第49話 回航する悪意
結局、あの最低な月曜日の夜から高熱が出て、火・水・木と寝込む羽目になった。その間の看病には主にクロスアーミー先生が付いてくれた。
真っ赤だった視界も、だんだんと色を取り戻し、金曜日には動き回れる様になった。だが、念のためにと言う事で外出は禁じられた。
しかし、身体は運動を求めている。そりゃ、そうだ。4歳児だもの。
俺はふと、ベッドの下の階段の事を思い出す。
「……暇だし、行ってみるか……」
元々社畜の俺はやる事がないとそわそわして落ち着かない。今後の事とか考えると憂鬱なので、何かしていたら落ち着くだろうか? と思ったのだ。革のベルトのポーチに魔導石を3つ程入れて、布鎧を白い貫頭衣の上から着込む。
そして、ベッドを引き摺って移動し、カーペットを捲り上げる。木の蓋を開けて……中を覗き込む。預言者の像が下り階段に挟まっているが、この程度の隙間なら行けなくもないか。
トントン拍子で準備が出来た所に違和感すら感じるが、パットミ=ポリエステルちゃんから貰った魔導石の中に浮遊蝋燭もあるので、軽い気持ちで行ってみる……かな。
浮遊蝋燭は蝋燭ほどの火の灯が1時間ほど使用者の周囲を障害物を避ける様に飛ぶ小魔法だ。消費MPも10と俺でも使えるレベルなのだが、敢えて覚えるほど便利な魔法でもない。
ともあれ、革のポシェットの中から浮遊蝋燭の魔導石を2つ取り出して、それぞらの魔力回路を起動してあかりを灯す。残りの魔導石は対魔障壁1つ。
――――対魔障壁は魔法の力をある程度防ぐ小魔法で、同じく小魔法の火矢程度なら防げるが、同じく小魔法ながら火玉弾クラスになると威力は貫通する。ないよりはマシだけれども、その場に張り捨てなのでイマイチ使い勝手が悪い。
まぁ、月のあかりも有るだろうし……灯りがトーチ2つ分でも奥まで行かなければどうにかなるだろう。“狩人の五感”を使えば魔物の気配は分かるし、いざとなれば対魔障壁の魔導石を使ってトンズラで良いだろう。
仮に死んだら……死んでも良いか。こんなクズ男。その時はごめんねグローリア。
俺は階段へと足を踏み入れる。
預言者像をすり抜けた瞬間に空気が冷えるのを感じる。巨大な何者かの悍ましい吐息が身体を通り過ぎる。それが通過する瞬間、俺の皮膚にびっしりと鳥肌を産み付けた。
暗闇の中、目を慣らしつつ浮遊蝋燭を頼りに足を下へ下へと1段1段ゆっくりと降りて行く。
左手で石積みの壁面を触りつつ、右手で全面を警戒しながらゆっくりとゆっくりと進んでいく。
……。20段程降りた所で、階段の終わりが見えた気がした。
もう少し……もう少し……。
頭の周囲を回る浮遊蝋燭の灯火が1周する度に1段、また1段とゆっくりと降りていく。
……終点が見える。ふと灯火が眼前を通る。その灯りを通しても見る事が叶わない程の闇が見える。灯りを通しても見えない程の濃い魔素が、真っ黒な闇色の魔素が地の底に溜まっているのが分かる。
その終点には……。
逆さ吊りの青白い肌のナニカが居た。その肋骨は開いており、生きているようには見えない。それを知覚した時、姿勢を変えぬままに、足が勝手に上へ上へと上がっていった。ゆっくりと階段を後退る。
……。
口の中が渇く。
うっすらと見られている気がする。
その目線は徐々に近付いてくる気がする。
だが、狩人の五感には何の反応もない。仮に透明人間の魔物でも魔素だけは誤魔化しようが無い筈。が、ジリジリと何者かが近付いてくる感覚がある。もし、狩人の五感で感じられない何かを感じているならばそれはもう狩人の第六感とでも言うものだろう。
だが、しかし、俺の本能が危険を察知している。
……。
俺は足を止めて壁を背にする。
頭上も、足元も、右も左も正面も、何もない。
息を止めて物音を聴くべく耳に全神経を集中させる。
――ドクン。――ドクン。心臓の音しか聞こえない。
乾いた口の中に一気に息を運ぶ。
これはマズイ! ナニカが側に居る!
「やぁ、はじめまして……俺は今何処に居るか分かるかな?」
喉の奥から謎の声が聞こえる。
既に身体の中に誰かが……居る!
俺は全力で上へ向かって駆け出した。小さな預言者像の隙間を勢いに任せて通り抜ける。抜ける際に肩や腕を強か打ったが、そんなのは気にならない程の違和感が身体を駆け巡る。
「甘いよ、甘ぁーい。俺はお前の中に居るんだぜぇ? 走っても走っても逃げられないよぉ~」
喉の奥から謎の声が聞こえる。
俺は助けを求めるべく職員室へ走った。
今は真夜中。だが絶対に大人の誰かは居る筈だ……!
◇◇以下後書き◇◇
ガガガガガ! しまった! 字数の都合3,000文字越えちゃったので、加筆して分割したら……!
キリの良い話数で展開を大きく切り返す筈が……ずれちゃったじゃないかぁああああああ!
と言う訳で、悲しいので5話くらい連続更新します。
悲しい。




