眉を寄せて目を見開く。


 当然だ。


 俺だってこんな子供が居たらお巡りさんに通報するさ。


 ふと、大勢の人が湧き出すように通りの果てから出てくる。


 その先には……。


 大きな建物があった。


 ――――大教会。人口10万人都市ロンドヴルームの中心にあり、信仰の中心でもある。奥に神殿があり、そこに神の使いと言われる程の神殿長が居るとの事だ。また、どうでも良い事に大教会はケツワレール先生の勤め先でも有るらしい。


 コツコツと、まばらな足音と何回かすれ違う。


 安息日の礼拝を終えた大教会は、奥に行くにつれて無人の荒野のように人の気配がなく、街の中心でもある筈なのに痛いほどの静寂を称えていた。


 高い位置にあるステンドグラスの窓から暖かくなってきた夏の光が注ぎ込む。俺は、一度止まった足を無理やり動かして懺悔室の中に入った。


 中にあった丸椅子に神に背を向ける形で座る。目の前には艶々に磨きあげられた懺悔室のドアがあり、俺の顔が映っていた。


「俺は姦淫の罪を犯しました」


 神からの返事はない


「それだけではなく、大切な人を長い間閉じ込めたままなのです」


 神からの返事はない。


「友達も裏切っているかも知れません。人の気持ちを利用して酷い事をしているかも知れません」


 神からの返事はない。


「……しているかも知れませんじゃない。してるんだよ!」


 ! ……! ……!


 俺は懺悔実のドアを全力で3回蹴飛ばした。が、4歳児の脚力ではびくともしなかった。


「俺は人を殺す手伝いをしている……笑顔で。自分を守るために沢山の人に間接的に沢山の人を殺すように命令してる……。自分の手を汚さずに人の手を使って……。苦しい、死にたい。でも死ねない。もう計画は動いているんだ。死ねない――――」


 神からの返事はない。


「聞いてンのか神様(クソヤロウ)! てめーの可愛いグローリア(天使様)の身体がババアと俺とクロスアーミー先生ェに弄ばれてんだよ! 助けろよ!


  開発もされてねー乳首を噛まれて、出もしねーのに擦られて、舌先で弄ばれて、アザラシみてーな声が出るほど喘いだんだよ! 声だって店の外に漏れてるだろうしよ、頭蓋骨の中は快楽漬けで……。


 グローリアだって感覚を共有している筈だろ……こんな……こんな最低な……う……ぅわぁあ、ぁあ"あ"! あ"あ"! あ"あ"!」


 俺は懺悔室のドアを再び3回蹴った。


 ……。神からの返事はなかった。


「救えよ……」


 ……。


 俺は床に伏せ、手を折り重ね、神に祈るポーズを取る。


 ……。


 ふと、懺悔室の向こう側で震える息を吸う音が聞こえた。


「私は神ではないのであなたを救えません。ですが、あなたのために祈る事は出来ます。もし、立ち上がれるだけの力があれば、神殿までお越し下さい」


 キイッ、パタン。トッ、トッ、トッ……。


 椅子を立って懺悔室の向こう側から誰かが出ていく音が聞こえる。ずっとそこに居たのか……。


 俺は散々蹴飛ばしたドアを開けて、懺悔室の外に出る。


 辺りに人の気配はない。


「神殿……か」


 俺は大教会の奥へと向かった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 大教会は、教会と言われる建物にしてはなかなか質素な建物だった。天井が高く、数多くの天使を映し出すステンドグラスの窓に覆われては居るが、信仰を向ける明確な物が何もない。天使や預言者の象が聖別幼育園にある事から偶像崇拝を禁止している訳ではないのだが、何処か中心の空間がぽっかりと空いているのだ。


 俺は大教会の中心にぽっかりと空いた通路を真っ直ぐ進んでいく。すると急に空間が狭くなり、ヒト1人が通るのがやっとな下りの階段が現れる。その、薄暗い地下へと向かう階段を降りていくと程なくして突き当たりとなる。そこには左右に別れる道があった。


