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題36話 幽体離脱

 原因は不明ではあるのだが、赤い紐の戒めが幾分か解けて多少の幽体離脱が出来る様になった俺は男のロマンである覗きを行うべく、夜の幼育園をさ迷っていた。


 舞台は春から初夏にかけて暖かさを増す聖別幼育園。さぞかし素敵な光景が広がっているに違いない。

(ちがいない!)


 ふっふっふ……。今日の犠牲者はお前だぁ!


(クロスアーミーしぇんしぇい!)


…………ええー。それやだなー。


 俺は覗く対象を探した結果、この幼育園には覗くべき妙齢の女性は居らず、園児しかいない事に気が付いた。まさに4歳児の発想に引っ張られていた事に気付く。


そもそも園児の部屋を覗き見てどうするよと正気に返って、クロスアーミー先生の部屋の前に立ち竦んでいたら、頭の中で何者かの恋心のような意思が働き、覗きたくもない中年男の部屋を盗み見るべく壁に顔を押し付けていた。


 言い訳ではないが、現代の思春期以降の状態でやってこそ覗き《デバガメ》は犯罪と言うが、4歳児の感覚ではただの悪戯なのだ。それに引っ張られているからして、俺は性犯罪者ではないよ? と声を大にして言い訳させていただきたい。


 さて、と開き直った俺はクロスアーミー先生の居る部屋の壁にめり込んで行く。せめて何か情報が得られたら良いが……。


 ズブズブとめり込む事40cm程、完全な暗闇である事からまだ壁の中何だろうが、何故かクロスアーミー先生の話し声だけが聞こえてくる。が、相手の声は聞こえない。



「お前がここに来るなんて珍しいな……10数年ぶりか。俺がまだ神官だった頃だったか」


(……)


「そうだ、あの頃はお前と……お前の兄貴と3人で……楽しかったな。そうそう、お前が武器屋で修行していて……兄貴は錬金術師、俺は神官だったな」


(……)


「そうそう、くっくっく……」


(……)


「いや、今更戻れねぇよ、俺の手はもう汚れに汚れてるからな」


(……)


「神殿騎士……か。今も昔も神殿長様には感謝している。神殿長様が居なかったら俺はまだあのクソ大神官の性奴隷やってただろうしな」


(……)


「俺はどれだけ惨めな事になろうが、泥水を啜ろうが、この国と神殿長様を護ってみせる。その為には手段を選ばない。もう引き返せないのさ、賭けたコインはもう俺の手を離れているのだから」


(……)


「ともかく、コーディ山田とグローリアを頼む。少しでも良い思い出を残させてやってくれ。アイツらは俺の犠牲の道連れだからな。もし……もしも、危機を切り抜けられるようなら……兄貴と一緒にアイツらを助けてやってくれ」


(……)


「明日だな、まぁ飲めよ……」


 ……あれ? これ聞いて良かったのかしら?


 幽体離脱を使い過ぎたのか、やたらと身体の力が抜けたので石の壁の前で座り込む。


 以外に半身程度でも幽体離脱は体力を使うな……。


 そこに足音を立ててパットミ=ポリエステルちゃんが通り掛かった。焦げ茶色の跳ね返りっ毛だらけのショートヘアー。ジト目。格好は白い絹の貫頭衣(せいふく)何だが所々に汚れたシワが入って小汚い。だが、性格はサバサバしているので仕事上では付き合いやすいタイプだとは思う。


「何しテんの? グローリアちゃん」


「あ、ああ。ちょっと疲れたから休憩かな?」


「ふーん。じゃあ部屋まで連れてってあげるよ」


「えっ、いいよ」


「気にすんなって、ほらよ」


「わわわっ」


 俺はパットミ=ポリエステルちゃんに抱き抱えられながら自室へと連れ込まれる。


 意外と着痩せするタイプなのね。

(たいぷなのねー)


 俺は部屋の中央にあるベッドの上まで運ばれて、抱き抱えられながらドスンと放り込まれる。その際ぎうと潰された。女の子の良い匂いが……濃かった。うーん、生活臭。体臭。


「水汲んでくる?」


 パットミ=ポリエステルちゃんに心配している素振りはない。実に無表情で言い放った。


「いいです」


「汲んでくる」


 聞いてねーな。


 パットミ=ポリエステルちゃんは部屋の外に出ていった。


「はー」

(はー)


部屋の外からは虫の音が聞こえる。


りーりー。


この部屋は石で出来ているので他の部屋よりも冷たい。冬は寒そうだが、夏は空調要らずだろう。


「持ってきたよ」


パットミ=ポリエステルちゃんがずいと木のコップに汲んだ水を突き出してくる。


「ありがとう」


好意は飲み干さなきゃな。ごくごく


「お前、その身体で恋とかするのか?」


ぶほっ!


「ぐふっ! げふっ!」


「男に恋するのか? 女に恋するのか?」


「ちょ、直球だね」


「ゲロゲロ=ソフィエルちゃんがお前の事が気になると言っていたぞ。コーディ山田も、グローリアちゃんも」


えー……。


「お前、身体は男だが、グローリアは女でコーディ山田が男だろ? 天使の方が男ってのはおかしくないか?」


確かに、それはある。


「確かにな。だが、性別が肉体と精神で異なる例は沢山有るぞ、その可能性は無いのか?」


「お前がそう思うならそれで良い。私は帰る」


そう言うとパットミ=ポリエステルちゃんは帰っていった。


うーん。パットミ=ポリエステルちゃんって何考えて居るかわからないし、掴み所が無いんだよな。


「グローリアが天使の可能性も有る……か」


だからと言って俺の生き方が変わる訳でもないんだがな。


俺は寝た。


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