第31話 決意と俺と
朝、サイコロの形に彩られた朝日に目覚めた俺は、預言者の壁画に挨拶しつつ朝の身支度を行う。そして、馴れ親しんだお遊戯室へと向かう。
「おはよー!グローリアちゃん」
「おはよう。チロリ=ツンパカブリエルちゃん」
……。
“は? コーディ? 何挨拶の邪魔してんの?”
「悪いな」
「わるいなー」
俺は立ち止まるチロリ=ツンパカブリエルちゃんの頭に手を置いて通り過ぎる。
「な……何よアイツ!」
「あ、おはよう。グローリアちゃん……」
「おはよう。ゲロゲロ=ソフィエルちゃん。良い朝だね」
ゲロゲロ=ソフィエルちゃんも頭をなでなでして通り過ぎる。
鳩が豆鉄砲喰らった顔ってのは目と口が丸くなるのか。
俺はお遊戯室へと入る。そして自席に座って深呼吸をした。
ふぅ。
何となく落ち着かない。ああ、素数を数えよう。123456789。ん? 自然数だこれ。慣れない事はするもんじゃないな。
「するもんじゃないなー」
そんなこんなで教会の鐘が鳴り、程なくしてハイパワー・ナグルス先生とクロスアーミー先生がお遊戯室に入ってくる。いつもの様に日直が園児達に号令をかける。
「気を付けピッ」
「礼!」
「「「お早うございます!!!」」」
朝のルーチンの途中ではあるが、俺は手を挙げて先生方の前に出ていく。
ざわざーわ
「グロ……コーディ?」
「グローリアちゃん?」
園児達の前に出る俺。背後から俺の行動に疑問を持つ声が聞こえる。
……息を整える。
ふぅ。
……よし。
「この場を借りまして先生達と天使憑きの皆さんにお話があります。今この国が置かれている状況、そして“伝統派”“急進派”“属国派”とその未来の話です。それと私自身のお話もさせて貰えたらと思います」
………………!!!!
ザワッとしたさざなみがお遊戯室を反響しながら走る。
クロスアーミー先生が口を開いた。
「ハイパワー・ナグルス先生が良ければ彼に話をさせたいと思いますが、どうですか?」
「は、はい。えー……」
ハイパワー・ナグルス先生はチラチラと此方を窺って「何言ってるんだお前は」みたいな事を目線で伝えてくる。
「ハイパワー・ナグルス先生はどうお思いか?」
クロスアーミー先生の凛とした問い返しにハイパワー・ナグルス先生は取り乱し、屈した形で俺の発言を認めた。
「い、良いんじゃにゃいでしょうか」
おおう、ここで噛むか。
俺は社畜時代のプレゼンテーションを思い出しながら演説を始める。
「では、話をさせていただきます。先ず、俺は“ギテンシ”コーディ山田。グローリアの身体に憑いている者です。皆さんの天使は滅多に表に出てくる事が無く、皆さんとの会話の中で存在が確認されているとありますが、俺はグローリアの身体もこうして動かす事が出来ます」
天使憑きの園児達から「おー」と実感の込もった声が上がる。
「そして俺は過去の“羊皮紙本”の内容を見る事が出来ます。“羊皮紙本”とは、預言者の持つあの預言の本の事です。不完全なので過去の概要程度しか分かりませんが……」
!!!!
「「コーデックスのコーディ!」「コーデックス?」」
「米粒付いてる!「預言者……?」「グローリア!」ざわざわ」
園児達の反応は様々だ。
「そして、俺は今日より“伝統派”寄りの“急進派”として教会に協力を申し入れる! 来る日は皆で協力して乗り越えられたらと思っている。どうでしょうか、皆さん。危機は把握しているでしょう? どうでしょうか、ハイパワー・ナグルス先生、クロスアーミー・グロースター先生!」
俺は慣れない演説に気分は高揚しつつも、手応えを感じる。
…………。
クロスアーミー先生は悪い笑いが顔に出ている。
ハイパワー・ナグルス先生は狼狽えている。
同級生達は……呆けている。
……ダメか?
「……私、やります。コーディ山田さん」
そんな空気の中で、決意した様にゲロゲロ=ソフィエルちゃんが手を挙げた。
それを見てチロリ=ツンパカブリエルちゃんが出遅れたと言う顔をして手を挙げた。
「ったく、しゃーねーな」
パットミ=ポリエステルちゃんも面倒臭そうに手を挙げる。
そして、ナナミ=ジブリールちゃん、その他諸々と手を挙げる。
「くくくっ……ハイパワー・ナグルス先生。私は良いと思いますよ。いっそのこと彼等も我々の仲間に入れて大神官議会会議でも出したらいい……ふははっ、なぁ? コーディ君もそう思うだろう?」
「……ええ、出来るならばそうさせて貰います。何をしてでも天使憑きの仲間達は俺が護る!」
前世のスキルを使えばまとまらない会議もお手のものだからな。いや、言い過ぎた。お手のものではない。
「ちょっと! 何勝手に護ってんのよ! 一方的に護られるのも癪なのよ、コーディ! 私がグローリアちゃんを護るわ!」
「ちょっと! 後から手を挙げてしゃしゃり出ないでくれる? グローリアちゃんを護るのはアタシよ!」
チロリ=ツンパカブリエルちゃんとゲロゲロ=ソフィエルちゃんが素に戻って、でもどこか仲良さそうに争っている。
女優さん、メイク落ちてますよ。
「あれー、チロリ=ツンパカブリエルちゃんとゲロゲロ=ソフィエルちゃんってそんなキャラでしたっけ?」
「くくっ……、ハイパワー・ナグルス先生の眼は木の虚か何かと存じます。女は何歳でも女優なのです」
「おい、コーディ!」
「何ですか?クロスアーミー先生」
「お前が皆を纏めろ。子供だからってもう遠慮はなしだ。我クロスアーミー・グロースターが神殿騎士として命ずる。“ギテンシ”コーディ山田は隊長として、責任をもって“義天使隊”を創設せよ」
クロスアーミー先生は右手でドンと胸を叩いて、今の口上が神の宣誓である事を示した。
……ゾクリと背中を舐められる様な感触が走る。
「部隊の存在目的はロンドヴルームの防衛。俺達のクソ会議に挙げる提案や、報告があれば獣皮紙で報告しろ。武力の保持と行使も認めよう。身分は神殿騎士の私設部隊に準じて扱う。いいな?」
「ああ、……いや、はい。クロスアーミー先生」
「宜しい。基本的に有事でなければ部隊の活動日は火水とする。木金は普段通りに幼育園、土日は職場体験、月曜日は休みだ。期待しているぞ、コーディ山田隊長」
隠しきれない笑みを溢してクロスアーミー先生はお遊戯室を去っていった。
こうして俺は齢4歳にして、ロンドヴルーム国神殿騎士直属の義天使隊の隊長となった。




