第50話 端数の濡れ場――BLタグ回収――
胸くそ展開は次回で終わりです。少々お付き合い下さい。
◇◇◇◇以上前書き◇◇◇◇
一縷の望みをかけて廊下に飛び出すと、騒ぎを聞いたのかハイパワー・ナグルス先生が飛び出してくる。
「どうしましたコーディさんっ!」
「ナグルス先生ッ! 今直ぐ俺に聖光だか解除を掛けてくれェッ!」
「何事ですッ! え……ほ……聖光!」
再び肺からドス黒い悪意が囁く「俺は聖域に居るんだぜ? つまりは聖光は逆効果とは考えないかい……?」
聖なる光に反応してか、悪意の塊は肺の中で存在感を急激に増してきた。
――不味いッ! これは……乗っ取られる!?
「暗闇を使って下さいッ!」
「暗闇は……えっ……クロスアーミー・グロースター先生しか使えませんッ!」
久々にクロスアーミー先生の本名を聞いた、いやそれどころじゃない!
「く……クロスアーミー先生ェエエエエ!」
俺は宿直室に向かって廊下を走り出した。すると。騒ぎを聞き付けたのクロスアーミー先生もこちらに向かって走ってくる。
「どうしたっ! コーディ!」
「クロスアーミー先生ッ!暗闇を掛けて下さいッ!緊急ですッ!」
「暗闇……? 分かった。――“暗闇ッ!”」
「暗闇か、実は暗闇の方が俺の好みなんだよなぁ! ククククッ! 騙されたな。坊や」
「そんなッ! 騙されていたなんてッ!どうすれば……!!」
「落ち着けコーディ」
俺はクロスアーミー先生に背中を抑えられ……抱き抱えられるように固定された後、鳩尾に膝蹴りを食らった。
「ご……はっ……!!!」
そして、耳元で囁く。
「安心しろ、今お前に話し掛けているのは空気が変化した魔物で囁空気と言う奴だ。お前の“不安感”を喰らって存在感が増すが、人間に害を為せるほど強くない。息を強く吐いたら、こうやって捕まえられる」
クロスアーミー先生は俺の口からはみ出していた違和感を指で摘まんで、肺から引き擦り出した。そして、パチンと指を鳴らしたら、嘘のように消えた。
ああ、聖光で存在感を増したんじゃなくて、聖光が効かない事で動揺した俺の心を喰って存在感を増したんだな。
「え……あ……ご……ごめんなさい……」
俺は自身を見失っていた。
「こりゃ聞かないといけない事が有りそうだな。普通はここで魔物は発生しねぇ。何があったんだ?」
クロスアーミー先生が俺を抱き締める形で拘束する。そして耳の前で気を抜いたら噛まれそうな囁きを放ってきた。
「あ……あの部屋に秘密の通路があって……。そこに魔物が……」
「見ちまったか、もう誤魔化せねぇな。あれは俺のとっておきなんだ。魔物の作り方は習ったんだろう? 意見を出すぐらいだからな。 俺はそれに対してどう答えたか覚えてるか?」
……“魔物の人工培養を行い、敵陣を襲わせる。魔物の発生条件の「暗闇」「魔素」「窪地」を意図的に作り出して魔物を産み出し、対帝国戦力として活用する。”
……“回答者:クロスアーミー「有事には私設部隊で勝手にやれば良い。正規軍としてはこの提案を認めない」”
まさか、そんな……。
「有事だからな。ふふ……お前が同じ考えで良かったよ……。共犯者だな、コ~ディ~?」
首筋を舐められるような感覚がある。先程の囁空気なんか目じゃない悪意を感じた。身体中を赤いナニカが這い回る。だが、不快じゃない。不快じゃない所に極大の違和感を感じる。しかし……ッ!異国の地で同郷の親友を見付けた様な心地良さすら感じる。この快感は……ッ!
この人に従っていれば無条件で“大丈夫”と言う安心感。包容力。パットミ=ポリエステルなんぞ目じゃない圧倒的な包容力があった。
気持ちが高揚する。俺の全身に赤い紐が浮き出て亀甲紋のようになっているのが分かる。それは身体の内側から俺を縛っていた。頭の中で聞こえていた誰かの声は最早他人の声ではなく俺の声に重なって聞こえる。
視界はワインレッドよりも濃く、心臓の鼓動と共に濃淡を繰り返す。
廊下の向こうから十字架の様なモノを持ったハイパワーナグルス先生が走ってくる。
「だ……大丈夫ですか?!」
「大丈夫だ……熱で変な夢を見たらしい……」
クロスアーミー先生は振り返りもせずに、俺を見ながらハイパワー・ナグルス先生の問いに答えた。
「コーディさんッ……?」
「ハイパワー・ナグルス先生。迷惑掛けましたね。俺は全然平気です。もう寝ますから、大丈夫ですよ……? ふふ」
「いやしかし……」
「クドイですよ? そんな様子じゃあ嫌われちゃいますよぉ? 先生♥」
「でも……「でもじゃないですよ、ハイパワー・ナグルス先生、私が面倒を見ますから、大丈夫です。ですので戻られて大丈夫ですよ。戻られて下さい」…………分かりました」
ハイパワー・ナグルス先生は1分ほど抵抗したが、苦い顔をして去っていった。
「さぁ、コーディ……?」
「はい……先生」
俺とクロスアーミー先生は手を繋いで先生の部屋へと向かう。
石造りの壁の厚い部屋。俺の幽体離脱も通らない防音仕様。何のため何だろうか? 決まっている。今のためだ。
仮に声が漏れても良いんだがな。
「先生……」
先生のザラザラの革手袋が優しく貫頭衣の内側を撫でていく。
ん……。
グローリア~。
グローリア~。
グロォオオオオリァアアア?
お前の好きな先生だぞ? ほら、出てこいよ。
一緒に楽しもうぜぇ~?
俺はグローリアを閉じ込めた部屋のドアをドンドンと叩く。
早く出てこいよぉ。
俺は想像の手斧を左手に持ってドアを破る。
グローリア~。
いたぁ。
一緒にぃ、楽しもうぜぇ?
俺の目の前には血よりも赤い色に濡れたグローリアが居た。




