第34話 戦力差 後編[ディスペル]
……寝付けない。前世の時もそうだった。仕事が有ると感じると眠れないのだ。ついつい起きられるだけ起きて仕事してしまう……。結局それで死んでしまったんだがな。適度に休んだ方が仕事は進む。これは教訓として取っておこう。使う気はないが。
……考える。考えよう。まだ夜は長い。取り敢えず先程も確認したのだが、もう少しだけ復習しておく。
魔法があるこの世界では基本的な戦法が違う。遠距離攻撃が苛烈かつ広範囲で、近距離戦闘ですらバフ・デバフの掛け合いから始まる。小魔法の牽制と戦術も戦法も現代とは大違いだった。
集団戦に於いてもそれは同じで、基本は魔法への対処が基本的な優先事項となる。ステータス異常系を掛けられたら抵抗して、抵抗しきれない時には回復し、広範囲殺傷魔法は魔法防御で対処する。これらは大体隊長が行う。
つまり、隊長の質や数が揃えられないとそもそも勝負にならないと言う事だ。では現在の状況から出発するとして、勝機は何処にあるのか?
赤人の帝国は去年一昨年と占領した国が2つ有る為に常に半分程の戦力を2都市に裂かれると言うデメリットがある。問題は統治が安定して全兵力が傾けられる様になってからだ。そうなると、もう手に負えない。
占領が安定するまでには結構な時間が掛かると言うが……。状況は厳しく何年持つかどうか。
そうなると、やはり早めに[預言者]を呼び出して、“未来の分かる羊皮紙本”を手に入れる事。そして水の都ヴェネチアと同盟を結んで、占領国にいる赤人の帝国軍を個別に撃破していく……位しかないのか。
間にミッドウェーが無ければ勝てるかな。
でも生産物量が桁違い何だよな……。
しかし、一応は預言者を呼び出すのは最終手段として、それ以外でも出来る様に考えてみるか。幸いにまだ少しは時間がある。
……。
「コーディ山田さん、宜しいですか?」
ふと、自室の外からの声に気付く。
「どうぞ」
俺はドアの前まで行って閂を外した。
「どうも、こんばんは」
疲れた顔をしたハイパワー・ナグルス先生が部屋のドアを開けて来た。
「今日はすまんな。相談もなしにカミングアウトしてしまって」
「良いんですよ。コーディ山田さんも、あの発言の裏には相当な葛藤があったでしょう。心中お察しします。聖職者として、お悩みの力になれなかった事を悔やみます」
「そう言っていただければ助かります。あと、あの場では言えなかった俺の立場ですが、一応、他の天使憑きの同級生達を護ると言う立場は変わりません。いざとなったら接続型乱数転移でみんなまとめて逃げたいと思っています。そして、ギリギリまで預言者を呼ばなくても済むような手段を探してはみます。故に伝統派寄りの急進派です」
「ありがとうございます。それだけ聞けるのならば安心です」
「所で今日は……?」
「ああ、今のお話が出来たらもう十分です。あとは、これですが……何か見えますか?」
ハイパワー・ナグルス先生が左手を差し出してきた。
「何かって……あ! 赤い紐が見えない!」
「やはり、無くなっていましたか。いつの間にかに見えなくなっていたので気になっては居たのですが……。コーディ山田さんは変わり有りますか?」
「ああ、ある。いつの間にかに、また幽体離脱が上半身だけ出来るようになってた。それで、この身体を縛る赤い紐が多少自由が効くようになっていたんだ」
俺は左手の薬指から赤い紐を伸ばして、ハイパワー・ナグルス先生の顔の前に持っていく……が、見えている様子がない。
「成る程……。何のタイミングであの紐が外れたのか知りませんが、あの紐の事も調べておいた方が良いかもしれませんね。何かの呪いか魔法だった場合に備えて解除でも掛けて見ます?」
「出来るならお願いします」
「ではいきます……」
「今ですか」
「
消防署の方から来たれ
そこの角を曲がれ
幸運の壺・ポケットティッシュ・布教の冊子
三種の神器を解除せん……解除!」
ハイパワー・ナグルス先生の日本語詠唱の後に、先生の右手から青白い光が放たれた。が、蚊でも払うような動きをした赤い紐に当たって霧散した。そして、赤い紐が動いた際に身体中の力が持っていかれた気がした。
「む! 何かの力に弾かれました。もしかしたら何かの呪いかもしれません」
「あ、そう? でも多分大丈夫じゃないかな? 悪い感じはしないしってか日本語の呪文試してみたんですね?」
「あ、はい。こないだのアドバイスの後、原稿用紙120枚にアニソン綴って覚えました。もう領域増やすのは無理かと思ってましたが、何とかいけました。もし宜しければコーディ山田さんにも中魔法の解除教えますよ」
「ああ今は領域少ないから、後で頼みますね……」
俺は適当に相槌を打って、ハイパワー・ナグルス先生と雑談して帰した。
――――あの赤い紐、意思があって俺の身体を縛ってやがる。
そして、俺の身体の力を使って解除を弾きやがった。
“悪い感じはしない”これはハイパワー・ナグルス先生に吐いた初めての嘘だった。