 俺は何となく右の道を進むと、今度は螺旋階段が表れ、その階段をゆっくりと昇っていく。すると、地下から1階部分を突き抜けて屋上へと出た。左側にも同じような階段があり、どちらを選んでも此所に到達する様だった。


 テラスの一段高い場所に豪華な椅子が2脚とテーブルがあり、そのうちの1脚に、うっすらと笑みを浮かべた女性が座っていた。


「初めまして、コーディ山田さん。私は神殿長のエナと申します。もし宜しければお座り下さい」


 エナはそう言うと席を立って脇にあったティーセットでお茶を入れ始めた。


「はい、どうぞ。飲むと落ち着きますよ」


「……どうも」


 この世界始めてのお茶の味は、ひたすら苦かった。だが、後味は悪くない。頭に溜まっている滓のようなものが解れていくのを感じた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ある程度お茶を飲んだ所で、神殿長のエナが羊皮紙の本を取り出して、パラパラと頁を捲り始めた。


「では、お話を伺います」


「さっき聞いたんじゃないのか?」


「何度も話す事によってあなたの中での整理に役立つと言われています。ここは私とあなたしか入られない様になっていますので、先程と同じ内容でも、違う内容でも構いませんよ。……あと、ここは神の力で何人(なんぴと)たりとも情報が漏れないように出来てますので、本当にどんな内容のお話でも構いません」


「じゃあ……」


 俺は先程と同じような内容の話を行った。


「私にはあなたの苦悩を取り除く事が出来ません」


「何故ですか?」


「例えば、あなたを陥れているのはクロスアーミー神殿騎士で、あなたが師匠と呼んでいる方もその妻を名乗る者も、果てはウィルソンチャックと名乗る西の森に居る者も、皆その一味で、あなたは全て掌の上で弄ばれながら操られている。そして、あなたは魔王の心臓として生け贄に捧げられる絶対の運命の元に産まれています。あまりにも酷な真実ではありますが、それを全てあなたに伝えます。あなたはどうしますか?」


「……? 何故私の苦悩を取り除く事が出来ないのですか?」


 …………?


 急に黙り込んで(・・・・・・・)どうしたんだ?


「……答えはもう伝えました。ですが、直ぐにあなたがそれを答えと認識する事は出来ません。しかし、認識出来なくても心のもやもやは晴れたはずです」


 答えはもう伝えた……? 何の事だ? だが……何故か心が……。


「確かに……。あれ、涙が……泣きたくないのに……涙が……あれ? お母さん……会いたいよぉ……お母さーん……」


 俺はボロボロと涙を流しながらわんわんと泣いた。


「泣きなさい、私はあなたの母ではありません。ですが、遠い地に離ればなれになってしまった母の代わりにあなたを抱き締めましょう。神の名に誓います」


 …………。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 神殿長は、羊皮紙の本を閉じた。


「良いですか。あなたは此所に産まれてくるべき魂ではなかった。ですが、この世に生を受けたからにはどんなに酷な人生が待ち受けて居ようと、神の思し召しなのです。魔王の心臓と血管と言う強い因果で縛られていようと、それよりも強く抗いなさい。あなたが幼くて弱いうちは、あなたを縛るその力は弱いでしょう。ですが、あなたが強くなればなるほどあなたを縛る因果の紐は強くなるでしょう。


 ……ですが、あなたが正しい選択をする度に、あなたの回りには決して(よこしま)な力の介在しない力が集まります。それは、“縁”の力です。その力なら、或いは、確定している結果も…………」


「……? はい?」


「行きなさい、そして祈りなさい。強くなりなさい。抗えない程の強制力を持った魔王の囁きに唆されたとは言え、あなたが犯した罪を自身が受け入れられる様になるまで、その記憶を封じましょう。そして、僅な間ですが、その魔王の心臓の意志を抑えましょう」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 俺は殆んど何も話さないエナ神殿長に別れを告げて席を辞した。


 ……薄暗い螺旋階段を抜け、くるりと曲がって出口へと向かう。


 そして、神殿の出口に立つ。すると、そこから見える大教会のステンドグラスに光の文字で「happy birthday」と書かれていた。


 ああ、この神殿の作りは……子宮か。俺は生まれ変わったんだな。



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