第4話 天使の様な女の子
イケイケのねーちゃん神官の新歓はまだか。
「ねーちゃんはまらか!」
俺とグローリアは突然連れて来られた聖別幼育園のお遊戯場の様な場所でお山座りの1人待機をしている。
どうやら式典の準備があるらしく、例の自己紹介の後にハイパワー・ナグルス副園長先生はどっかに行ってしまったのだ。
お遊戯場の壁には8体の天使が空を縦横無尽に飛び回っている絵画があったが、7枚羽の天使は居なかった。
7枚羽の天使――――アイツは何のために俺をここに縛り付けてるのか。あの赤い糸は何なんだろうか。……コーデックスとは何だろうか?
これはいずれ調べる必要があるな……。身体は子供、頭は大人! 名案内困難!
「こなん!」
……。
暫くすると、ハイパワー・ナグルス先生に連れられて天使の様な子供達がずらずらと入ってくる。
うーん。美男美女、天使の様な女の子とはこの事を言うのか。
それぞれが俺の隣に並び始める。
――キャバクラか。
自嘲した様な渇いた笑いが鼻から漏れた。
すると、直ぐにハイパワー・ナグルス先生が話を切り出した。
「聖別幼育園へようこそいらっしゃいました! 天使様を身に宿す子供達よ、歓迎します。知っている方も居るとは思いますが、私はハイパワー・ナグルス副園長先生です。そして、園長先生ともう1人の副園長先生が出張で居ないので、代わりに街の大教会からケツワレール・ムクチ先生に来て貰いました」
「ケツワレール・ムクチです。ヨロシクお願いいたします」
あいつ……、帰ったんじゃなかったのか。
俺の目の前にはグローリアのケツを真っ二つにしたクソ神官がやる気無さそうに立っていた。
「と言う訳で、先生は暫く私とケツワレール先生だけなので、宜しくお願いしますね」
「「「おねがいしまーす!」」」
うん、これだこれ、子供達の元気な返事。いやー、癒されるなぁ。いや、俺も子供な訳だけども。
「それでは皆さんに憑いている天使様のお名前を言える子はいらっしゃいますか?」
「わたしジヴリール! ナナミ=ジブリールだよ!」
隣の栗色の髪の女の子が元気よく叫ぶ。見るからに西洋人の元気娘だ。そして絶世の美女。
「おお、そうですか。ナナミさんの中にはジブリール様が居らっしゃるのですね?」
「そーだよー!」
「いやはや、ジブリール様とは恐れ入ります。最高位の熾天使様でございましたね」
ハイパワーナグルス副園長はナナミちゃんの前に立って何やらお祈りを捧げている。
「他には現時点で天使様のお名前を言える方はいらっしゃいますか?」
周りの園児達の反応は鈍い。
「まだ目覚められていない方々が多いのですね」
ハイパワー・ナグルス先生はケツワレール先生に目配せを送る。
「では、讚美歌を歌います。先ずは私達が歌いますので、それを真似て頂ければと思います。ケツワレール先生!」
「コホン、では僭越ながら……スゥウウウウウ」
「主ゥウウウヨォオオオ! イェイイェウォウオオヲヲーウ!」
!!!???
ケツワレール先生はやたら美声だった。
「では、2番は皆さんも御一緒に……主よぉ~イェイイェイウォウウォウ!」
「「「いぇいいぇいうぉうぉ!」」」
俺を含む園児全員で讃美歌を歌う。
思ったよりも楽しい。
うーん。歌は良いなぁ。内容があれだが保育園児向けの歌なら仕方ないのか……。と言うかよくこんな時代に保育園なんかあるな……。
そして、ナナミちゃん可愛い。
(ナナミちゃんかーいい!)
「それでは、皆さんを今日から泊まる場所に連れていきますね。皆さんは1人で眠られますか?」
「「「はい!」」」
マジかよ。1人で寝た事ねーわ。どうなってるんだ中世的な世界……。
◇ ◇ ◇ ◇
後に聞いた話によると、ロンドヴルーム国の首都ロンドヴルームはその殆んどの住人がこの聖光教会の信者らしく、品行方正清潔の都として有名らしい。
――――そう、つまり。
子供が1人で眠れるくらい治安が良いらしい。
驚きである。
しかし、それだけではなく風呂にも入るし、ナイフとフォークも使う。トイレもただその辺に埋めるのではなく、上下水道もあり、一部は汲み取り式で回収人が居るそうな……。
何と進んだ文明! 前世の本で読んだ中世暗黒世界は何処に行った! 腐った肉を齧ってる世界の筈だぞ!
100%知ってる人しか居ない田舎の村ですら親に挟まれて寝てたのだ。この治安の良さ、この驚きは大きい。
そして、今更1人で寝られるかい! と言う事を言いたい。
……まぁ俺はグローリアと一緒ではあるんだがな。
「ねられるゅかい!」
ともあれ、俺とグローリアには1人部屋があてがわれた。
部屋の大きさは余情一間。広さは大体4畳半かな。壁には光を放つオッサンの絵画とそれを取り囲む天使達の置物が壁から生えて来ている。オッサンは預言者と言うらしい。
天使は像なのに預言者が絵画とかショボすぎるだろ。バランスの悪さに違和感すら感じる。
そしてこの部屋、隣の部屋は木製なのにこの部屋だけ石積の壁で、天井と壁にはやたらと沢山の採光窓がある。天井の採光窓にだけ硝子が填まっている。角部屋だし色々と仕掛けが隠されていないか疑うわ。
ゲームなら絶対に何か仕込んである。
ああ、そうそう。気になって色々と回ってみたが、何処を見渡しても7枚羽の天使のオブジェや絵はなかった。あれは何者だったのだろうか。
そもそも俺はここにいて良いのだろうか? 考える事は尽きない。ともあれ何か変な事を口走って藪蛇になっても困るので、俺からは何も言わないでおこう。
◇ ◇ ◇ ◇
ともあれ、此処に来て1週間。何となく日常には慣れてきた。
毎朝のお祈りの後は、代わり映えのない柔らかパンと牛乳の朝食。そして周りの天使憑きの天才児と一緒に昼食までの間に文字を習う。
それから少し豪華な昼飯を食べた後、午後は掃除と運動と歌の時間だ。夕方は具の殆んど無い野菜のスープを飲んで寝る。
食事に関しては田舎の方が量があったし、バリエーションも豊富だった。何せ季節の果物が毎日付くし、パンは村の竈で焼くから焼きたてホヤホヤ。
んでもって肉。かの贅沢品だってほぼ毎日出る。野菜なんて毎日8種類位あったわ。
農村は貧しいって印象があったけどそうでもないのか、それともここが貧しいのか……。それともそれとも貧しいから食べられないんじゃなくてただ宗教的な理由で質素なのか……。
ともあれ俺とグローリアはゆっくりとゆっくりとこの聖別幼育園へと馴染んでいった。
◇ ◇ ◇ ◇
・ワンポイントメモ
【熾天使】……天使の位階最高位! 1番偉い!