第38話 ようこそ属国派へ!
「助かったぜ。まさかこの辺で鉄巨人なんか出るなんて想定してなかったからな……僕達はお父さんかお母さんは近くに居るかい?」
まだ数人が踞って方々で介抱が行われている中、隊長とおぼしき腕章を着けたスキンヘッドの男が手頃な石に腰かけたまま話し掛けてくる。
俺は咄嗟に返答が出来なかった。
「じゃあ君達が天使憑きの子供達か。まさかこんな森の奥まで子供だけで来るとは……な。だが俺達にとっては渡りに舟だ、歓迎しよう。俺達は君達の味方だ」
以前チロリ=ツンパカブリエルちゃんに注意されたな。ポーカーフェイスを学べと、ポーカーフェイス過ぎてもダメじゃねーか。と言うかこいつも反応で俺達の正体を見破る派か?。案外大人ってのはみんなこんな感じのスキルを持ってるのかも知れないな……。
「味方……? 帝国軍のあなた達が?」
おい、そこでそれを言っちゃダメだろ! チロリ=ツンパカブリエルちゃん!
「ああ、一応ロンドヴルーム国と帝国はまだ戦争をして居る訳じゃないから、害を成すつもりはない。確かに私達は侵略の準備のための砦の建設を命じられたのだが……同時に降伏を勧められるならば降伏するように交渉する権限も与えられている」
「成る程ね、でも私達は戦うわ! あなた達には負けないんだから!」
「いや、ごめん。チロリ=ツンパカブリエルちゃん? 現状見て啖呵切ってね。今、負傷しているとはいえ軍人10人に囲まれてるんだからね? 私達4歳児だからね?」
辺りを見回すと目に敵意もなく息も切れ切れだが、一応武装した軍人が俺達を取り囲んでいる。
「ああ、いや、流石に命の恩人を害する事はしない。君達は無事に帰す事を誓おう。おい、お前達、武器を置け……置けっ!」
周りの軍人達は無表情で武器を手放す。
「すまんな、この辺では鉄巨人なんて出ない筈なのに、突然襲われて気が立ってるんだ。折角作った砦もぶっ壊れちまったしな……。ともあれ、話し合いだ。もし出来るのならばロンドヴルームには降伏してもらえたら助かる。俺達は無駄な争いをしたい訳じゃないんだ」
鉄巨人……? 何か覚えが有りすぎるな。しかしまぁ黙っておこう。マッチポンプマッチポンプ……。
「じゃあ何で他の国々に侵略なんかしたのよ!」
スキンヘッドの隊長は左右を見渡す。目の合った兵士は首をかしげる。……どうも怪しいな
「……私は今回のロンドヴルーム侵略計画の件での交渉権は持つが、国の代表ではないからそれについては分からん。あくまで千人いる十人隊長の一人として言うのなら、降伏しなければ戦争となるのは確実だ。故にお互い血の流れない降伏を勧める。戦力が違いすぎるだろう?」
十人隊長か……、千人隊長やら将軍も居る帝国からしたら下ッぱも下ッぱだな。少し話を伸ばしてみるか……。
「ですが、ここでその話は出来ません。あなた方に国の話が出来ないように私にもその権限はないのですから」
「ははっ、凄い子供だな。さすが天使憑きだけある。まぁ私達も今此処で話をしようと言うのではない。誰か話の出来る大神官を紹介してくれるだけでも助かるのだ。そう言う交渉だよ」
「…………」
大神官は1人を除けば全員属国派だったか……。うかうか紹介出来ねーな。クロスアーミー先生に話したら折角助けたのにこの人達皆殺しにされそうだし……。ハイパワー・ナグルス先生はただの神官だし……。
「まぁいい、命を助けて貰っただけでめっけもんだ。お礼はこんなもんしかないが……受け取ってくれるか?」
隊長は懐から金貨を1枚取り出した。金貨1枚は100,000G、パンが1個50G前後だから日本の価値にして二十万円程となる。ウホッ! しかし、ここで買収される俺じゃない。
「いや、そんな物より情報が欲しい。帝国はいつ攻めてくる予定なんだ?」
…………。少し空気が固まる。言い過ぎたか? だがここでは引けない。
「それを言うとでも?」
スキンヘッドの隊長は交渉用の笑顔から一変し、真顔となる。
「俺としても折角救った人とは争いたくない。俺達に考える時間はあるか? と言う意味で聞いている」
スキンヘッドの隊長は限界まで目をそんな細くして、所謂殺気の様なモノを飛ばしてくる。
ふっふっふ、殺気? 睨み? そんなのは効かぁーん! 社畜の持っている恫喝に耐える忍耐力はその程度では落とせん。ふふん。と言うかこちとら命の恩人でい! 命の恩人の……しかも4歳児に何かする訳ないだろう……? 無いよね? 無いよな。無い……よな。
……と、睨み負けたスキンヘッドの隊長が元の笑顔に戻る。
「ふむ、やはりただの子供ではないのだな……良いだろう。折角救って貰ったんだ。腹を割って話そう。俺達は3年後の夏至の日にこの砦からの部隊を中心とした総攻撃をすると言われている。俺達は工作兵で、3年後の夏至の日迄に百人が収容可能な砦を作るように命令されている。その為に半年もかけて森を迂回してきたんだが……運がなかったな、俺達の任務は此処で終わりだ」
「……と言うと?」
「俺達の肌の色は何だ?」
スキンヘッドの隊長は今日一番の笑顔になる。
「白……あ!」
「そうだ、俺達は赤人じゃない。人種の違う俺達は任務失敗して戻る場所なんて無いんだ。そもそも此処に砦を作るのだって、現実的に考えて10人隊でやる仕事じゃねぇ。大方厄介払いだったんだろうよ。一月に一回来る筈の補給が一度も来てねぇしな。それでももしも成功させる事が出来たなら……と夢を見ていたが……」
「さっき覚めたよ。そこの木偶野郎のパンチでな」
スキンヘッドの隊長はくいと露天鉱床に顎を向けた。
「ああそうだ、おい、あの胴体を回収してこい。そのままにしておくと再生するぞ」
ギョッ! 胴体って鉄巨人のですよね?
「え? あれ、再生するんですか?」
「常識だな。1週間もしたらまた襲ってくるぞ」
あー、確実に犯人は俺達ですね。すいません。俺達が先週ほったらかして捨てていったのが再生して襲ってきたのね。計らずとも魔物をけしかける戦術を使ってしまったわ。と言うか常識? 常識なのか? なら……師匠はあれをわざと置き去りにしたのか……?
「……ともあれ、大神官を紹介してくれないならは私達は逃げる。適当な都市国家にでも亡命するさ。どうだ? 当てはあるか?」
「当ては無いけど、提案はあるよ。おじさん達、俺達に雇われない?」
驚くハゲの十人隊長の後方……遠くの木の枝で蜘蛛が何かを捕らえていた。




