第37話 ビルドアイアンゴーレム
「今日は1人で採集に行って貰います」
「はぁ」
師匠は何故か顔を壺に突っ込んだまま項垂れている。
「分かるかと思いますのでお伝えしますが、二日酔いと言う奴です。面目無いところです」おろろろろ。
「はぁ」
こう言っちゃ何だが、師匠を見ていると……立派な技術と信念がある反面「こんな大人にはなりたくない」と言う両極端な評価がある。天は二物を与えないと言う言葉がふと降りてきて胸にじんじんと染み込んでくる。
「ちょっと待ったぁーーー!」バーン!
「はあ?」
YOROZU修理店の入り口を見ると、扉を両手でバーンと開いたチロリ=ツンパカブリエルちゃんが大の字で立っていた。
「師匠! 私も一緒に行きます!」
「いや、俺の師匠だから、チロリ=ツンパカブリエルちゃんの師匠じゃないだろ。と言うか職場体験はどうした?」
「野菜が入荷しないのでお休みになったわよっ!」
「許可します」おろろろろ
「えー?」
壺に顔を突っ込んで居る師匠は力なく許可した。
いや、4歳児を保護者無しで森に行かせるって問題だからね?
しかも、チロリ=ツンパカブリエルちゃんも一緒って、保護責任って知ってる? まぁ良いけど……。
「いざとなったらこれを使って下さい」
師匠の手から水包の核がボロボロと溢れ落ちる。それらはみな光の粒々が煌めいていた。
「1個あたりMPが40粒入ってます。5個有れば多少遭難してもどうにかなるでしょう……ぐぅぇ。
日没近くなっても帰らなかったら探しにいきます。
今日は薬の材料を中心に集めて下さい……。木のケースは棚に有ります……」
そう言い終わると、師匠の腕はぽとと音を立てて床にへばった。
あ、力尽きた。
「仕方ない、行くか……」
俺達は背負い籠を背負って、チロリ=ツンパカブリエルちゃんはいつぞやの可愛い布の鞄を持って出掛ける準備をする。
◇ ◇ ◇ ◇
20分後、難なく西の門を抜けた俺達は無言のまま直進して西の森へと入って行く。うーん。今日は来たらダメと言った手前少し気まずい。
「……これが弟切草でこれが蛇の実の木でこれが……」
「もう籠の中沢山なんだけどこれ調合してみない?」
森の中なので手を繋いでデートと決め込んで歩く訳にもいかず、俺達は時々立ち止まっての採集をしつつ、ズンズンと森の奥まで来ていた。結果、籠の中はかなりパンパンだ。
「丁度樹液の出る木の前だし……やってみるか」
俺達は途中で拾った蓬とかの薬草類を手頃な石で擂り潰しつつ、樹液と混ぜて月桃の葉っぱで受けていく。流れ作業で延々と作り始めたら樹脂の軟膏だけ大量に出来てしまった。
そこで水包を見付けたので、マサカリ投法2球で仕留めた。結構石投げスキルも上がってきたかも知れない。と言うか師匠の言うように、森や魔物に対する恐怖感が薄れて身体の固さが抜けてるのが出ているのかも知れない。
“狩人の五感”があれば不意打ちされる可能性はほぼゼロだし、安心感をもって森に慣れると言う師匠の教えを守って居たら、案外4歳児でも保護者無しでどうにかなるのかも知れないな……。
ともあれ、俺達はレシピ通りに苔やら何やらを混ぜて傷薬も作った。傷薬に軟膏、これだけ作れば十分だろう。
……。
「ねぇ、コーディ」
「ん? 何? チロリ=ツンパカブリエルちゃん」
「奥の方から何か聞こえない?」
「…………? 聞こえないな」
「ちょっと進んでみない?」
「ああ、良いぞ」
俺達はガサガサと森の奥に進んでいく。
音はどんどん大きくなっていく。
「誰か戦ってるね、これ」
「そうだね……怖くない? チロリ=ツンパカブリエルちゃん」
「怖くないよ、と言うかその……傷薬とかを売れないかな? 戦ってる人に」
「あー、成る程ね。実に逞しいねチロリ=ツンパカブリエルちゃん」
……。
開けた場所に出ると、小高い丘が現れた。先週ほうほうのていで鉄を採取した擂り鉢状の露点鉱床……。
どーんどーんどーーーん!
地響きと共に複数回の爆音が腹の底まで響き渡る。1発1発が師匠の爆裂並の威力がある攻撃魔法だろう。こんなものを使わないといけない様な魔物は……心当たりがある。
「まさか」
俺は鉱床の斜面を駆け上がると、そこにはバラバラになっている鉄巨人と、仰向けに倒れている人々が10人程居た。
鉄巨人は全身が銀色に輝いていたが、手足や頭が千切れ飛んでおり、そのままでは動きそうにはなかったので、仰向けに倒れている人達を介抱する事にした。
「大丈夫ですか!? 俺達傷薬沢山持ってます! 今止血しますので堪えて下さい!」
「コーディ! こっちにも傷薬頂戴!」
「水癒!」
「光癒!」
……。
…………!
何とかその場に倒れていた10人位の人の手当ては終わった。師匠から貰った水包の核が無かったら何人かは助からなかったかもしれない。
傷の具合は明らかに鉄巨人に殴られた打撲や骨折が主だったのだが、顔面や頭を殴られている人の傷がかなり厳しかった。
顔面や頭を殴られた人達は回復魔法で治癒速度を加速させる程度の手助けしか出来なかったが、息を吹き返した人達が血抜きとか血がサラサラになる魔法の重ね掛けとかをして一先ずは危機を脱した。脳出血とか怖いもんね。その分出血が止まりにくくなるけど……。その辺は軟膏が活躍した。
そして、彼等は皆見慣れない軍服を着ていた。つまりはあれだ。西の森の帝国の砦……。うん。間違いない。
さて、彼等は赤人の帝国、敵国の人なのだが……。どうするか。




